安倍政権の破滅的リスクと参議院選挙の展望(16)

安倍政権の破滅的リスクと参議院選挙の展望(16)


《【アベノミクス海外評価1】FTコラムニストが読み解くアベノミクス:核心は民間需要の不足》
「FT」とは「The Financial Times」の略でイギリスの国内外の経済・金融・企業や市場関連を中心としたニュースを掲載・発行している著名な日刊新聞である。この「FT」を昨年7月に日本経済新聞が買収し現在、一体的企業経営がなされている。この「FT」のチーフ・エコノミクス・コメンテイターであるマーティン・ウルフ氏が著した「アベノミクスの根本的問題点」等について、私の「経済政策の体もなしていない」というほど厳しい表現は為していないものの「問題の着眼点とデフレ不況の脱却策のポイント」等において殆ど共感するもので、当然ながら私以上に、よく整理され論理性も高いので、皆さんに紹介したい。
<アベノミクス:核心は民間需要の不足>
2012年12月から日本の首相を務めている安倍晋三氏の名に因み「アベノミクス」として知られる政策は、日本経済の再活性化を図る大胆な試みだった。そのアベノミクスには3本の「矢」がある。財政政策、金融政策、成長戦略だ。この3本の矢は、安倍氏が約束した再生をもたらすのか。残念ながら、それはありそうにない。3本の矢の内、最も強く放たれたのは金融政策だ。日本銀行は13年4月に開始した量的・質的金融緩和の下、同年第1四半期末時点で国内総生産(GDP)比34%の規模だったバランスシートを2年半で同73%にまで拡大した。GDP比でみた場合、日銀のバランスシートは米連邦準備理事会(FRB)、欧州中央銀行(ECB)、イングランド銀行を大きく上回っている。しかし財政政策の矢は放たれていない。国際通貨基金(IMF)によると、13年の日本の財政拡大は景気循環要因調整後でGDPの0.4%に過ぎない。同調整後の財政赤字は14年、同年春の消費税率5%から8%への引き上げという誤った政策を主因としてGDP比1.3%減少している。15年も同様の緊縮となる見通しだ。そして3本目の矢、構造改革はごく控えめに留まっている。政府は農協改革を行った。米国主導の環太平洋経済連携協定(TPP)で自由化にも応じた。エネルギーと税制の改革でも中程度の前進は果たした。しかし女性の機会拡大は遅々としている。移民の受け入れ拡大は概ねタブーのままだ。労働市場も正規雇用と非正規雇用の格差が定着し二極化したままになっている。これまでのところの結果はどうなのか。インフレ率に関しては、日本は小幅に前進した。15年11月までの1年間の物価上昇率(食料品、アルコール飲料、エネルギーを除く)は0.9%と依然、目標の2%を大きく下回っている。生産活動に関しても結果は期待外れだ。15年第3四半期までの1年間に実質GDPは1.7%増えた。しかし安倍氏が首相に就任した12年末から15年第3四半期までの間に、日本経済は実質ベースで2.4%しか成長していない。実質GDPは08年第1四半期と同等の水準にすぎない。根本的な疑問は、日本経済を苦しめているものをアベノミクスが正しく特定しているかどうかだ。労働市場はすばらしい状態にある。失業率は3%台前半とどまっている。労働力が減っていることを考慮すれば経済成長率も悪くはない。我々の分析によれば労働者1人当たりGDPの成長率は2000~10年の年率1.5%から10~15年の同2%に上昇している。どちらの数字も高所得国の最上位にある主要7カ国(G7)中の最高だ。IMFによると、購買力平価ベースで14年の日本の1人当たりGDPは米国の水準の69%にすぎず、G7の中で下にはイタリアしかいない。抜本的改革が成長加速に繋がる可能性はある。しかし労働者1人当たりGDPで日本が1.5%前後を超える年間成長率を持続するだけでも並々ならぬことだ。その場合でもなお、大規模な移民受け入れなしでは年間成長率は1%に留まり、思い描いている2%を大きく下回ることになる。日本銀行によると、現在の潜在成長率は0.5%に過ぎない。
■デフレ拭いきれず
