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《Ken Sway Kenと管理者の【緊急事態条項等、憲法改悪阻止】》
《【労働教育】ブラック企業の現状と求められる労働法教育の実践/今野 晴貴(NPO法人POSSE代表)》
この10年ほどで「ブラック企業」という言葉は、すっかり世の中に定着した。
若者を使い潰し、酷い働かせ方をする企業があるという事は、今や多くの人々が知っている。政府の対策も不十分ながら進んでいるといえる。しかし私が代表を務めるNPO法人POSSEの労働相談窓口には、今でもブラック企業を思わせる酷い内容の相談が数多く寄せられている。むしろブラック企業の手口が巧妙化し、脱法的手法が広がる事によって、働き手の人権が蹂躙されているケースが増えている。ブラック企業による被害は拡大し続けているのだ。本稿では、労働相談の現場から見えるブラック企業の現状や特徴を整理した上で、若者の職業生活や人権を守るために必要な労働法教育の実践について考えたい。
1 近年の典型的な事例
新卒で働き始めた若者からの労働相談で典型的なのが、次のような事例だ。
大学卒業後、大手住宅メーカーに営業職として就職したAさん。入社の際、契約書を交わす段階になって、会社から「営業職には残業代が出ない。代わりに業績手当がつく。」という説明を受けた。受け取った労働条件通知書には「事業場外みなし労働時間制」と書かれており、実際に働いた時間とは関係なく「みなし労働時間」によって給与が計算されるという。
応募する際、求人サイトで見た情報には、そんなことは書かれていなかったし、面接や内定式でも全く聞いたことがなかった。先輩に聞いてみると、「営業じゃ、これが当たり前なのだよ」と教えられ、Aさんは「そういうものか」と納得した。
実際に働き始めると、朝8時から21時まで働く毎日だった。残業時間は月80時間を超えていたが、どれだけ働こうとも業績手当の3万円以外に残業代が支払われる事は無かった。
長時間労働を続けた結果、Aさんは徐々に体調を崩し、どうしても起きることができずに仕事を休む日が増えてしまった。心療内科に行ったところ「適応障害」と診断され、退職を余儀なくされた。このように「求人情報と実態の労働条件がかけ離れていた」と話す相談者は非常に多い。新卒者の知識不足に付け込んで募集の際には労働条件を誤魔化しておいて、いざ契約の段階になって引き返す事ができなくなってから本当の条件を伝え、同意させるのだ。裁量労働制や固定残業代など新卒者には馴染みのない制度を悪用し、納得させていることも多い。騙して人材を集めるこのような手法を私達は「求人詐欺」と呼び、問題化してきた。人手不足が顕著になる中、益々、深刻化している問題だ。
求人票に「月給30万円」と書かれていたのに、実際には、そこに固定残業代が含まれており、基本給15万円と残業代分15万円の合計であったというようなケースもある。
何故このような求人詐欺が蔓延しているのだろうか。
背景には、次にみるようなブラック企業の労務管理戦略がある。
2 ブラック企業の労務管理戦略
ブラック企業の最大の特徴は、「大量募集・大量離職」にある。常に大量に採用した上で、労働者を振るいにかける。そして「使える者」だけを残して、それ以外の者は辞めさせる。これによって人材の「選別」を行うのだ。選別の目的は、より体力のある者や、不払い残業等の違法行為を我慢する者、能力が高い者を残す事にある。また、こうした選別によって、生き残っている社員に対して、「次は自分が辞めさせられるかもしれない」という恐怖を与えることができる。このため、選別を行うブラック企業の社内では、常に上司の言葉が絶対である。時には暴力すらもまかり通るような圧迫体質であることが多い。
この生き残り競争の中で、抵抗できない状況に追い込まれた若者達に過酷な長時間労働が課される。一方でブラック企業は、選別の結果、不要と判断した社員に対し、戦略的・意図的にパワーハラスメントを行う。社員を苛めて意図的に鬱病にする事で「自己都合退職」に追い込むのだ。自ら辞めさせる事ができれば、企業には法律上の責任がないように「偽装」できるためだ。そして、このような選別を乗り越えて「生き残った」社員達を「使い潰す」ことによって、利益を最大限に高めようとする。ブラック企業では、長時間の不払い残業を「違法でないように見せかける」ために、様々な「工夫」が行われている。
「管理監督者」「固定残業代」「裁量労働制」等と称し、「合法」を装うのである。
こうした手段を用いて「安く、長く」働かせる事により、利益を最大化しようとするのがブラック企業だ。この結果、心身に支障をきたす社員が続出するが、それでもかまわない。
再び「大量募集」により補充すればよい。このような人権無視の労務管理手法によって、短いスパンで心身を壊し、鬱病等に罹患し、退職する若者が後を絶たない。
このようにブラック企業は、「安く、長く、身体を壊すまで」若者を酷使する。
過酷な状況に耐えかねて、いざ辞めようと思っても、簡単には辞めさせてもらえない。
利益を最大化するために、人員を最小限に絞って人件費を抑えている事が多いからだ。
そこで「辞めるのは無責任だ」「代わりを見つけてこい」と圧力をかけ、職場に縛りつけようとするのだ。このような労務管理は、企業にとっては、ある種の「合理的な」経営方針である。ブラック企業は、IT、小売、介護等、労働集約的なサービス業に多い。
これらの業種において急成長を遂げた企業の根幹には、このような「大量使い潰し」を織り込んだ労務管理のシステムがある。いわば若者を使い潰す事によって業績を高めるという経営モデルだ。そして、このような労務管理戦略が取られるようになった背景には、労働過程における「単純化、定式化、マニュアル化」がある。例えば外食チェーン店では、メニューやキャンペーンの内容は本部が企画しており、店舗では、それらをマニュアル通りに遂行する事が求められる。調理の仕方もマニュアル化され、材料の調達も本部の流通システムによって管理される。こうした産業では、社員を育成し、魅力のある商品やサービスを提供する事によって業績を向上させる事ではなく、如何に社員を「安く、長く」働かせるかによって利益を生み出そうとする傾向があるのだ。そして、ここに求人詐欺が蔓延する原因がある。社員を「安く、長く」働かせる事によって利益を追求する経営手法の下では、例え人手不足で労働力が足りないからといっても、賃金等の労働条件を大幅に向上させる事はできない。それをすれば、利益が圧迫されてしまうからだ。
