「憲法審査会-違憲」後の動向(15)

「憲法審査会-違憲」後の動向(15)

《国会会期約3ヶ月間延長》

 6月25日、国会会期が約3ヶ月間延長された。安倍政権が、ここまで会期延長したのは「戦争法案」への国民世論の「反対」が多くて強行採決もできず、時間をかけて説得・理解等を得て国際社会からも信任の得た「戦争法案」成立にしたいのだろうが、果たして思惑どおりにいくだろうか。「違憲」なものを「合憲」と分かり易く説明しても無理なものは無理。そこで「毎日」の社説とも照合しながら「国会会期延長」のもたらす問題点等を整理したい。

<「毎日」社説‐国会は「違憲法案」を通すな(要旨)>
 25日から約3カ月間の延長国会が始まる。「戦争関連法案」を巡る、これからの国会審議は戦後70年の節目に国のあり方を決める大きな岐路となる。ここまで1カ月の審議を通じ、関連法案は「憲法違反」であるとの批判が高まっている。それなのに政府は本質的な問題に正面から答えない。答弁がころころ変わる。自衛隊の活動拡大には、法的安定性と国民の理解が不可欠だが、どちらも欠いている。安倍首相は先週の衆議院予算委員会で「国際情勢に目をつぶって、従来の(憲法)解釈に固執するのは、政治家としての責任放棄だ」と語った。だが従来の憲法解釈との論理的整合性を重視するのは当然の事だし、法案に反対する人達が国際情勢に目をつぶっているわけでもない。
 政府が憲法解釈変更の根拠とした1972年の政府見解は、憲法は「『自衛の措置』を禁じていないが、その措置は必要最小限度に留まるべきで、集団的自衛権の行使は許されない」と言っている。
 新しい憲法解釈では、同じ論理を使いながら「安全保障環境の根本的な変容」を理由として、結論だけを「集団的自衛権の行使は許される」と正反対に変えた。こんな恣意的な解釈変更を認めれば、憲法の規範性は崩れ、国民は憲法を信頼できなくなる。論理的整合性がとれないのなら憲法改正を国民に問うべきだ。私達は、安全保障環境の変化に合わせて法制を検討することは否定しない。米国の力の低下や中国との緊張が続く尖閣諸島を巡り、国民に漠然とした不安が広がっているのもわかる。だが、そういう抽象的理由では、憲法解釈を変更してまで集団的自衛権の行使を容認する説明にはならない。
 尖閣諸島の防衛は、個別的自衛権と日米安保で対処できる。首相が集団的自衛権行使の典型例として拘る中東の機雷掃海も、安全保障環境の変化とどうつながるのか理解に苦しむ。
 政府は、他国防衛でなく自衛のための「限定容認」だという。だが中東有事で経済的理由のために集団的自衛権を行使する事例こそが、政府の判断次第で歯止めがかからなくなることを示している。認めるわけにいかない。集団的自衛権の行使容認のための法案は、撤回するか廃案にすべきだ。
 重要影響事態法案についても世界中で自衛隊が米軍等に後方支援できるようにする内容である以上、同意できない。
 一方、国連平和維持活動(PKO)協力法改正案や国際平和支援法案は、関連法案から切り離し、修正のうえ与野党の幅広い合意を得る方向で検討してはどうか。安全保障環境の変化に対応するには、先ず自国の守りを固め同時に憲法の枠内で国際協力活動に取り組む必要がある。勢いに任せて全部行おうという乱暴な発想ではなく法案を絞り込むべきだ。

【「毎日」社説の補足】
「国会会期延長」は、与野党国対委員長会談で24日、25日から審議再開することで合意したもの。同日から9月27日まで95日間の延長国会がスタートする。
 民主党等、野党が会期延長に反発し、国会では24日も衆参両議院委員会で審議が行われなかった。同日の国対委員長会談では、民主、維新、共産3党等が「戦争関連法案」について、衆議院で可決して参議院に送付した後、60日経っても採決されない場合、衆議院出席議員の3分の2の賛成で再可決できる憲法の 「60日ルール」を使わないよう要求。与党は「60日ルール」の適用を「考えていない」と表明し審議再開で折り合った。
 延長国会では、労働者派遣法改悪案(19日に衆院通過)の参議院議論も本格化する。「戦争関連法案」を審議する衆議院平和安全法制特別委員会は26日に安倍首相が出席して集中審議を行う予定だ。