 となると日本の問題は供給ではない―あるいは、もしそうだとしても根因は労働力の減少だ。真の問題は民間需要の弱さにある。その表れが民間部門の巨額の資金余剰、すなわち民間投資に対する民間貯蓄の超過だ。この超過は1990年代半ば以降、GDP比5~14%の範囲で推移している。人口が減少している国は、家計の最大の投資である住宅の新設を必要としない。従って驚くまでもなく、家計の投資は1990年代初めのGDP比7%から現在は同4%にまで低下している。この家計投資の減少が家計貯蓄率の低下を相殺してきた。その結果が家計の資金余剰の継続だ。企業部門の資金余剰は更に大きい。そのGDP比は2001~13年の平均で7%、ピークの09年と10年には9%に及んだ。この企業の資金余剰は内部留保の強さによるもので、2000年代初頭以降の平均で国民所得の22%に達している。一方、企業の総投資は緩やかな下降線を辿り、同じ期間の平均でGDP比14%となっている。しかし、それでも投資率は他のG7諸国を大きく上回る。それに相対する借り手は政府だ。公的債務は1990年のGDP比67%から2015年の同246%へと急増し、純債務のGDP比は13%から126%へ上昇した。それでもなお、赤字財政の継続と超低金利にも関わらず緩やかなデフレを拭いきれていない。日銀による低利国債の買い入れが民間部門の巨額の資金余剰の解消に繋がることは、およそ考えにくい。
■内部留保を賃金と税へ
 では、どうすべきなのか。まず1つの選択肢は、現状の大幅な赤字財政と日銀の国債買い入れを継続し、民間部門の余剰資金が早々に消えるのを期待する事だ。しかし残念ながら、そうなる可能性はおよそ乏しい。例え、そうなったとしても財政赤字を安全になくす事ができない。この政策は、財政赤字の恒常的なマネタイゼーション(中央銀行が政府の発行する国債を引き受けて財政赤字を穴埋めすること)に行き着く結果になる。2つ目の選択肢は、政策が実際にマネタイゼーションであるという事を認める事だ。日銀は財政ファイナンス、つまり家計への移転について政府に同意するだろう。その意思はインフレ目標の達成まで続く。更に加えて公的部門の債務に覆われた日本では債務負担の軽減を見据えて、より高いインフレ目標を再設定する事もできる。3つ目の選択肢は、厳格な緊縮財政だ。民間部門が国家財政の健全化を認識して過剰な貯蓄を減らすことになる-という論理だ。しかし日本では極めて現実味が薄いようにみえる。むしろ深い景気後退に行き着く可能性の方がはるかに高い。4つ目の選択肢は、経常収支の黒字拡大を通じて過剰な貯蓄を輸出することだ。これは、まさしくドイツがしたことだ。安倍氏の首相就任以降、実質実効為替レートは約30%の円安に振れている。この策だと日銀が外国債券の買い入れで貢献できる。あるいは政府が日本国債を売却して得た資金で政府系ファンドを設立するという手もある。しかし十分な規模で行われた場合、このような政策は世界の不均衡の悪化も引き起こす。そうなると国外で不興を買うことになる。5つ目の選択肢は、民間部門の慢性的な貯蓄過剰に真正面から切り込むことだ。そのためには先ず日本が貯蓄をし過ぎていることを認識しなければならない。従って消費増税は為すべき事の真逆になる。日本企業の過剰な内部留保を賃金と税に移していくことが、最終的に構造的な貯蓄過剰の解消に繋がる。例えば減価償却引当金を大幅に減らすという方法がある。コーポレートガバナンス(企業統治)改革も企業収益の分配の拡大に繋がり得る。更にもう1つの可能性として賃上げがある。要するに「供給でなく需要が重要なのだ、愚か者」ということだ。民間、特に企業部門の構造的な貯蓄過剰が政府を赤字財政に向かわせて債務が膨らんでいる。アベノミクスは、この根底にある現実を認識していない。日本は民間の余剰資金を輸出するか除去するか、いずれかの方法で余剰を相殺しなければならない。これこそが最大の課題だ。最初のステップは核心にある問題、すなわち民間需要の不足という問題を認識することだ。 
そうして初めて解決が可能になる。

