安倍政権打倒の道程-参議院選挙とTPPシリーズ(4)
安倍政権打倒の道程-参議院選挙とTPPシリーズ(4)
《TPP交渉に首藤信彦氏「日本はイカサマ麻雀にハメられた」》
《TPP交渉に首藤信彦氏「日本はイカサマ麻雀にハメられた」》
<米、カナダ、メキシコはグル>
4日間も延長し「大筋合意」したとされるTPP交渉。安倍(戦争)総理は「国家百年の計」「国益に叶う最善の結果を得た」と悦に入り、大マスコミは〈巨大経済圏の誕生〉〈参加12カ国の経済活性化〉と手放しでホメちぎっているが、真に受けたらダメだ。衆院議員時代からTPPの危険性を指摘し、米アトランタで開かれた閣僚会合をウオッチした反対派の急先鋒、TPP阻止国民会議事務局長の首藤信彦氏は「安倍政権はTPPの罠に見事に引っかかり、タヌキの葉っぱを買わされた」と断じる。
――甘利TPP担当相が行司役として「大筋合意」をまとめたと伝えられています。
A:甘利大臣は行司すらやっていませんし、日本は交渉なんかしていません。他国は2国間協議で丁々発止やりあっているのに日本は蚊帳の外だった。日本の交渉団メンバーは所在なさげに街中をブラついたり、近くのホテルでコーヒーを飲んで時間を潰す有様だったのです。アトランタ会合は猿芝居、つまりヤラセだった。開催前から内閣府が自民党議員や農業関係団体等に「必ず決めますから、ぜひ現地入りしてください」と触れ回っていたのです。おかしな話でしょう。自動車の原産地規制をはじめ、新薬のデータ保護期間や農産品等、問題は山積みなのに。前回のハワイ会合から2カ月足らず、たった2日間でまとまるなんて考えられない。「大筋合意らしきモノ」をつくりたかった日本の強い働きかけで形式的に集まっただけだったのです。
――アトランタ会合前に「話はついていた」ということですか。
A:要するに“シャンシャン総会”だったんです。閣僚会見後に行われた渋谷内閣審議官によるブリーフィングで、内閣府と農水省が大量のペーパー資料を配布したことでも分かるように、東京でお膳立てしてあったんです。来夏の参院選での争点化を避けたい安倍政権は、一刻も早く「大筋合意」という形をつくって予算をバラまき、批判の矛先をそらそうと焦っていた。それで7月に開催された前回のハワイ会合で全てのカードを切って決着させようとしたのです。ところが思わぬ誤算が生じた。乳製品の輸出拡大を狙うニュージーランドと自動車の原産地規制に拘ったメキシコです。日本から見れば、最後の瞬間に会合をブチ壊され、米国は、それを止めようともしなかった。結果ハワイは見送り。9月21~22日にサンフランシスコで日本、米国、カナダ、メキシコの4カ国が自動車を巡って協議した。
パニクった日本が折れて、部品の域内調達率を45%程度とすることになったのです。
――メキシコはなぜそこまで強硬姿勢を貫けたのでしょうか。
日本以外の3カ国は裏で握っていたとみています。メキシコ政府の後ろにはカナダ政府がいて、更に、その後ろにはカナダ自動車労組(CAW)、全米自動車労組(UAW)、米国の民主党―と繋がっている。つまりメキシコの主張は米国案。日本はイカサマ麻雀に誘い込まれたようなものだった。だから、アッという間に決着し、アトランタ会合への流れができたのです。
――日本はカモにされたのですね。
メキシコ、カナダにもメリットがありますが、最も利を得るのは米国。米国の中小企業から部品をどんどん買え、ということなのです。米国はアトランタ会合がスタートする前にキックオフパーティーを開いていたのですが、その席でUSTR(米通商代表部)のカトラー次席代表代行は「米国の中小企業のためには、世界の貿易協定に空白をつくってはならない」「我々は死に物狂いでTPPに取り組んでいる」と強調していました。TPPは対中国戦略の側面もある。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設して攻勢を強める一方、米国の衰退は誰の目にも明らか。米国は何としても身内の仕組みが欲しい。
内容はともかくとして形だけはつくっておこうと。だからTPPは竜頭蛇尾で十分なのです。
日本にとってTPPは農業には大ダメージだけれど、商工業は輸出増で潤うと思われているようですが、それは大間違いです。日本企業の輸出が増えるのではなく、米国の中小企業が日本にドンドン輸出してくるのです。日本政府が外国企業の活動を後押しすることも取り決められています。
