「戦争法案-反対」の動めき(2)
「戦争法案-反対」の動めき(2)
《「国会会期約3ヶ月間延長」のメリット・デメリット》
6月25日、国会会期が約3ヶ月間、延長された。安倍政権が、ここまで会期延長したのは「戦争法案」への国民世論の「反対」が多くて強行採決もできず、時間をかけて説得・理解等を得て国際社会からも信任の得た「戦争法案」成立にしたいのだろうが、果たして思惑どおりにいくだろうか。「違憲」なものを「合憲」と分かり易く説明しても無理なものは無理。 それよりもテレビ等では隠しているが「戦争法案‐反対!」の声は市民レベルでは70年安保に匹敵するぐらい盛り上がりと広がりを見せている。「国会会期延長」が逆に「戦争法案‐反対!」から「安倍政権‐打倒!」への運動的時間猶予を与える可能性も大である。
とりあえず基本所見だけ述べて、改めて「国会会期延長」の全面問題提起する。
《「戦争法制」でNHKの偏向ぶりが改めてヒドい!》
先月26日からスタートした「戦争関連法案」の国会審議。自民党は今国会での成立をめざしているが、一方で国民の理解は進んでいるとは言い難い。その最たる原因は質問をはぐらかして説明になっていない説明を繰り返す安倍首相とその仲間達にあるが、もう一つの問題はメディアにある。中でも目に余るのが、“みなさまのNHK”の報道姿勢だ。そもそも国会審議の初日である26日に国会中継を行わず非難が殺到したが、その理由をNHK広報は「必ず中継するのは施政方針演説等の政府演説と、それに関する代表質問というのが原則」「原則外のものはケース・バイ・ケースで対応」と説明。この日は安倍首相が自衛官のリスクについて「あくまで国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、自衛隊員に負ってもらうもの」等と語ったが、このような重要な話題になる事は誰もが解っていたのにNHKとしては「原則外」だったらしい。
だが、これが単なる言い訳に過ぎないことは既に明らかになっている。その一例が5月28日と29日に放送されたNHKの朝のニュース番組『おはよう日本』の不可思議な報道だ。5月28日・29日の『おはよう日本』は〈国会では連日論戦が行われているのに、最新の映像を使わず2日間とも同じ映像を使って「戦争法制」の“ニュース”を流した〉という。『おはよう日本』が2日間にわたって使用したというのは27日の民主党;岡田代表と安倍首相のやりとり。岡田代表から後方支援の地理的制約を無くそうとしている事について質問が行われ、安倍首相は「現実の安全保障環境に即した合理的かつ柔軟な仕組みに整理し直した。活動に参加する自衛隊員のリスクを高めることは考えていない」と答えた。これを28日の『おはよう日本』で放送するのは解るが問題は翌日の29日。普通ならば前日の28日に行われた国会の様子を伝えるものだが、何故か28日の国会の模様は流さず、またしても27日の映像を流したというのだ。
では問題の28日に国会では何が起こっていたか。民主;辻元議員に「早く質問しろよ!」と安倍首相がヤジを飛ばした日なのだ。もちろん28日当日の夜のニュース番組『NHKニュース7』『ニュースウオッチ9』でもヤジ問題はスルーしている。これだけではない。今月14日に国会前に約2万5千人が集まった「安保法案反対」のデモについても、TBS『Nスタ』はトップで報道したほか、テレビ朝日『報道ステーションSUNDAY』もデモの模様を伝えたが『NHKニュース7』と翌朝の『おはよう日本』は無視。香港で行われたデモは取り上げていたのにである。更に先日17日に行われた党首討論でも、当日の『ニュースウオッチ9』は見事な“偏向”ぶりを見せつけた。この日の『ニュースウオッチ9』は国会で行われた民主;岡田代表と安倍首相の質疑応答を主に放送。「ホルムズ海峡において、どのような安全保障環境の根本的変容があったかお答え下さい」と質問する岡田代表に対し、安倍首相がこう説明する模様を流した。
「ホルムズ海峡は、海外でいわば派兵をする事についての例外としての例として私は述べている」「外国の領土、領海、領空での武力行使という事であれば、それは何が可能性としてあるか、という事でありましたから、一般に海外派兵は禁じられているという原則を述べた後に(ホルムズ海峡に敷設された)機雷を排除する場合においては受動的、限定的であるから(武力行使の)新3要件にあてはまることもあり得る」