労働条件を上げる事はできないが、人手は集めないといけない。
そこで好条件を装う動機が生まれるのだ。
3 労働法教育の必要性
こうした中で、若者の職業生活や人権を守るためには何が求められるだろうか。
先ず考えられるのが、法規制や行政による取締りを強化することによってブラック企業を規制することだ。労働時間の規制を強化したり、虚偽の内容で求人を行った企業に罰則を課したりする事等が考えられる。だが、それだけでは不十分だ。確かに法規制や取締りを強化することは重要だが、どれだけ厳しい法律を制定しても、それが守られなければ意味はない。現在の法律においても労働者を保護するために様々な規制が設けられているが、現実には守られていないことが多い。例えば固定残業代や裁量労働制を適用するためには様々な要件があるが、実際には、違法な運用が蔓延っている。労働者が会社に言いくるめられ、法律を守らせる事ができなければ、結局のところ高い効果は望めないのだ。
また入社前にブラック企業を「見分ける」というアプローチにも限界がある。
高待遇を装った求人票から、どれがブラック企業なのかを見分けるのは困難だ。
また、なかなか内定を得られない場合等は、ブラック企業の疑いがあっても入社せざるを得ないこともある。「見分ける」ことよりも、ブラック企業に入ってしまったときに何ができるかを周知することの方が重要である。そこで、求められるのが、学校教育の現場における労働法教育の実施である。といっても単に労働法の内容を教える事が重要なのではない。
弱い立場に置かれた労働者を守るための法律があり、ブラック企業に入ってしまっても、労働法を活用する事により解決できる可能性がある事を教える事が重要なのだ。
実際、ブラック企業に入ってしまっても、労働法や労働組合を活用することにより解決させることができた事例は数多い。反対に会社が労働法違反をしたとしても、労働者自身が行動を起こさなければ改善させることはできない。違法行為があったとしても、自動的に国家が取り締まって改善させてくれる訳ではないのである。労働法上の権利は「主張しなければ実現しない」ものなのだ。現行の学校教育では、このような事を教えられる機会は殆んどないだろう。その結果、就職後に賃金不払や退職強要等、明らかに違法性のある行為に直面しても泣き寝入りしてしまう事が少なくない。この事が、ブラック企業が好き勝手な事をできてしまう一つの要因になっている。NPO法人POSSEでは、このような問題意識から、労働法教育事業を10年以上続けている。教員が授業で使用することを想定した「知ろう!使おう!労働法」というテキストを作成してホームページに無料で公開すると共に、高校や大学にスタッフが赴いて出張授業を行っている。私達の出張授業を参考に、教員が自ら労働法の授業を行うようになったという学校も少なくない。
4 大切なのは知識よりマインド
私達が高校や大学で労働法の授業を行うときに意識しているのは、学生達が将来、企業による違法行為や職場内のトラブルに直面した際に、法律上の権利を行使できるようになることである。そのために権利があることだけでなく、その権利を、どのように行使できるかを伝えるようにしている。つまり労働法の「使い方」である。労働法の「使い方」を知っている人は大人でも少ない。どんな法律があるか、どんな権利が保障されているかを知っていたとしても、実際にその状況に直面したときに法律を活用できるとは限らない。
「残業代を受け取る権利がある」ということを知っていても、実際に残業代が支払われない場合に、どうしたらいいかということが分からないと知識は役に立たないのだ。
そこで出張授業では、実際に会社と交渉して問題を解決した事例等を紹介し、どのように権利を行使することができるのかを伝えている。労働時間の記録を付ける等、何かあったときのために証拠を残しておくことの大切さも教えている。少なくとも、困ったときには、労働組合やNPO等の専門家に相談する事によって解決できる可能性があるという事を覚えておいてもらう事が重要だ。「会社の言うことが絶対ではない」という点も強調している。
ブラック企業では、「ついて来れないお前が悪い」等と叱責を繰り返され、労働者が自己責任を内面化していることが少なくない。「自分が悪い」と思い込まされてしまうと、法的な権利を行使しよう等とは思えなくなってしまう。そうならないように、違法な働かせ方を強要する企業がある事を知ってもらい、「会社の常識」や「業界の常識」が正しいとは限らない事を認識してもらう。予め注意を喚起しておくことにより、実際に問題に直面した際に会社の言うことを鵜呑みにせずに外部の団体等に相談してみようと思ってもらえるかもしれない。更に広げて言えば、学生達に「自分達が権利の主体なのだ」という認識を持ってもらいたいと考えている。労働法教育の実践を通じて、弁護士や労働組合に「助けてもらう」のではなく、「自分達も権利を行使すれば会社や社会の状況をよくしていけるのだ」という感覚を養うことができれば、将来の民主主義社会を担う若者を育成するという観点からも望ましいものだろう。この点では、若い労働者がユニオンに集い労働条件を改善させた事例等を紹介する事が効果的だ。このように権利行使への意識やマインドを培うことが労働法教育の肝であるといえる。今求められているのは、このような労働法教育の実践なのではないだろうか。(基本文献-じんけん(滋賀県人権センター発行)/管理者:部分編集)
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