――甘利TPP担当相が行司役として「大筋合意」をまとめたと伝えられています。
A:甘利大臣は行司すらやっていませんし、日本は交渉なんかしていません。他国は2国間協議で丁々発止やりあっているのに日本は蚊帳の外だった。日本の交渉団メンバーは所在なさげに街中をブラついたり、近くのホテルでコーヒーを飲んで時間を潰す有様だったのです。アトランタ会合は猿芝居、つまりヤラセだった。開催前から内閣府が自民党議員や農業関係団体等に「必ず決めますから、ぜひ現地入りしてください」と触れ回っていたのです。おかしな話でしょう。自動車の原産地規制をはじめ、新薬のデータ保護期間や農産品等、問題は山積みなのに。前回のハワイ会合から2カ月足らず、たった2日間でまとまるなんて考えられない。「大筋合意らしきモノ」をつくりたかった日本の強い働きかけで形式的に集まっただけだったのです。
――アトランタ会合前に「話はついていた」ということですか。
A:要するに“シャンシャン総会”だったんです。閣僚会見後に行われた渋谷内閣審議官によるブリーフィングで、内閣府と農水省が大量のペーパー資料を配布したことでも分かるように、東京でお膳立てしてあったんです。来夏の参院選での争点化を避けたい安倍政権は、一刻も早く「大筋合意」という形をつくって予算をバラまき、批判の矛先をそらそうと焦っていた。それで7月に開催された前回のハワイ会合で全てのカードを切って決着させようとしたのです。ところが思わぬ誤算が生じた。乳製品の輸出拡大を狙うニュージーランドと自動車の原産地規制に拘ったメキシコです。日本から見れば、最後の瞬間に会合をブチ壊され、米国は、それを止めようともしなかった。結果ハワイは見送り。9月21~22日にサンフランシスコで日本、米国、カナダ、メキシコの4カ国が自動車を巡って協議した。
パニクった日本が折れて、部品の域内調達率を45%程度とすることになったのです。
――メキシコはなぜそこまで強硬姿勢を貫けたのでしょうか。
日本以外の3カ国は裏で握っていたとみています。メキシコ政府の後ろにはカナダ政府がいて、更に、その後ろにはカナダ自動車労組(CAW)、全米自動車労組(UAW)、米国の民主党―と繋がっている。つまりメキシコの主張は米国案。日本はイカサマ麻雀に誘い込まれたようなものだった。だから、アッという間に決着し、アトランタ会合への流れができたのです。
――日本はカモにされたのですね。
メキシコ、カナダにもメリットがありますが、最も利を得るのは米国。米国の中小企業から部品をどんどん買え、ということなのです。米国はアトランタ会合がスタートする前にキックオフパーティーを開いていたのですが、その席でUSTR(米通商代表部)のカトラー次席代表代行は「米国の中小企業のためには、世界の貿易協定に空白をつくってはならない」「我々は死に物狂いでTPPに取り組んでいる」と強調していました。TPPは対中国戦略の側面もある。中国がAIIB(アジアインフラ投資銀行)を創設して攻勢を強める一方、米国の衰退は誰の目にも明らか。米国は何としても身内の仕組みが欲しい。
内容はともかくとして形だけはつくっておこうと。だからTPPは竜頭蛇尾で十分なのです。
日本にとってTPPは農業には大ダメージだけれど、商工業は輸出増で潤うと思われているようですが、それは大間違いです。日本企業の輸出が増えるのではなく、米国の中小企業が日本にドンドン輸出してくるのです。日本政府が外国企業の活動を後押しすることも取り決められています。
<会見で「おめでとう」と言った日本メディア>
――日本の大マスコミは、そうした情報を一切伝えず、お祝いムードに加担しています。
A:閣僚会見の質疑で「おめでとうございます!」と切り出した日本のメディアには呆れました。
その時点ではロクに情報を得ていなかったはずです。政府は交渉内容を明かそうとしなかったし、会合の会場は出入り禁止だった。渋谷審議官のブリーフィング資料で、ようやく概要が分かった程度でしょう。そもそも日本では「大筋合意」に達したと報道されていますが、それ自体も怪しいものです。
〈大筋合意したのか?〉と問われたUSTRのフロマン代表はイエスともノーとも答えず、言葉を濁していた。共同宣言もありません。それもそのはずで貿易協定が一変する重要な会合だったにも関わらず3カ国は代理出席だった。「大筋合意することに合意した」というのが真相に近いという感触です。
――日本から、むしり取ろうとする米国も妥結を急いでいたのでは?