その機雷除去が「受動的」ではなく「能動的」ではないのかと何度も批判されてきたのに、まだ言うか……と呆れてしまうが、この後も安倍首相は存立危機事態をごにょごにょと説明し「しかし、どういう事でなければ武力行使しないとの政策的中身をさらすことにもなりますから、そんなことを一々、全て述べている海外のリーダーは殆どいないということは申し上げておきたい」と開き直った。
質問には答えず挙げ句、開き直ってみせる。言わば、この日も安倍首相が詭弁を弄した“通常運行”の国会だったのだが、驚かされたのはNHKの担当記者の解説。政治部官邸キャップの原聖樹記者は「今日の討論では(安倍首相は)政府の立場を平易に国民に伝えることに力点を置いていたように感じました」と言い出したのだ。どこをどんなふうに聞いたら、この説明が「平易に国民に伝えていた」と言うのか。
しかし、こうしたあからさまな“政権擁護”はNHKにおいては決して珍しくない。例えば5月30日に中谷防衛相がアジア安全保障会議で中国批判を行った際、NHKは〈「政府の進める『安保法制』を実現させる事が重要」と印象づけた〉。また6月18日の国会で安倍首相は「国際情勢にも目をつぶり、従来の解釈に固執するのは、まさに政治家としての責任の放棄だ」と言い、集団的自衛権は違憲だとする多くの批判をお得意の論理のすり替えでシャットアウトしたが、これを伝えたNHKの正午のニュースは、テロップで「衆議院予算委 集団的自衛権の行使“従来解釈への固執は政治家の責任放棄”」と打ち、安倍首相の言い分を正当化するかのように前面に押し出した。政権寄りの報道を行うフジテレビや日本テレビでさえ、同じ時間帯のニュースでは「「安保」「年金」で集中審議」(フジ『FNNスピーク』)「『安保関連法案』など集中審議」(日テレ『NNN ストレイトニュース』)と打ち出していたことを考えると、NHKがいかに露骨であるかがよく解るはずだ。だが、このようなNHKの態度は今に始まった話ではない。2013年の特定秘密保護法案採決のときも、強行採決を行う寸前でNHKは国会中継を打ち切った。また元NHKディレクターの戸崎賢二氏が昨年7月に集団的自衛権の行使容認を閣議決定するまでの『ニュースウオッチ9』を分析した結果によると〈首相や政府側の言動が放送時間(167分)の約7割を占め、反対派の市民や識者の言動はわずか77秒しか報じられなかった〉という。
しかも、その集団的自衛権の行使容認に絡んで「安保法制懇」の報告書が出たその日『ニュースウオッチ9』には礒崎首相補佐官が、行使容認が閣議決定した後には『クローズアップ現代』に菅官房長官が出演。まるで政権の広報化しているかのようだったが、この『クロ現』では国谷裕子キャスターが「他国の戦争に巻き込まれるのでは」「憲法の解釈を簡単に変えていいのか」と質問。これに菅官房長官が激怒し、番組終了後、籾井会長をはじめ上層部が直々に謝罪したというが、国谷キャスターのごく当然の質問にさえ怒り出したことを考えると、やはり菅官房長官はNHKを“身内”“飼い犬”と捉えていたのだろう。
もちろん、この「不偏不党」の原則を捨てたNHKの報道の元凶は、安倍首相を後ろ盾とする籾井会長の存在が大きい。だが根本的な問題は、政権が公共放送を“下僕化”させてしまうという異常な状態を“許している”点にある。奇しくも先月、NHKは『マイケル・サンデルの白熱教室』で世界各国の放送人を集め「公共放送の未来を考えよう」と題して番組を放送した。その中でサンデル教授は“政権に都合の悪い報道を行うか?”“政権が介入してきたら自主規制するか?”と問いかけた。そのときイギリス・BBCのスタッフは「BBCは事実を尊重し、権力に立ち向かい圧力に屈しないということが原則」「政府の糾弾や圧力には屈しない」と答えた。一方サンデル教授に“政権に都合の悪い報道を行って呼び出しをくらい、その後また物議を醸しそうな話題を取り上げることになった場合、自主規制するか?”と振られたNHK制作局部長は「エグゼクティブ達の覚悟次第だと思います」と気弱に述べた。エグゼクティブの覚悟に左右されてしまう公共放送。……情けなくて悲しくなるが、こんな具合だからNHKだけ受信しない商品まで出回ってしまうのだ。