【「毎日」社説の私見】
「社説」は「集団的自衛権行使容認の「拡大解釈-憲法違反」に集中して批判しており、まさに「戦争法案」の本質的問題を突いている。ただ「アベ」にしてみれば「安全保障環境の根本的な変容」により「総理である私が合憲と判断すれば何でも合憲(白紙委任)」と本気で言い切っており、あまり学者等が「憲法違反!」と問題指摘しても「アベ」は「行政府(総理)は合憲と判断している」と全く聞く耳を持たないほど「憲法遵守」の貞操観念は喪失している。ただ「アベ」が最も気にしているのは、米国をはじめ国際社会の中で「民主的手続」によって「集団的自衛権行使容認⇒総理の『安全保障環境の根本的な変容』判断⇒『戦争関連法案』の発動」とした体裁が整えられている事だ。だから「国会会期延長」してでも「与党単独採決」は避けたいし「60日ルール」もできれば適用したくない。そして、だからこそ「維新」を「賛成」でも「反対」でも「対案協議」でもいいから「与党以外の政党会派も含めて『戦争関連法案』が成立した」という実績が欲しいだけなのだ。(だから私は「『維新』は自民党の助け舟」と言っている)その「アベ」判断は「最後は衆議院2/3以上の与党議席数」への驕りがある事は言うまでもない。
ただ問題は、その「アベ」の目算どおり「社会的世論・運動」が「延長国会期末」には国民は「やむなし」と萎えるかどうかだ。「国会会期延長」の効果は「戦争関連法案‐反対派」にしても、テレビ等では隠しているが「戦争法案‐反対!」の声の広がりを更に広げる時間的余裕を与える事にもなる。現に今でも市民レベルでは70年安保に匹敵するぐらい盛り上がりと広がりを見せている。それどころか既に学者達が表明しているように「国会会期延長」が逆に「戦争法案‐反対!」から「安倍政権‐打倒!」への運動発展させる可能性さえ大である。つまり「国会会期延長」は「アベ」は気づいていないかも知れないが「安倍政権にとっても両刃の刃」なのだ。では、この「安倍政権を追い詰めるには、どうすればよいか」
それは今も湧き上がる若者・学者・文化人等々の「戦争関連法案‐NO!」の市民ネットワーク・市民・個人参加型の取組み(集会・デモ等)を連発し、国会議員(民主・共産・社民・生活・保守リベラル等)が、休会中ぐらいは、市民の先頭に立って(「枝野!横断幕ぐらい持て!」)院内・院外の連結を図りながら「戦争関連法案‐反対!」の世論包囲を構築する事だ。院内・院外の闘いの連結が図れば、必ず「与党多数体制」は打破できる。
 ここで若干、苦言を呈したいのは労働組合‐特に連合。
 連合は政府諮問機関等で、色々と反対意見等を述べているようだが、それだけでは「連合の力と政策」とは言えない。
私は本「リベラル広場」を運営しているので、どこの団体や市民等が、どのような取組みを行っているか、だいたいの情報が入るが、とにかく労働組合‐連合の動きが鈍い。
中には「武器製造会社の労使関係」もあって明確に「戦争関連法案‐反対!」を打ち出せないかもしれないが、それならそれで「旧総評センター」を中心に「取り組める労組から取り組む」努力が必要だと思う。「戦争関連法案‐反対!」の国民的運動に「連合が主力的役割を果たす」とは思わないが、国民運動の基礎的力量を成す事も事実。ぜひ市民運動や学者・文化人・若者等の取組みに横睨みするだけでなく「何ができるか」を検討して頂きたい。