A:一言で言えばTPPは米国が周到に仕掛けた罠なのです。TPPは表部隊と裏部隊がワンセット。
表のTPPと裏の2国間協議は一体化されていて、TPPが発効しなくても2国間協議の合意事項は効力を発する仕組みになっているんです。米国はTPPがどう転んでもオイシイ思いができる。
渋谷審議官の会見で配布されたペーパーにも記してありますが、日米間はあらゆる分野で交換文書をまとめている。例えば自動車の非関税措置はTPP発効までに実行することになっています。
――日米並行協議ですね。いつの間にそんな不平等条約を押し付けられたのですか。
安倍(戦争)総理は、野党時代はTPPに反対していました。それなのに政権に返り咲くと掌を返し、アベノミクスを進めるために米国にTPP参加を頼み込んだ。それで突き付けられたのが日米並行協議です。米国は日本との間に経済問題が持ち上がると、必ず安全保障問題で攻めてきます。50年代に起きた日米貿易摩擦は「糸と綱を取り換えた」と言われた。糸は繊維、綱は沖縄。繊維で譲歩して沖縄返還に至ったのです。TPPでは中国の尖閣諸島進出や北朝鮮の核・ミサイル開発をネタに揺さぶられ、バンザイしてしまった。どれも架空の話で、まるでタヌキの葉っぱですよ。日本は米軍の力を借りなければ情報収集はおろか、自国防衛もままならない。軍事オンチだからシーレーン(海上交通路)の脅威を煽れば、たちまちヘタる‐というのが米国の認識なのです。【管理者:「安倍」は、それにハマっている】
――TPPはどこに向かっていくのでしょうか?
A:17年に誕生する米国の次期大統領が新体制を敷くまで進展しないでしょう。TPPは「参加6カ国以上、GDP合計が85%以上」という条件をクリアしなければ発効できず、日米のどちらが欠けてもパーです。これから事務レベルで内容を詰め、2~3カ月以内に最終的な協定案をまとめて署名する。
その後、議会で批准する手続きを踏まなければなりませんが、米国は署名90日前に議会への通知を求められる。急ピッチで作業が進んだとしても署名は来年1月。経済効果等の調査もありますから、審議入りは2月以降でしょう。その頃は大統領選の予備選挙が本格化していて、TPPどころではありません。
――有力候補とされる民主党のヒラリー・クリントン前国務長官やバーニー・サンダース上院議員は反対派。共和党のドナルド・トランプ氏も猛批判しています。
A:過去にも国連の前身の国際連盟や40年代のITO(国際貿易機構)等、主導した米国が議会に拒否されて参加しなかった例は幾つもある。米国はTPPに拘る必要がありませんから、発効しない可能性が高いとみています。しかし日本は日米並行協議を背負わされてしまった。全産業がリスクにさらされ、国のあり方そのものが変容する危機に直面しているのです。
▽筆者=すとう・のぶひこ 1945年、中国・大連生まれ。慶大大学院博士号取得(経済政策)。
伊藤忠商事、東海大教授、テレビキャスター等を経て00年、民主党公認で衆院選初当選。12年まで3期6年務める。共著「私たちはなぜTPPに反対するのか」など。(日刊ゲンダイ)
《山田元農相が語るTPP“漂流”の可能性「阻止は時間との闘い」》
大メディアは、てんで報じていないが、TPPの行方が一気に不透明になってきた。旗振り役だった米国で議会が猛反発しているのである。TPP断固阻止で闘ってきた山田正彦元農相に見通しを聞いたら、「漂流する可能性が高くなってきました」とズバリ。だとすると選挙公約を無視して、TPPに突き進んでいる自民党政権はアホみたいな話になる。米政府高官や関係団体の幹部など幅広い情報網を持つ元農相に、TPP最新情勢と今後を聞いた。
■大統領選突入で米国はTPPどころではなくなる
――TPP交渉を巡って米議会が紛糾し、オバマ大統領は必死の電話攻勢で説得を続けていると伝えられています。米国で何が起こっているのですか?