いや、もう多くの国民はこの商品名と同じように「イラネッチケー」と、NHKにそっぽを向き始めている。
《「このけんか買うしかない」学者vs安倍政権》
「戦争関連法案に反対する声明」に賛同する学者の数が3千人を超えた。
憲法研究者の「違憲」との指摘をきっかけに広がった動きは、学者の見解を軽視するかのような政治家の発言が出たこともあって、さらにボルテージが上がっている。
「学者の言うとおりにして平和が守れるかとけんかを売ってきた。このけんかは買うしかない」と山口法政大教授(政治学)が語気を強めた。分野を横断した学者でつくる「安全保障関連法案に反対する学者の会」が15日に東京都内で開いた記者会見。ノーベル賞受賞者の益川敏英氏も呼び掛け人になって いる。衆院憲法審査会で4日、長谷部恭男早稲田大教授や小林節慶応大名誉教授らが法案を違憲と明言。これを受け、高村正彦自民党副総裁など与党側は「憲法学者の言う通りにしていたら今の自衛隊はなく、日本の平和と安全は絶対守れない」「学者は(憲法条文の)字面に拘泥している」などと発言。これが学者達を強く刺激している。山口教授は会見で「憲法学者が字面に拘泥するのは当たり前。数学者が『1+1=2』に拘るのと同じだ」「学者は権力を批判することが仕事の一部」と語った。
青井学習院大教授(憲法学)も「政府がやりたいから変えるということがあっては、憲法が紙切れになってしまう」と強い危機感を表明した。15日午後3時時点で2678人だった賛同する学者は、16日午後3時に3476人に。反対の輪は広がっている。
学者への政府や自民党の「ご都合主義」的な対応も不満が高まる大きな要因になっている。
15日に日本記者クラブ等で会見した長谷部教授は「今の与党議員は都合が良い事を言ったときは専門家、悪いときは素人と言う」と不快感を露わに。小林教授も12日にあった集会で「私もかつて自民党の会合等に呼ばれたが結論が合えば『先生、さすがです』。そうでないと『あんたねえ』『政治は現実なのだよ』と言われる」と憤った。
《「違憲」学者が安倍政権「倒閣論」次の選挙で》
衆議院憲法審査会で「戦争関連法案」を「違憲」と指摘した憲法学者の長谷部早大教授と小林慶大名誉教授が15日、政府が法案を撤回しないなら「選挙で倒すべきだ」と述べ「倒閣論」に言及した。同法案の撤回も改めて要求。政権との対立姿勢は、さながら 「憲法学者の乱」の様相だ。長谷部教授と小林教授は、都内の日本外国特派員協会と日本記者クラブで会見。「憲法を無視した政治を行おうとする以上、独裁の始まりだ」と安倍政権を強く批判し、法案の撤回を改めて求めた。
撤回を目指す手段として、異例の「倒閣論」にも言及した。法案成立の場合、違憲訴訟が起きても最高裁判決まで時間がかかるとの指摘に、長谷部教授は 「裁判所に頼りすぎるのも良くない。次の国政選挙で新しい政府を成立させ、1度成立した法案は撤回すべき」と主張。小林教授も「狂ってしまった政治は次の選挙で倒せばいい」「民主党がだらしないのは事実だが、次は連立でも政権交代すればいい」と提案した。また「最高裁判決が出るまで、だいたい4年。(来年の)参院選で自民党が沈めば(首相が目指す)憲法改悪はできない。その次の(衆議院)選挙で自民党政権を倒せばいい。4年後の最高裁判決を待つより、よほど早い」とも述べた。弁護士資格を持つ高村;自民党副総裁が「憲法の番人は最高裁。憲法学者ではない」と指摘したことで、有識者の間には自民党への「学者軽視」 (野党関係者)批判が広がる。長谷部教授は「『安全保障の知識を熟知していない』と批判を受けた。今の与党議員は、都合が良いことを言えば『専門家』悪い ことを言えば『素人』と侮蔑の言葉を投げつける」。小林教授は「首相が丁寧に説明した実感はない。質問と関係ないことをとうとうと話し、議論に応じているふりをして応じていない。天下国家を掌る人々の器ではない」と切り捨てた。
小林教授は「憲法を政治家が無視しようとした時、待てと言うために学者がいる」「憲法違反がまかり通ると、憲法に従って政治を行うルールがなくなり、北朝鮮のような国になる。絶対に阻止しなければ」と訴えた。長谷部教授も「今の法案は日本の安全を危うくする。日本の安全を守りたいなら、ぜひ学者の意見を聞いてほしい」と主張した。