《「憲法審査会-違憲(6月5日)」以降のあれこれ⑨》
<なぜ読売新聞世論調査では「戦争法制-賛成」が40%もいるのか? >
本年4月に行われたFNN・「産経」が行った世論調査が捏造の疑いが深いことは、既に指摘したところが、今度は「読売」が「誘導的世論調査」が行われたことが問題指摘されている。
 「戦争法制法案」に「賛成」27.8%、「反対」58.7%。共同通信社が今月20日、21日に実施した全国電話世論調査の結果である。明らかに国民は安倍政権がゴリ押ししている「戦争法制」にNOと言っているわけだが、ところが、ある別のマスメディアはこんな数字を出していた。
〈1.賛成 40%  2.反対 48%  3.答えない 12%〉
 これは「読売」が今月8日に実施した全国電話世論調査結果だ。賛否を問われているのは同じく「戦争関連法案」。「読売」の調査を参考にすると国民の意見は拮抗しているように見える。何故ここまで違いがでるのか?実は、ここにはとんでもないトリックが隠れている。
「世論調査では数字が“力”です。その数字の扱いは注意を要するもので、受け取る側にきちんとした知識がないと騙されてしまうこともありえます」昨年、安倍政権が閣議決定した集団的自衛権の行使容認。2014年の4月から5月にかけて、大手マスメディアが世論調査でその是非について集計したところ、なんと、各社ごとで真逆の結果がでたのだ。
 例えば「反対」に注目すると「朝日」(56%)、「日経」・テレビ東京合同(49%)、共同通信(52.1%)はいずれも50%前後を占めていた一方、「読売」では「使えるようにすべきではない」が25.5%、「産経」・FNN合同調査では「使えるようにする必要はない」が25%と、驚くほど対照的な数字が現れていたのである。「読売」と「産経」は、この自社調査の結果を踏まえて一面をこんな見出しで飾った。〈集団的自衛権71%容認 本社世論調査 「限定」支持は63%〉(「読売」14年5月12日付朝刊)〈行使容認七割超〉(「産経」4月29日朝刊)どういうことか?
 著者は、この正反対の結果は「回答の選択肢」による影響が大きいと分析する。
 「朝日」の選択肢は「行使できない立場を維持する」「行使できるようにする」の二種類だった。日経・テレ東合同、共同通信調査の選択肢もまた「賛成」か「反対」かの二者択一。他方「読売」と「産経」では、若干文言は異なるものの「全面的に使えるようにすべきだ」「必要最小限の範囲で使えるようにすべきだ」「使えるようにすべきでない」の3つから選ぶ形になっていたのである。一見してわかるように「『読売』と『産経』は賛成に関する選択肢が2つ、反対が1つと、バランス的に賛成方向が多い」。しかも賛成と反対の“間”の選択肢のことを「中間的選択肢」と呼ぶが、NHK放送文化研究所の実験調査によれば、“普段あまり考えないようなこと”を質問された場合、人々は中間的選択肢を選ぶ傾向が強くなるという。事実、前述した「読売」と「産経」の世論調査における「賛成」の内訳は、こうなっていた。
「全面的に使えるようにすべきだ」=7.3%(読売)、8%(産経)「必要最小限度で使えるようにすべきだ」=64.1%(読売)、63%(産経)
 要するに「読売」と「産経」の調査では、集団的自衛権行使を「必要最小限の範囲で」認めるという“賛成寄りの中間選択肢”を設けたことで、ここに答えを集中させたのである。改憲派で安倍政権の御用メディアであるこの2社は意図的にこうした選択肢を用意し、あたかも「賛成」が7割超を占めたかのような 見出しをつけ、一面トップで報じた訳だ。明らかな世論操作と言うべきだろう。しかも「読売」と「産経」のペテンはこれだけではない。上智大学新聞学科;渡辺教授によると「世論調査の質問で避けたい言い回し」として、(1)「場合によっては」(2)「慎重に検討すれば」(3)「必要最小限の」(4)「~しても仕方ない」(5)「事情があれば」の5つが紹介されているが「読売」と「産経」は、まさに、この「必要最小限度」という曖昧な条件つきの選択肢を使っている。これは安倍政権が説明する新3要件の一つである「必要最小限の範囲を超えてはならない」が、実際には明確な縛りにならないことと同種の詐術だ。
 更に質問文の説明や前提条件が長いときにも注意が必要だという。なぜならば、その説明文が回答に影響を与える可能性があるからだ。ここで改めて冒頭で紹介した「読売」6月8日の世論調査について検討してみたい。既に勘付いた読者も多いだろうが、この「戦争法制法案」の是非についての質問の説明文に「読売」は狡猾なトリックを仕込んでいたのである。これが、その質問の文言だ。
〈「安全保障関連法案」は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか〉
1.賛成 40%   2.反対 48%   3.答えない 12%
 よく読めば露骨な誘導質問であることは瞭然だろう。「戦争関連法案」の内容についての質問にも関らず、法案は「日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するもの」と、設問段階で、その評価を肯定的に言い切っている。一方で当然のように自衛隊員の死亡リスクや、日本が他国の戦争に巻き込まれるという危険性は隠匿している。つまり「読売」は「平和」「安全」「国際社会への貢献」という美辞で、回答者をミスリードさせようとしたのだ。
 ここに安倍政権への配慮があるのは確実だ。マスメディアによる世論調査の数字は、しばしば国会答弁でも引用される。ひっきょう、この「読売」の“世論操作”を根拠として与党が「国民の中でも賛否が均衡」と、現実とは異なる主張をすることが可能となる。というか、まさにそれが「読売」の狙いと見て間違いない。
 事実「読売」は6月23日の社説でも「国会95日間延長 安保法案を確実に成立させよ」と題して、「安保法案の成立を最優先する首相の判断は評価できる」と、安倍首相の背中を強く押している。
 「読売」も含む全てのマスメディアによる世論調査で、国民の6割前後が今国会での「戦争法制法案」成立に関して「反対」「必要ない」と答えているにも変わらずにだ。最も「読売」がれっきとした報道機関であるならば、常に“世論”を忖度して社説をうつことが望ましい訳ではない。
 しかし世論調査の名目で遂行される、この露骨な“世論操作”の手口を見せつけられると「読売」はもはや報道機関でなく、政府の広報機関だと言わざるをえないだろう。
 なぜならば世論調査は“統計的社会調査”であって、新聞社の言論として認められる“論説”ではないからだ。
 統計的社会調査の報道に意図や主観をねじ込むことを一般的に何と呼ぶか。捏造だ。民意を置き去りのまま「戦争のできる国」へと邁進する安倍政権。それに盲従し世論操作までうってでる「読売」と「産経」。この国の“大政翼賛会化”は、着実に進行しつつある。
*なお今後とも、本稿「『憲法審査会-違憲』後の動向」は随時、継続的に掲載します。
(民守 正義)