A:順を追って説明すると、オバマ大統領がTPPを成立させる大前提として、米議会でTPA(貿易促進権限)法案を通す必要があります。大統領に交渉を一任するもので、この委任がなければ各国と合意できない。貿易自由化を支持する共和党の理解はある程度、得たものの、大統領の支持基盤である民主党には反対派が多いのです。低賃金の海外勢に雇用を奪われる懸念や、輸出促進のために自国通貨を割安に誘導する為替操作対策、多国籍企業が進出先の政府に損害を求めるISD条項等が背景にあります。
――それでTPA法案の審議入りが遅れたのですね。先週、上院はギリギリ通過しましたが結局、今月末に開催予定だった公式閣僚会議は流れてしまった。それでもUSTR(米通商代表部)のフロマン代表は「6月半ばまでには下院で可決するだろう」との見通しを示しています。
下院はさらに反対派が多いですから、状況は予断を許しません。豪のロブ貿易・投資相は「TPP妥結は2017年までずれ込む恐れがある」と発言しています。というのも今夏を過ぎれば来年の米大統領選が本格化し、米国はTPPどころじゃなくなる。それに民主党の最有力候補とされるヒラリー前国務長官は反対派ですから、TPPはこのまま“漂流”する可能性が高くなってきました。参加国の足並みも乱れてきています。マレーシアは「7月末までに政府がメリットとデメリットを明らかにし、国会決議をしない限り調印しない」と表明しているし、ベトナムは「TPPは必要条件だが、十分条件ではない」との立場。NAFTA(北米自由貿易協定)の流れで引き込まれた形のカナダは元々、消極的なんですよ。
■「メディアはなぜ問題点を積極的に報道しないのか」
――参加国が、どんどん距離を置き始めている一方で、日本政府は前のめりのまま。慎重だった与党議員もメディアも「TPP締結やむなし」のムードが広がっています。おかしな話ですね。
A:本当におかしな話ですよ。TPPは農業と経済の問題だけで議論されがちですが、その影響は医療、介護、教育、公共事業、知的財産権まで広範囲に及びます。関税撤廃で安い農畜産物がドッと入ってきて国内の農畜産業がダメになるとか、逆に製造業が輸出拡大で儲かるとかだけの話じゃない。国民生活を一変させる大問題で、論点は山のようにあるのに、メディアは何故、問題点を積極的に報道しないのか。関心が低いのか、勉強が足りないのか、それとも官邸の顔色を窺っているのか。
■秘密交渉のTPPは「国民の知る権利」を侵害している
――TPP交渉の中身がサッパリ伝わってこないのも、世論が盛り上がらない原因ではないでしょうか。
A:米議会では守秘義務をかけた上で全議員が条文案全文を閲覧できるのに、日本では国会議員ですら目にすることができません。内閣府の西村副大臣が一度は開示方針を示したものの「日本には守秘義務違反に刑事罰がない」との理由で撤回しました。TPPは、まさに秘密交渉で進められています。政府は国民に内容を知らせないまま、交渉をまとめようとしている。憲法が保障する「国民の知る権利」を侵害しているのです。そこで我々は今月15日に国を相手取ってTPP交渉の差し止め、交渉の違憲確認、損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。弁護団は157人を数え、原告総数は1063人に上ります。
訴訟の会員は三千八百人ですが、更に増え続けていて今は4千人を超えました。原告団の中には国会議員8人が名を連ねています。現職議員が国に対して裁判を起こすのは初めての事例です。これほど賛同者が集まったのは、TPPが国民生活を大きく揺るがす脅威だからです。身近なところから挙げれば、食の安全が守られなくなる。米国は遺伝子組み換え食品の表示禁止、添加物や残留農薬の基準を米国レベルに合わせることを求めてきています。産地や成分表示も撤廃しろと迫っている。「(日本には)国産表示があるから外国産が売れない」というのが米国の言い分なのです。
――3・11以降、消費者は食品表示に敏感になっています。米国の言いなりになれば、消費者は国産か外国産かの見分けさえつかなくなってしまいます。
A:最も影響を受けるのが、アレルギーやアトピーに悩む子供達です。お母さん方は「食品表示がなくなれば、子供に何を食べさせていいのか分からなくなる」と悲鳴を上げています。文科省の全国実態調査(13年)によると、公立小中高に通う全児童・生徒の4・5%が食物アレルギーを抱えているといいます。日本では禁止されている成長ホルモンを投与された畜産物や、腐食防止等を目的に放射線照射された野菜が、どんどん入ってきたら、子供達の健康を守っていけるのか。