《【アベノミクス海外評価2】元米財務長官ローレンス・サマーズ氏が語るアベノミクス》
 もう一つの【アベノミクス海外評価】として標記論文を見つけた。標記論文は多少、私と総体的な問題認識・評価に異論も多いが、各論・随所で問題・解決ポイント等において共通性も感じたので、同じく下記により紹介する。
<元米財務長官ローレンス・サマーズ氏が語るアベノミクス>
 元米財務長官でオバマ大統領の首席経済顧問やハーバード大学学長を歴任したローレンス・サマーズ氏は、率直な言動と卓越した頭脳で知られる。先進国は成長の鈍い新たな時代に入ったとする「長期停滞論」を早くから積極的に提唱してきた人物でもある。サマーズ氏は日本について、近代における長期停滞の最初のケースと指摘するが、そこから抜け出す道筋を描く実験室とも評している。その意味で同氏は日本と世界をテーマとしたこのFT・日経共同特集の理想的な対談者の役目を果たす。
■脱・停滞への実験室 改善、しかし未完成
 クリスマス直前の長い電話インタビューで、デフレ(あるいは、本人の言うところの「ローフレーション」)を特徴とする世界に関する理論を更に掘り下げ、日本政府の対応について率直な評価を下すようサマーズ氏に頼んだ。同時に2025年の日本の姿を想像してもらった。会話は「アベノミクス」から始まった。御存知の通り脱デフレに向けて安倍政権が採用した金融、財政、成長戦略の総称だ。3年間の実験―近現代史における金融の大実験の一つと呼ぶ人もいる―を経た後、サマーズ氏はどんな評価を下すのか。「私なら『インコンプリート(未完成)』という大学教授の古典的な成績評価を与える」と同氏は言う。「日本の状況が改善した事に疑問の余地はない。だが着実で適切、かつインフレをもたらす成長がしっかり根づいたと確信する根拠はない」これまでのところ日銀の金融政策は「概して適切」であり予想インフレ率の上昇に寄与した。「政策効果が衰え始めたのではないかと思うが、これ(異次元緩和)を継続しない理由はない」とサマーズ氏は言う。安倍政権の財政政策については、柄にもなく外交的な態度を見せ「少し矛盾している」と口を濁した。更に突っ込んで聞くと2014年4月に消費税を引き上げるのは間違いだと警告したと述べ「その後、起きた事で私の考えを変えた事は何もない」と言う。
 アベノミクスの所謂「第3の矢」は税制改革、農業・電力市場の自由化、コーポレートガバナンス(企業統治)の改善を通じて既得権に切り込む構造改革だ。各々の改革自体は有益だが、積極性を欠くとサマーズ氏は指摘する。
 話題は中国に移った。中国が投資主導の輸出マシンからサービスと国内消費需要を柱とする経済への移行に腐心する中で、日本は中国経済の著しい減速にどれほどもろいのか。
 「中国経済の減速は多くの人の想定を超すだろう。だが日本への影響はコモディティー(商品)生産国ほどではない。日本は商品価格の下落の恩恵を受ける立場にある。世界の他の地域ほど中国で起きることに敏感ではない」
■高齢化の国 活路は「開放」にある
 サマーズ氏が懸念するのは日本の人口動態だ。設備投資や住宅投資が停滞するだけでなく、日本経済全体のダイナミズムを減退させる「重要な」要因だという。実際問題として何を意味するのか。サマーズ氏は「日本が家電産業や自動車産業で競争力を失った経緯は、人口高齢化と全く無縁ではなかったと私は見ている」と述べた上で「高齢化が進むほど、開放的になる道筋を見つけることが重要になるように思う」と付け加える。ここで移民という微妙な問題に至る。サマーズ氏は慎重に話を進めるが、外国人労働者―それが比較的賃金の低い国から来る労働者であれ、一時的に日本で働く外国人労働者であれ―が日本経済にダイナミズムをもたらすということについては、殆ど疑問の余地を残さない。「孤立した日本は一段と後れを取ってしまうのではないか」この最後のコメント―大西洋を跨ぐ電話回線越しに大声で響いてきた警告―は、最後の質問に移る完璧なキッカケになった。サマーズ氏は2025年の日本をどう見るのか。世界の経済や安全保障、日本自身の政策対応に何が起きるかに大きく左右されるというお決まりの注意事項を口にした後、可能性の高いシナリオを2つ挙げてくれた。1つ目は相対的に楽観的なものだ。日本の国内総生産(GDP)は年間1%前後で成長する。サマーズ氏曰く、これは1人当たり成長率で2%に相当するという。そして日本は素晴らしく熟練度が高く、規律のとれた労働力を活用し重要な輸出大国であり続ける。 「新たな太平洋地域社会で日本が極めて重要な役割を果たし、朝鮮半島の統一が成功裏に成し遂げられ、中国との広範な緊張緩和が確立される事も想像できる。バイオテクノロジーが益々、長寿化に焦点を合わせるようになるにつれて、日本の高齢化は国家的資産だったという結果になる事も想像できる」もう一つのシナリオはまるで魅力に乏しい。世界経済の出遅れ組から脱することができず、経済的、政治的なプレーヤーとしての日本の影響力が減退していくシナリオだ。このシナリオでは中国と日本でナショナリズムが強硬になる中、北アジアの地政学が安定性を失っていく。「次の10年間は日本にとって特に重要になる」とサマーズ氏は言う。「ウィンストン・チャーチルの言葉を借りるなら、我々は皆、アベノミクスが21世紀の日本再生の終わりの始まりですらなく、始まりの終わりであることを願っている」

【紹介1】東日本大震災で74人が犠牲になった南三陸町病院が再建され開業。総工費56億円の内「約22億円」が台湾からの寄付によるもので、現地の方々が「日本でもっと知らしてほしい」という事なので紹介します。

【紹介2】アムネスティ・インターナショナル日本(Amnesty International Japan)
<書き損じハガキで国際協力~声をあげられない人びとのために、あなたの力を~>
うっかり書き間違えてしまったハガキや、買い過ぎて余ってしまった切手等がありましたら、ぜひ、アムネスティに送って下さい。署名や要請書を送る際の送料に使用させて頂くなど、活動を支える大切な資金になります。送り方は簡単です。封筒などにハガキを入れて、アムネスティ日本の東京事務所までお送り下さい。
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[詳細は:アムネスティhttp://www.amnesty.or.jp/get-involved/donation/various_donation/postcard/]
【送り先】
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「書き損じはがきキャンペーン担当」まで
(民守 正義)