「憲法審査会-違憲」後の動向(8)

「憲法審査会-違憲」後の動向(8)

《「憲法審査会-違憲(6月5日)」以降のあれこれ②》
<10代女子が論破!首相補佐官のトンデモ発言>
 「戦争法制」国会では安倍政権の信じられないような「論理的整合性のなさ」「いい加減さ」、そして「憲法や安全保障への不勉強ぶり」が次々と明らかになっているが、ここにきてまた一人それを証明する人が登場した。安倍首相の側近の一人で、国家安全保障担当の礒崎首相補佐官だ。自民党の憲法改正推進本部事務局長で同党の改憲草案を取りまとめ、第2次安倍内閣発足以降は首相補佐官として特定秘密保護法、そして今回の「戦争法制」と、右派政策推進の中心的役割を担ってきた。
 その「礒崎」が数日前、ツイッター上の集団的自衛権に関する議論で、なんと「10代の女の子」に論破され、逃げ出すという醜態を演じたのである。始まりは「礒崎」がツイッターで、集団的自衛権を「隣の家の火事」に例え〔「うちにはまだ延焼していないので、後ろから応援します。」と言って消火活動に加わらないで、我が家を本当に守れるのかという課題なのです〕等とつぶやいたことだった。
 これに対して10代女性から〔「バカをさらけ出して恥ずかしくないんですか。集団的自衛権と個別的自衛権の違いを勉強してください」〕とリプライがあった。東大卒の「礒崎」は他人からバカ呼ばわりされたことがよほど気に障ったのだろう。〔「それは私に仰っているのですか。『バカ』とまで仰ってくれていますので、ぜひ、あなたの高邁な理論を教えてください。中身の理由を言わないで結論だけ「バカ」というのは「××」ですよ。お待ちしています」〕とケンカを吹っかけたのだ。「××」なんていう伏せ字を使う時点で、既に政治家の物言いではないが、しかし、この女性はまったくひるまず、「礒崎」の求めに応じて具体的に問題点を述べていく。〔「先ず例えが下手。戦争と火事は全く別物。戦争は火事と違って少しでも他国の戦争に加担すれ自国も危険にさらす。火事は消化すれば解決する。殺し合いは必要ない。戦争は違うよね?殺し合って何万人何十万人何百万人が死んでくんだよ。それに日本が加担するってことだよ。バカって図星すぎてカチンときたのかな?」〕
 すると「礒崎」は〔「あなたも『例え話』というのが分からないのですか。『例え話』は、本来の話と異なる話から、本来の話の理解を促すものですよね。あなたこそ、一から勉強し直してください」〕とムキになって子供じみた反論を始めたのだ。しかし、これも彼女にかかると一刀両断だ。
 〔「例え話は同等の物で例えないと例えにならないんだよ。わかりますか?後その自衛権の行使は個別的自衛権で対応可能だよって。そこ勉強しろよ」〕さらに他国が日本を守る戦いなんて現実にあるのか、どの国がどんな理由で戦うのか、その原因は何か等、「礒崎」に対して矢継ぎ早に質問に浴びせかけたのだ。
 「礒崎」は、これにまともな答えができないままタジタジ。そして別のユーザーから〔「一般ユーザーの意見に反応するのは結構だけど10代の女の子に、この大人げなさ。世間の最大注目集めている法案担当の総理大臣補佐官だよ」〕と非難されると「礒崎」は〔「10代の女の子でしたか。知りませんでした。悪しからず。ただ来年から選挙権年齢も18歳以上に引き下げられますので、10代だからと言って軽視しては叱られるのではないでしょうか」〕と、意味不明のつぶやきを残して、そのまま女性をブロックしてしまったのだ。
 ネットでは「情けなさすぎる」「レベル低すぎ」「大人げない」と「礒崎」への非難が殺到したが、こんな人物が首相補佐官として「戦争法制」の担当者を勤めてきたというのは、確かにびっくりである。
 しかし実は「礒崎」は過去にもツイッターの発言で何度も物議を醸したことがある。
 10代女子に絡んだ数日前にも、ユーザーからの批判に〔「集団安全保障措置は『戦争』ではありませんから『参戦』ではありません」〕と主張。さらに〔「集団安全保障措置が戦争ではないというのであれば、いわゆる『湾岸戦争』も戦争ではなかったとお考えですか?」〕と質問されると〔「湾岸戦争は、国連安全保障理事会の武力行使容認決議が成立した稀な例ですから、もちろん『戦争』ではありません。但し少なくとも、クウェートは個別的自衛権を行使したのですから、そこは戦争であったのでしょう」〕と無茶苦茶な理屈を開陳している。〔「多国籍軍の集団安全保障措置は『戦争』とは呼ばないと言っているのです。イラクの行為は不当な侵略行為ですから『戦争』です。歴史家が紛争全体をどう呼ぶかは、私は関知しません」〕