《「国会会期約3ヶ月間延長」のメリット・デメリット》
6月25日、国会会期が約3ヶ月間、延長された。安倍政権が、ここまで会期延長したのは「戦争法案」への国民世論の「反対」が多くて強行採決もできず、時間をかけて説得・理解等を得て国際社会からも信任の得た「戦争法案」成立にしたいのだろうが、果たして思惑どおりにいくだろうか。「違憲」なものを「合憲」と分かり易く説明しても無理なものは無理。 それよりもテレビ等では隠しているが「戦争法案‐反対!」の声は市民レベルでは70年安保に匹敵するぐらい盛り上がりと広がりを見せている。「国会会期延長」が逆に「戦争法案‐反対!」から「安倍政権‐打倒!」への運動的時間猶予を与える可能性も大である。
とりあえず基本所見だけ述べて、改めて「国会会期延長」の全面問題提起する。
《「戦争法制」でNHKの偏向ぶりが改めてヒドい!》
先月26日からスタートした「戦争関連法案」の国会審議。自民党は今国会での成立をめざしているが、一方で国民の理解は進んでいるとは言い難い。その最たる原因は質問をはぐらかして説明になっていない説明を繰り返す安倍首相とその仲間達にあるが、もう一つの問題はメディアにある。中でも目に余るのが、“みなさまのNHK”の報道姿勢だ。そもそも国会審議の初日である26日に国会中継を行わず非難が殺到したが、その理由をNHK広報は「必ず中継するのは施政方針演説等の政府演説と、それに関する代表質問というのが原則」「原則外のものはケース・バイ・ケースで対応」と説明。この日は安倍首相が自衛官のリスクについて「あくまで国民の命と平和な暮らしを守り抜くために、自衛隊員に負ってもらうもの」等と語ったが、このような重要な話題になる事は誰もが解っていたのにNHKとしては「原則外」だったらしい。
だが、これが単なる言い訳に過ぎないことは既に明らかになっている。その一例が5月28日と29日に放送されたNHKの朝のニュース番組『おはよう日本』の不可思議な報道だ。5月28日・29日の『おはよう日本』は〈国会では連日論戦が行われているのに、最新の映像を使わず2日間とも同じ映像を使って「戦争法制」の“ニュース”を流した〉という。『おはよう日本』が2日間にわたって使用したというのは27日の民主党;岡田代表と安倍首相のやりとり。岡田代表から後方支援の地理的制約を無くそうとしている事について質問が行われ、安倍首相は「現実の安全保障環境に即した合理的かつ柔軟な仕組みに整理し直した。活動に参加する自衛隊員のリスクを高めることは考えていない」と答えた。これを28日の『おはよう日本』で放送するのは解るが問題は翌日の29日。普通ならば前日の28日に行われた国会の様子を伝えるものだが、何故か28日の国会の模様は流さず、またしても27日の映像を流したというのだ。
では問題の28日に国会では何が起こっていたか。民主;辻元議員に「早く質問しろよ!」と安倍首相がヤジを飛ばした日なのだ。もちろん28日当日の夜のニュース番組『NHKニュース7』『ニュースウオッチ9』でもヤジ問題はスルーしている。これだけではない。今月14日に国会前に約2万5千人が集まった「安保法案反対」のデモについても、TBS『Nスタ』はトップで報道したほか、テレビ朝日『報道ステーションSUNDAY』もデモの模様を伝えたが『NHKニュース7』と翌朝の『おはよう日本』は無視。香港で行われたデモは取り上げていたのにである。更に先日17日に行われた党首討論でも、当日の『ニュースウオッチ9』は見事な“偏向”ぶりを見せつけた。この日の『ニュースウオッチ9』は国会で行われた民主;岡田代表と安倍首相の質疑応答を主に放送。「ホルムズ海峡において、どのような安全保障環境の根本的変容があったかお答え下さい」と質問する岡田代表に対し、安倍首相がこう説明する模様を流した。
「ホルムズ海峡は、海外でいわば派兵をする事についての例外としての例として私は述べている」「外国の領土、領海、領空での武力行使という事であれば、それは何が可能性としてあるか、という事でありましたから、一般に海外派兵は禁じられているという原則を述べた後に(ホルムズ海峡に敷設された)機雷を排除する場合においては受動的、限定的であるから(武力行使の)新3要件にあてはまることもあり得る」