■日本は米韓FTAで主権を失った韓国の二の舞になる
――医療や雇用の面での懸念はどうですか。
A:医療でいえば、最初は僕も自由診療が広がって、最先端医療を求める人に機会が増えるのはいいことだと思っていた。ところが実態はそう甘いものじゃない。医療法人が株式会社化され、利益を生む自由診療が幅を利かせるようになり医療の差別化が始まる。公的保険でカバーされる医療行為がドンドン狭まり、お金がない人は病院に通えず薬も買えなくなる。国民皆保険制度をとらない米国と同じ状況に追い込まれるのです。医薬品価格は厚労省が開発費等を考慮して決めているのですが、米国と同じように製薬会社が決定権を持つようになる。するとタミフル1錠が7万円という世界が現実になるのです。生存権も幸福追求権も侵害されてしまう。
――雇用についてはどうですか。
A:僕は日本がTPP交渉の参加条件にされた日米並行協議も注視しています。これまでも「対日年次要望書」を突きつけられてきましたが、この並行協議で2国間の“懸案”を解消することになっていて、俎上に載せられた派遣法改悪や金銭賠償による解雇が着々と進められている。憲法で守られた労働3法が形骸化されようとしているのです。農水大臣を辞めた後、12年1月に訪米してUSTRのカトラー代表補(当時)と面会したのですが「米韓FTA(の内容)を見てほしい。(日本には)それ以上のものを求める」と明言されました。まさに日本も韓国のようになっていくと考えなければなりません。
――12年に米韓FTAが発効された韓国では、その後1年で畜産業の7割が廃業し、農業は壊滅的な打撃を受けていると伝えられていますが……。
A:衝撃は、それだけではありません。政府発表で63本、弁護士会による調査では187本の国内法が改正を強いられた。国内法より投資家の言い分が優先されるISD条項があるため「規制のせいで損害を被った」と主張する多国籍企業による賠償請求を恐れたためです。これは国の主権を失ったのも同然です。韓国の法曹界も動き11年12月に167人の裁判官が「ISD条項によって国の司法主権が損なわれる」として大法院(日本の最高裁に相当)に不服申し立てをしています。TPPに反対する「パブリック・シチズン」(米NGO)のローリー・ワラック氏が講演で話していたのですが、米国民の間でも「TPPは死んだ魚のようだ。太陽に長く、さらされればさらされるほど臭いが酷くなる」という声が高まっているそうです。つまりTPPを阻止するのは時間との闘い。時間がかかればかかるほど、メチャクチャな実態が明るみになる。そうすれば頓挫に追い込むことができるのです。
▽やまだ・まさひこ:1942年、長崎県五島市生まれ。早大第一法学部卒。弁護士。93年、新生党公認で衆院初当選。12年まで5期15年務める。民主党の菅内閣で農相。著書に「TPP秘密交渉の正体」など。
【紹介】「平和の琉歌」http://bit.ly/1MQbwcr :YouTube:伊波 洋一 (いは よういち)
【ご案内】大阪弁護士会主催「戦争法止めよう!――大阪の取り組み」
12月19日(土)
今、沖縄を知る~基地、そして地元メディア~
■開始:13:30
■場所:シアターセブン BOX1(阪急「十三」西口徒歩5分)
■講師:松元剛さん(琉球新報報道本部長)
松本亜季さん(引き取る行動・大阪)
■資料代:500円
■主催:実行委員会 連絡先TEL06-6364-5604(民放労連近畿地連)
A:閣僚会見の質疑で「おめでとうございます!」と切り出した日本のメディアには呆れました。
その時点ではロクに情報を得ていなかったはずです。政府は交渉内容を明かそうとしなかったし、会合の会場は出入り禁止だった。渋谷審議官のブリーフィング資料で、ようやく概要が分かった程度でしょう。そもそも日本では「大筋合意」に達したと報道されていますが、それ自体も怪しいものです。
〈大筋合意したのか?〉と問われたUSTRのフロマン代表はイエスともノーとも答えず、言葉を濁していた。共同宣言もありません。それもそのはずで貿易協定が一変する重要な会合だったにも関わらず3カ国は代理出席だった。「大筋合意することに合意した」というのが真相に近いという感触です。
――日本から、むしり取ろうとする米国も妥結を急いでいたのでは?