 極めつけは3年前の〔「立憲主義など聞いたことがない」〕というツイートだ。
〔「時々、憲法改正草案に対して『立憲主義を理解していない』という意味不明の批判をいただきます。この言葉は、Wikipediaにも載っていますが、学生時代の憲法講義では聴いたことがありません。昔からある学説なのでしょうか」〕(2012年5月28日)
 「礒崎」は地元大分の県立舞鶴高校から東大法学部を卒業し自治省に入った。官僚時代に『公務員のための公用文の書き方』(良書普及会)『分かりやすい法律・条例文の書き方』(ぎょうせい)といった小物感漂う著書を何点も出しているから、お勉強は得意だったのだろう。だが自分が大学の講義で聞いたことがなかったからといって、知らないことを恥じるでもなく「そんなものあるのか」と開き直る姿は、まさに反「知性的感覚」といえるだろう。しかも、このとき「立憲主義も知らずに草案をつくったのか」との批判を受けると、「礒崎」は先日の10代女子に対してのときと同じように、ムキになってバカ丸出しの反論をしていた。
〔「『立憲主義』Wikipediaでは、樋口陽一先生の著書が引用されています。私は芦部信喜先生に憲法を習いましたが、そんな言葉は聞いた事がありません。いつからの学説でしょうか?我々が憲法教科書に使ったのは、有斐閣の法律学全集で、清宮四郎先生と宮澤俊義先生のもの。ありませんね。佐藤功先生の『日本国憲法概説』を見ていますが『立憲主義』は無いようです。法制局に聞くと『京都大学の佐藤 幸治先生が広めたのではないか』と。それならば、80年代以降でしょう」〕
 アンタが何年に、どんな勉強をしてきたのかは関係ないし、ウィキを引く暇があったら、もっと勉強しろとツッコミを入れたくなるが、いずれにせよ知の蓄積をないがしろにして、自らの体験・経験に基づき、世の中を自分の都合のいいように解釈しようという態度がアリアリとわかるだろう。これは権威ある憲法学者の見解を頭ごなしに否定するばかりか「学者のいう通りにしたら日本の平和が保たれたのか」(高村自民党副総裁)と、学者の存在そのものを否定し始めた安倍政権の姿勢そのものなのだ。
 反「知性」の具体例として、よく引き合いに出される古代ローマでは、国民が政治に文句を言わないようにパンと娯楽を与え続けたという。これなど安倍政権が官製相場で株高を演出することで国民に文句を言わせないようにしているのとソックリだ。そして、その象徴的存在である「礒崎」は改憲についてこんな本音も漏らしている。今年2月に盛岡市で行われた改憲に向けての自民党の「対話集会」でのこと。党員や支持者ら約200人を前に「来年中に1回目の国民投票まで持っていきたい。遅くとも再来年の春には行いたい」とスケジュールを話した後「憲法改正を国民に1回味わってもらう。『憲法改正はそんなに怖いものではない』と なったら、2回目以降は難しいことを少しやっていこうと思う」と発言したというのだ。
 改憲の主体は国民であるべきはずだが、この人の頭の中では国家が主体で、国民を徐々に改憲に向けて調教していこうという発想になっているらしい。 パンと娯楽を与えておけば、株高さえ続いていれば、国民は文句を言わないとタカを括っているのである。もっとも神道政治連盟国会議員懇談会や創生「日本」、日本会議国会議員懇談会に所属している「安倍」取巻きのゴリゴリ右派だけに当然のことかもしれない。
 だからこそ、反「知性」丸出しで「立憲主義」を「聞いたことがない」「教科書に書いてなかった」などと言い切ることができるのだろう。
 因みに菅官房長官が先日、国会で「集団的自衛権は合憲だとする憲法学者」として3人の具体名を挙げたが、いずれも日本会議の関係者(関連団体の役員)だった事がわかっている。
 安倍政権の周りにいる、こうした知性の欠片もない偏った思想の人達の手で、これから日本という国の形はどんどん変えられていくのだろうか。

<「戦争法制批判!」「安倍首相は軍国主義」「国策として誤り」>
 安倍政権が強引に推進める「戦争法制」は、衆議院憲法審査会に招致された3人の憲法学者全員が「違憲」と証言したことで、ようやくその危険性が国民にも知れ渡り始めた。
 官邸と自民党は火消しに躍起だが、しかし批判の動きはどんどん広がっている。今度は“身内”ともいえる自民党の元重鎮から「戦争法制」へのかなり踏み込んだ批判が飛び出し波紋を呼んでいる。
