「憲法審査会-違憲」後の動向(16)

「憲法審査会-違憲」後の動向(16)

《百田氏暴言‐衆議院平和安全法制特別委員会理事会で自民党「謝罪」》
 6月25日に開催された自民党勉強会でゴロツキ右翼-作家;百田尚樹が「戦争関連法案」に関し沖縄新聞社2社について「潰さないといけない」等と報道機関を誹謗する発言をした。
これに対し「民主」「維新」「共産」3党は26日午前の衆院平和安全法制特別委員会理事会で、抗議し、自民党側は陳謝した。また野党側は勉強会に出席した加藤官房副長官の同特別委員会への出席も要求し与党側も応じた。自民党;江渡筆頭理事が「謝罪する」と述べ、浜田委員長も「しかるべき人に注意したい」と語った。しかし菅官房長官は26日午前の記者会見で「憲法で表現の自由が保障されている」と述べ、政府として距離を置く姿勢を示した。加藤官房副長官らの出席については「政治家としての自由で、制約すべきでない」と問題視しない考えを示した。
現に同特別委員会では3野党委員が各々、安倍総理に「総裁としての責任追及」を行ったが、安倍総裁(総理)は言い訳に終始し一切、責任者としての謝罪は行わなかった。

《「憲法審査会-違憲(6月5日)」以降のあれこれ⑩》
<特集ワイド:この国はどこへ行こうとしているのか;目加田中央大教授>
【自衛隊が「コンビニ」に】
 報道番組で集団的自衛権の行使容認反対や護憲の大切さを述べると、数日後には大学の研究室に郵便物が届く。「開封すると、だいたい『中国の脅威は、どうするのだ』等というお叱りの言葉が中心です。差出人が主婦だという手紙も目立ち、幅広い層からの抗議が増えたようです。十数年前と比べると世の中の右傾化が進んだと実感しています」。TBS系の報道番組「サンデーモーニング」で切れ味鋭い意見を繰り出す論客は、批判を浴びても、ひるんだ様子を全く感じさせない。
 「戦争関連法案」に反対する声は根強いが、安倍政権は今国会での成立を目指している。そのせいか政権与党の幹部らの発言に、中国脅威論を煽っていると感じる。「中国が軍事力を拡大してアジアにおけるプレゼンス(存在感)を高めようとしているのは事実でしょう。しかし、それに対応するために自衛隊が海外で活動できるように法整備をするのはあまりにも知恵がありません。外交手段で事の解決にあたるのが常識なのに、外交力の改善で際立った戦略がないのは、安全保障政策として構造的欠陥があります」
 集団的自衛権を行使する可能性がある事態として安倍首相が強調するのが「ホルムズ海峡の機雷除去」だ。政府によると日本に輸入される原油の8割が、この海峡を通過する。海峡が機雷で封鎖されて燃料が不足すれば、凍死者が出るなど人的・物的被害が出ると想定。
従って日本の「存立危機事態」に該当し、集団的自衛権を行使する可能性があると説明している。
 「ホルムズ海峡に自衛隊を派遣しようとしているのは『石油の確保という経済的な利益で戦争します』と国際社会に公言するようなもので恥ずかしい。戦争に参加する大義になりません。しかも国内の石油備蓄が半年分あるにもかかわらず、凍死者が出たらと殊更、危機感を煽っています」。冷静な口調で、政府の“脅威論”に簡単に同調してはいけないと説く。もちろん2001年の米同時多発テロ以降、日本は米国から「国際貢献」の名の下に自衛隊の海外派遣を要求されてきたことは理解している。しかし「戦争法案」の成立で、自衛隊の活動が際限なく拡大することを危惧するのだ。「インド洋で給油活動を行った自衛隊の艦船がなんと呼ばれたか分かりますか? 『海上のガソリンスタンド』です。『戦争法案』が成立すれば、自衛隊は地球の裏側でも後方支援が可能になります。給油に限らず、弾薬等も他国の軍隊に提供できるのです。つまり自衛隊はいつでもどこでも、何でも供給できるコンビニエンスストアになろうとしているのです」
 父の仕事で小中学生時代をアルゼンチンで過ごした。クーデターを経験し、政権が代わると暮らしが一変するのを目の当たりにした。「平和の大切さ」 が身に染みているからこそ20年間、NPO(非営利組織)やNGO(非政府組織)の活動を主導して対人地雷やクラスター爆弾の禁止運動に取り組んだ。「クラスター爆弾は振動でも爆発する危険があり、爆弾撤去の専門家の被害も多かった」と語る。
それだけに安倍首相らが戦争中に行う後方支援について「自衛隊員のリスクが増えることはない」という説明を繰り返すことに憤りを隠さない。
 「政府が『自衛隊員に犠牲が出ても後方支援をする』と説明するならば、まだ理解できます。その覚悟が政権だけではなく、私達にもありますか?それに他国軍が敵対勢力と戦闘行為を続けているのに、現地で活動している自衛隊が『戦闘地域には行けません。弾が飛んできたら僕達は帰国する』と主張できると、政府は本当に思っているのでしょうか」
安倍政権は「世界の警察官」としての力が低下しつつある米国の肩代わりをしようとしているだけではないかとの批判は根強い。「安倍さんが語る世界は、イコール米国中心主義なのです。中国の台頭やロシアの復権等があり、米国は唯一の超大国ではなくなりました。世界の多くの国々は、相対的に力を失いつつある米国との距離感を再検討しようとしているのに、米国に追随し続けようとする安倍政権の動きは、時代を見誤っていませんか」とはいえ政権与党が「数の論理」を持ち出せば「戦争法案」を成立に持ち込むことは可能だ。
その可能性を問うと言葉に一段と力を込めた。
 「そんなことはまだ分かりません。法案を通したら駄目です。廃案に持ち込むべきです。憲法学者3人が衆議院憲法審査会で『戦争法案』を『違憲』と指摘したじゃないですか。それなのに政権与党は『そんなの関係ない。一度、自分達が決めたら何と言おうと進める』と。要するに私達は政権与党に舐められているのです」。民主主義は末期的な状況にあると指摘する。大学のゼミでは、学生と時事問題を積極的に議論している。新年度に入ったばかりのゼミでは「戦争法案」をテーマに取り上げた。すると、ある学生が「『戦争法案』が成立すれば、いずれ徴兵制になり自分達が戦争に駆り出されるのではないでしょうか」と疑問を口にした。不安な顔に向かってこう答えたという。 「この法案が通れば、いずれ徴兵制が敷かれる可能性があります。けれども、みんながすぐに徴兵される可能性は低いと思う」
 答えの真意を尋ねてみた。「戦争になって、かつての学徒動員のような事態になれば、大学生らが徴兵されるでしょう。でも事態がそこまで激しくなってしまったら、日本が存在しているかは分かりません」
 日本は今、危機的な状況と受け止めているが、市民には何ができるのだろうか。
 「日本人は民主主義はタダだと思っていませんか? 行動しなければ現状を変えられない。政府に批判の声を上げる、デモに参加する。権力者側に大量の手紙を出す。要はうるさい市民になり、政府や世界にメッセージを発信していくことです。学生はデモに参加する事が就職に不利になると心配しています。でも私は、希望するならば学生をデモにデビューさせます。そして私はどんなに批判されても講演やメディアを通じて平和の実現を念頭に置いた意見を伝えていきます。選挙で投票するだけが、民主主義ではありません」
 研究室を後にすると、キャンパスの芝生に寝そべっているジーンズ姿の学生、着慣れないスーツ姿の学生が目に入った。若者の未来を思うと少し複雑な気持ちになった。