その機雷除去が「受動的」ではなく「能動的」ではないのかと何度も批判されてきたのに、まだ言うか……と呆れてしまうが、この後も安倍首相は存立危機事態をごにょごにょと説明し「しかし、どういう事でなければ武力行使しないとの政策的中身をさらすことにもなりますから、そんなことを一々、全て述べている海外のリーダーは殆どいないということは申し上げておきたい」と開き直った。
質問には答えず挙げ句、開き直ってみせる。言わば、この日も安倍首相が詭弁を弄した“通常運行”の国会だったのだが、驚かされたのはNHKの担当記者の解説。政治部官邸キャップの原聖樹記者は「今日の討論では(安倍首相は)政府の立場を平易に国民に伝えることに力点を置いていたように感じました」と言い出したのだ。どこをどんなふうに聞いたら、この説明が「平易に国民に伝えていた」と言うのか。
しかし、こうしたあからさまな“政権擁護”はNHKにおいては決して珍しくない。例えば5月30日に中谷防衛相がアジア安全保障会議で中国批判を行った際、NHKは〈「政府の進める『安保法制』を実現させる事が重要」と印象づけた〉。また6月18日の国会で安倍首相は「国際情勢にも目をつぶり、従来の解釈に固執するのは、まさに政治家としての責任の放棄だ」と言い、集団的自衛権は違憲だとする多くの批判をお得意の論理のすり替えでシャットアウトしたが、これを伝えたNHKの正午のニュースは、テロップで「衆議院予算委 集団的自衛権の行使“従来解釈への固執は政治家の責任放棄”」と打ち、安倍首相の言い分を正当化するかのように前面に押し出した。政権寄りの報道を行うフジテレビや日本テレビでさえ、同じ時間帯のニュースでは「「安保」「年金」で集中審議」(フジ『FNNスピーク』)「『安保関連法案』など集中審議」(日テレ『NNN ストレイトニュース』)と打ち出していたことを考えると、NHKがいかに露骨であるかがよく解るはずだ。だが、このようなNHKの態度は今に始まった話ではない。2013年の特定秘密保護法案採決のときも、強行採決を行う寸前でNHKは国会中継を打ち切った。また元NHKディレクターの戸崎賢二氏が昨年7月に集団的自衛権の行使容認を閣議決定するまでの『ニュースウオッチ9』を分析した結果によると〈首相や政府側の言動が放送時間(167分)の約7割を占め、反対派の市民や識者の言動はわずか77秒しか報じられなかった〉という。
しかも、その集団的自衛権の行使容認に絡んで「安保法制懇」の報告書が出たその日『ニュースウオッチ9』には礒崎首相補佐官が、行使容認が閣議決定した後には『クローズアップ現代』に菅官房長官が出演。まるで政権の広報化しているかのようだったが、この『クロ現』では国谷裕子キャスターが「他国の戦争に巻き込まれるのでは」「憲法の解釈を簡単に変えていいのか」と質問。これに菅官房長官が激怒し、番組終了後、籾井会長をはじめ上層部が直々に謝罪したというが、国谷キャスターのごく当然の質問にさえ怒り出したことを考えると、やはり菅官房長官はNHKを“身内”“飼い犬”と捉えていたのだろう。
もちろん、この「不偏不党」の原則を捨てたNHKの報道の元凶は、安倍首相を後ろ盾とする籾井会長の存在が大きい。だが根本的な問題は、政権が公共放送を“下僕化”させてしまうという異常な状態を“許している”点にある。奇しくも先月、NHKは『マイケル・サンデルの白熱教室』で世界各国の放送人を集め「公共放送の未来を考えよう」と題して番組を放送した。その中でサンデル教授は“政権に都合の悪い報道を行うか?”“政権が介入してきたら自主規制するか?”と問いかけた。そのときイギリス・BBCのスタッフは「BBCは事実を尊重し、権力に立ち向かい圧力に屈しないということが原則」「政府の糾弾や圧力には屈しない」と答えた。一方サンデル教授に“政権に都合の悪い報道を行って呼び出しをくらい、その後また物議を醸しそうな話題を取り上げることになった場合、自主規制するか?”と振られたNHK制作局部長は「エグゼクティブ達の覚悟次第だと思います」と気弱に述べた。エグゼクティブの覚悟に左右されてしまう公共放送。……情けなくて悲しくなるが、こんな具合だからNHKだけ受信しない商品まで出回ってしまうのだ。
いや、もう多くの国民はこの商品名と同じように「イラネッチケー」と、NHKにそっぽを向き始めている。