A:一言で言えばTPPは米国が周到に仕掛けた罠なのです。TPPは表部隊と裏部隊がワンセット。
表のTPPと裏の2国間協議は一体化されていて、TPPが発効しなくても2国間協議の合意事項は効力を発する仕組みになっているんです。米国はTPPがどう転んでもオイシイ思いができる。
渋谷審議官の会見で配布されたペーパーにも記してありますが、日米間はあらゆる分野で交換文書をまとめている。例えば自動車の非関税措置はTPP発効までに実行することになっています。
――日米並行協議ですね。いつの間にそんな不平等条約を押し付けられたのですか。
安倍(戦争)総理は、野党時代はTPPに反対していました。それなのに政権に返り咲くと掌を返し、アベノミクスを進めるために米国にTPP参加を頼み込んだ。それで突き付けられたのが日米並行協議です。米国は日本との間に経済問題が持ち上がると、必ず安全保障問題で攻めてきます。50年代に起きた日米貿易摩擦は「糸と綱を取り換えた」と言われた。糸は繊維、綱は沖縄。繊維で譲歩して沖縄返還に至ったのです。TPPでは中国の尖閣諸島進出や北朝鮮の核・ミサイル開発をネタに揺さぶられ、バンザイしてしまった。どれも架空の話で、まるでタヌキの葉っぱですよ。日本は米軍の力を借りなければ情報収集はおろか、自国防衛もままならない。軍事オンチだからシーレーン(海上交通路)の脅威を煽れば、たちまちヘタる‐というのが米国の認識なのです。【管理者:「安倍」は、それにハマっている】
――TPPはどこに向かっていくのでしょうか?
A:17年に誕生する米国の次期大統領が新体制を敷くまで進展しないでしょう。TPPは「参加6カ国以上、GDP合計が85%以上」という条件をクリアしなければ発効できず、日米のどちらが欠けてもパーです。これから事務レベルで内容を詰め、2~3カ月以内に最終的な協定案をまとめて署名する。
その後、議会で批准する手続きを踏まなければなりませんが、米国は署名90日前に議会への通知を求められる。急ピッチで作業が進んだとしても署名は来年1月。経済効果等の調査もありますから、審議入りは2月以降でしょう。その頃は大統領選の予備選挙が本格化していて、TPPどころではありません。
――有力候補とされる民主党のヒラリー・クリントン前国務長官やバーニー・サンダース上院議員は反対派。共和党のドナルド・トランプ氏も猛批判しています。
A:過去にも国連の前身の国際連盟や40年代のITO(国際貿易機構)等、主導した米国が議会に拒否されて参加しなかった例は幾つもある。米国はTPPに拘る必要がありませんから、発効しない可能性が高いとみています。しかし日本は日米並行協議を背負わされてしまった。全産業がリスクにさらされ、国のあり方そのものが変容する危機に直面しているのです。
▽筆者=すとう・のぶひこ 1945年、中国・大連生まれ。慶大大学院博士号取得(経済政策)。
伊藤忠商事、東海大教授、テレビキャスター等を経て00年、民主党公認で衆院選初当選。12年まで3期6年務める。共著「私たちはなぜTPPに反対するのか」など。(日刊ゲンダイ)
《山田元農相が語るTPP“漂流”の可能性「阻止は時間との闘い」》
大メディアは、てんで報じていないが、TPPの行方が一気に不透明になってきた。旗振り役だった米国で議会が猛反発しているのである。TPP断固阻止で闘ってきた山田正彦元農相に見通しを聞いたら、「漂流する可能性が高くなってきました」とズバリ。だとすると選挙公約を無視して、TPPに突き進んでいる自民党政権はアホみたいな話になる。米政府高官や関係団体の幹部など幅広い情報網を持つ元農相に、TPP最新情勢と今後を聞いた。
■大統領選突入で米国はTPPどころではなくなる
――TPP交渉を巡って米議会が紛糾し、オバマ大統領は必死の電話攻勢で説得を続けていると伝えられています。米国で何が起こっているのですか?