<「戦後、安倍政権ほどの独裁政権は初めてだ」2万5千人が国会大包囲!!>
憲法違反だという指摘のある「戦争法案」が国会に上程され連日、与野党の攻防が続いている。6月14日(日)、戦争法案の廃案を求める市民ら2万5千人(主催者発表)が国会を包囲し、安倍政権に抗議の声をあげた。国会前でスピーチしたジャーナリストの鳥越俊太郎氏は「安倍政権ほど酷い政権は今までなかった。こんな独裁政権は初めてだ」と批判。政治学者の山口二郎氏は、60年安保闘争の広がりによって当時の岸信介内閣は退陣に追い込まれたと振り返り「55年前の先輩の思いを引き継いで、安倍を返り討ちにしよう」と呼びかけた。

<「戦争法案を廃案に」3万人が国会大包囲!!>
集団的自衛権の行使容認を柱とする「戦争関連法案」に反対し、廃案や撤回を求める市民や学生、学者らの抗議活動が二十四日、国会周辺で相次いで行われた。市民ら3万人(主催者発表)は国会を包囲し、粘り強く戦っていくことを誓った。学生や学者も各々、会見を開き、法案の違憲性を強く訴えるなど廃案を求める声が大きなうねりとなってきた。国会包囲を主催したのは15日から平日の日中に国会前で座り込み行動をしていた市民団体「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」。正門前に設けられた仮ステージの周辺は身動きできないほどの人が集まり、横断幕などを掲げ「戦争法案絶対反対」等とシュプレヒコールを繰り返した。政府・与党は法案を今国会で何としても成立させようと、24日までの予定だった会期を、現憲法下で最長の95日間も延長したばかり。
毎週金曜日に国会前で「戦争法案」に反対する抗議活動をしている学生らのグループ「SEALDs(シールズ)」は24日夕、参議院議員会館で会見。中心メンバーらが「本当に戦争法案を止められるという思いでやっている」と訴えた。集団的自衛権の行使を憲法の解釈変更で認めようとする安倍首相の姿勢に危機感を抱く多分野の学者でつくる「立憲デモクラシーの会」も同日、衆議院第二議員会館で会見し、法案の撤回を求める声明を発表した。

*なお今後とも、本稿「『憲法審査会-違憲』後の動向」は随時、継続的に掲載します。
(民守 正義)