《「このけんか買うしかない」学者vs安倍政権》
「戦争関連法案に反対する声明」に賛同する学者の数が3千人を超えた。
憲法研究者の「違憲」との指摘をきっかけに広がった動きは、学者の見解を軽視するかのような政治家の発言が出たこともあって、さらにボルテージが上がっている。
「学者の言うとおりにして平和が守れるかとけんかを売ってきた。このけんかは買うしかない」と山口法政大教授(政治学)が語気を強めた。分野を横断した学者でつくる「安全保障関連法案に反対する学者の会」が15日に東京都内で開いた記者会見。ノーベル賞受賞者の益川敏英氏も呼び掛け人になって いる。衆院憲法審査会で4日、長谷部恭男早稲田大教授や小林節慶応大名誉教授らが法案を違憲と明言。これを受け、高村正彦自民党副総裁など与党側は「憲法学者の言う通りにしていたら今の自衛隊はなく、日本の平和と安全は絶対守れない」「学者は(憲法条文の)字面に拘泥している」などと発言。これが学者達を強く刺激している。山口教授は会見で「憲法学者が字面に拘泥するのは当たり前。数学者が『1+1=2』に拘るのと同じだ」「学者は権力を批判することが仕事の一部」と語った。
青井学習院大教授(憲法学)も「政府がやりたいから変えるということがあっては、憲法が紙切れになってしまう」と強い危機感を表明した。15日午後3時時点で2678人だった賛同する学者は、16日午後3時に3476人に。反対の輪は広がっている。
学者への政府や自民党の「ご都合主義」的な対応も不満が高まる大きな要因になっている。
15日に日本記者クラブ等で会見した長谷部教授は「今の与党議員は都合が良い事を言ったときは専門家、悪いときは素人と言う」と不快感を露わに。小林教授も12日にあった集会で「私もかつて自民党の会合等に呼ばれたが結論が合えば『先生、さすがです』。そうでないと『あんたねえ』『政治は現実なのだよ』と言われる」と憤った。
《「違憲」学者が安倍政権「倒閣論」次の選挙で》
衆議院憲法審査会で「戦争関連法案」を「違憲」と指摘した憲法学者の長谷部早大教授と小林慶大名誉教授が15日、政府が法案を撤回しないなら「選挙で倒すべきだ」と述べ「倒閣論」に言及した。同法案の撤回も改めて要求。政権との対立姿勢は、さながら 「憲法学者の乱」の様相だ。長谷部教授と小林教授は、都内の日本外国特派員協会と日本記者クラブで会見。「憲法を無視した政治を行おうとする以上、独裁の始まりだ」と安倍政権を強く批判し、法案の撤回を改めて求めた。
撤回を目指す手段として、異例の「倒閣論」にも言及した。法案成立の場合、違憲訴訟が起きても最高裁判決まで時間がかかるとの指摘に、長谷部教授は 「裁判所に頼りすぎるのも良くない。次の国政選挙で新しい政府を成立させ、1度成立した法案は撤回すべき」と主張。小林教授も「狂ってしまった政治は次の選挙で倒せばいい」「民主党がだらしないのは事実だが、次は連立でも政権交代すればいい」と提案した。また「最高裁判決が出るまで、だいたい4年。(来年の)参院選で自民党が沈めば(首相が目指す)憲法改悪はできない。その次の(衆議院)選挙で自民党政権を倒せばいい。4年後の最高裁判決を待つより、よほど早い」とも述べた。弁護士資格を持つ高村;自民党副総裁が「憲法の番人は最高裁。憲法学者ではない」と指摘したことで、有識者の間には自民党への「学者軽視」 (野党関係者)批判が広がる。長谷部教授は「『安全保障の知識を熟知していない』と批判を受けた。今の与党議員は、都合が良いことを言えば『専門家』悪い ことを言えば『素人』と侮蔑の言葉を投げつける」。小林教授は「首相が丁寧に説明した実感はない。質問と関係ないことをとうとうと話し、議論に応じているふりをして応じていない。天下国家を掌る人々の器ではない」と切り捨てた。
小林教授は「憲法を政治家が無視しようとした時、待てと言うために学者がいる」「憲法違反がまかり通ると、憲法に従って政治を行うルールがなくなり、北朝鮮のような国になる。絶対に阻止しなければ」と訴えた。長谷部教授も「今の法案は日本の安全を危うくする。日本の安全を守りたいなら、ぜひ学者の意見を聞いてほしい」と主張した。
(民守 正義)
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