A:順を追って説明すると、オバマ大統領がTPPを成立させる大前提として、米議会でTPA(貿易促進権限)法案を通す必要があります。大統領に交渉を一任するもので、この委任がなければ各国と合意できない。貿易自由化を支持する共和党の理解はある程度、得たものの、大統領の支持基盤である民主党には反対派が多いのです。低賃金の海外勢に雇用を奪われる懸念や、輸出促進のために自国通貨を割安に誘導する為替操作対策、多国籍企業が進出先の政府に損害を求めるISD条項等が背景にあります。
――それでTPA法案の審議入りが遅れたのですね。先週、上院はギリギリ通過しましたが結局、今月末に開催予定だった公式閣僚会議は流れてしまった。それでもUSTR(米通商代表部)のフロマン代表は「6月半ばまでには下院で可決するだろう」との見通しを示しています。
下院はさらに反対派が多いですから、状況は予断を許しません。豪のロブ貿易・投資相は「TPP妥結は2017年までずれ込む恐れがある」と発言しています。というのも今夏を過ぎれば来年の米大統領選が本格化し、米国はTPPどころじゃなくなる。それに民主党の最有力候補とされるヒラリー前国務長官は反対派ですから、TPPはこのまま“漂流”する可能性が高くなってきました。参加国の足並みも乱れてきています。マレーシアは「7月末までに政府がメリットとデメリットを明らかにし、国会決議をしない限り調印しない」と表明しているし、ベトナムは「TPPは必要条件だが、十分条件ではない」との立場。NAFTA(北米自由貿易協定)の流れで引き込まれた形のカナダは元々、消極的なんですよ。
■「メディアはなぜ問題点を積極的に報道しないのか」
――参加国が、どんどん距離を置き始めている一方で、日本政府は前のめりのまま。慎重だった与党議員もメディアも「TPP締結やむなし」のムードが広がっています。おかしな話ですね。
A:本当におかしな話ですよ。TPPは農業と経済の問題だけで議論されがちですが、その影響は医療、介護、教育、公共事業、知的財産権まで広範囲に及びます。関税撤廃で安い農畜産物がドッと入ってきて国内の農畜産業がダメになるとか、逆に製造業が輸出拡大で儲かるとかだけの話じゃない。国民生活を一変させる大問題で、論点は山のようにあるのに、メディアは何故、問題点を積極的に報道しないのか。関心が低いのか、勉強が足りないのか、それとも官邸の顔色を窺っているのか。
■秘密交渉のTPPは「国民の知る権利」を侵害している
――TPP交渉の中身がサッパリ伝わってこないのも、世論が盛り上がらない原因ではないでしょうか。
A:米議会では守秘義務をかけた上で全議員が条文案全文を閲覧できるのに、日本では国会議員ですら目にすることができません。内閣府の西村副大臣が一度は開示方針を示したものの「日本には守秘義務違反に刑事罰がない」との理由で撤回しました。TPPは、まさに秘密交渉で進められています。政府は国民に内容を知らせないまま、交渉をまとめようとしている。憲法が保障する「国民の知る権利」を侵害しているのです。そこで我々は今月15日に国を相手取ってTPP交渉の差し止め、交渉の違憲確認、損害賠償を求めて東京地裁に提訴しました。弁護団は157人を数え、原告総数は1063人に上ります。
訴訟の会員は三千八百人ですが、更に増え続けていて今は4千人を超えました。原告団の中には国会議員8人が名を連ねています。現職議員が国に対して裁判を起こすのは初めての事例です。これほど賛同者が集まったのは、TPPが国民生活を大きく揺るがす脅威だからです。身近なところから挙げれば、食の安全が守られなくなる。米国は遺伝子組み換え食品の表示禁止、添加物や残留農薬の基準を米国レベルに合わせることを求めてきています。産地や成分表示も撤廃しろと迫っている。「(日本には)国産表示があるから外国産が売れない」というのが米国の言い分なのです。
――3・11以降、消費者は食品表示に敏感になっています。米国の言いなりになれば、消費者は国産か外国産かの見分けさえつかなくなってしまいます。
A:最も影響を受けるのが、アレルギーやアトピーに悩む子供達です。お母さん方は「食品表示がなくなれば、子供に何を食べさせていいのか分からなくなる」と悲鳴を上げています。文科省の全国実態調査(13年)によると、公立小中高に通う全児童・生徒の4・5%が食物アレルギーを抱えているといいます。日本では禁止されている成長ホルモンを投与された畜産物や、腐食防止等を目的に放射線照射された野菜が、どんどん入ってきたら、子供達の健康を守っていけるのか。
■日本は米韓FTAで主権を失った韓国の二の舞になる
――医療や雇用の面での懸念はどうですか。
A:医療でいえば、最初は僕も自由診療が広がって、最先端医療を求める人に機会が増えるのはいいことだと思っていた。ところが実態はそう甘いものじゃない。医療法人が株式会社化され、利益を生む自由診療が幅を利かせるようになり医療の差別化が始まる。公的保険でカバーされる医療行為がドンドン狭まり、お金がない人は病院に通えず薬も買えなくなる。国民皆保険制度をとらない米国と同じ状況に追い込まれるのです。医薬品価格は厚労省が開発費等を考慮して決めているのですが、米国と同じように製薬会社が決定権を持つようになる。するとタミフル1錠が7万円という世界が現実になるのです。生存権も幸福追求権も侵害されてしまう。
――雇用についてはどうですか。
A:僕は日本がTPP交渉の参加条件にされた日米並行協議も注視しています。これまでも「対日年次要望書」を突きつけられてきましたが、この並行協議で2国間の“懸案”を解消することになっていて、俎上に載せられた派遣法改悪や金銭賠償による解雇が着々と進められている。憲法で守られた労働3法が形骸化されようとしているのです。農水大臣を辞めた後、12年1月に訪米してUSTRのカトラー代表補(当時)と面会したのですが「米韓FTA(の内容)を見てほしい。(日本には)それ以上のものを求める」と明言されました。まさに日本も韓国のようになっていくと考えなければなりません。
――12年に米韓FTAが発効された韓国では、その後1年で畜産業の7割が廃業し、農業は壊滅的な打撃を受けていると伝えられていますが……。
A:衝撃は、それだけではありません。政府発表で63本、弁護士会による調査では187本の国内法が改正を強いられた。国内法より投資家の言い分が優先されるISD条項があるため「規制のせいで損害を被った」と主張する多国籍企業による賠償請求を恐れたためです。これは国の主権を失ったのも同然です。韓国の法曹界も動き11年12月に167人の裁判官が「ISD条項によって国の司法主権が損なわれる」として大法院(日本の最高裁に相当)に不服申し立てをしています。TPPに反対する「パブリック・シチズン」(米NGO)のローリー・ワラック氏が講演で話していたのですが、米国民の間でも「TPPは死んだ魚のようだ。太陽に長く、さらされればさらされるほど臭いが酷くなる」という声が高まっているそうです。つまりTPPを阻止するのは時間との闘い。時間がかかればかかるほど、メチャクチャな実態が明るみになる。そうすれば頓挫に追い込むことができるのです。
▽やまだ・まさひこ:1942年、長崎県五島市生まれ。早大第一法学部卒。弁護士。93年、新生党公認で衆院初当選。12年まで5期15年務める。民主党の菅内閣で農相。著書に「TPP秘密交渉の正体」など。
【紹介】「平和の琉歌」http://bit.ly/1MQbwcr :YouTube:伊波 洋一 (いは よういち)
【ご案内】大阪弁護士会主催「戦争法止めよう!――大阪の取り組み」
12月19日(土)
今、沖縄を知る~基地、そして地元メディア~
■開始:13:30
■場所:シアターセブン BOX1(阪急「十三」西口徒歩5分)
■講師:松元剛さん(琉球新報報道本部長)
松本亜季さん(引き取る行動・大阪)
■資料代:500円
■主催:実行委員会 連絡先TEL06-6364-5604(民放労連近畿地連)
(民守 正義)
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