 その重鎮とは、元自民党副総裁にして防衛庁長官の経験もある山崎拓元衆院議員だ。
 山崎は6月6日に放映された『報道特集』(TBS系)にインタビュー出演したが「戦争法制」の危険性を鋭く指摘。更には安倍首相の“平和主義”の欺瞞についても真っ向から批判をした。「安倍政権の言う平和主義とは自衛隊を海外で活動させることで、世界平和に貢献しようという考え方です。しかし、これは国策として誤りです」安倍首相の言っていることは「国策として誤り」。つまり日本の利益にならない。山崎はこう断言したのだ。その理由について財政負担と自衛隊のリスク、そして人員確保を上げている。「(『戦争法制』が成立すれば)自衛隊は更に大きくしないといけない。財政負担もあるし、自衛隊員の応募から変わってくる。海外に出して死者を出せば、なかなか応募してくれない」
 自衛隊員の死亡にまで踏み込む山崎だが、自衛隊のリスクについて山崎は大きな懸念を抱いているようだ。「報道特集」放映後の8日に発売された「AERA」(朝日新聞出版)6月15日号でも、かつての“宿敵”岡田民主党代表との対談「国会論戦を阻む『ごった煮法案』」に登場し、自衛隊員のリスクを理由に法案に反対を表明した。「リスクの面で特に強調したいのは、国際平和支援法の基づく自衛隊の後方支援活動です。後方というのは戦闘の前線と一体で、つまり兵站です。ですから敵軍は必ず後方も襲う」
 そうなれば自衛隊も防戦し武力行使、戦闘状態になる。「そこで死傷者が出ないなんて考えにくい。ですからリスクが高まることは間違いありません。だから私は、自衛隊を後方支援に出すこと自体に反対です」
 国会で安倍首相や中谷防衛相が、のらりくらりとまともに答えない最大の争点である自衛隊のリスクを明確に認めたのだ。その上で今回11本もの法案を一度に出してきた安倍首相の乱暴とも思える手法の背景についても、こう解説している。「これはおそらく、この法案を準備した官僚のやり口だと思うのです。法案を一本一本審議したら大変だから、この際、長年抱えてきた課題を一気に片づけようとしている。(略)国会議員は一つひとつの素材を吟味せずにまとめて食べちゃう。『この素材に毒が入っている』なんてことは考えない」
 更にその背景には、外務官僚の対米追従体質と、それを自らの願望である憲法改悪に結びつけようとした安倍首相の傲慢さがあると指摘するのだ。
 しかし言っておくが、山崎は決して反戦平和、護憲という考えの持ち主ではない。政治家として長年、憲法9条改正を主張してきたし、また集団的自衛権行使についても賛成論者だ。更にかつては国防族のボスとまで言われた人物でもある。だがそんな山崎までが、今回の「戦争法制」は危険過ぎるというのだ。逆に言えば、それをやろうとする安倍政権がいかに異常な存在かということでもある。
 実際、山崎は自身の過去の経験から「報道特集」でさらに驚くべき発言までしている。
 それは2003年、自身が自民党幹事長時代に深く関わった自衛隊派遣のための「イラク特別措置法」の議論を振り返り、それらに比べ「野党に理解してもらおうとの姿勢がない」と安倍首相を批判した後に発せられた言葉だった。「イラクに行った我が国の方針は結果的に間違いでした。(イラク戦争は)大量兵器を破棄させるのが本来の狙いだったはずですが、それがいくら探してもないのですから。間違った部分があることは間違いない」イラクへの自衛隊派遣は間違い。山崎は「報道特集」だけでなく「朝日新聞」(15年4月3日付)でも「大量破壊兵器があると信じたのは間違いでした」と語り、その間違いの背景についても「日本の政治家に叩き込まれた『日米同盟堅持』という外交理念によるものが大きい」と政治家達の「対米コンプレックス」に言及している。また安倍首相に対しても、こう指摘した。
 「首相の『我が軍』発言には、国家のために軍隊は血を流すものだという軍国主義を肯定するニュアンスさえ感じる」安倍政権への批判を行ったのは今回、名前があがった山崎だけではない。同じく自民党の元重鎮である野中広務や古賀誠、河野洋平等もまた安倍首相の「集団的自衛権容認」「軍事法制」に対し、批判や懸念の声を上げている。憲法学者に加え自民党OBからも大きな批判が巻き起こるほど杜撰でとんでもないシロモノ。それが安倍首相が前のめりに進める「軍事法制」の正体だ。この法案はなんとしても私達国民の手で廃案にしなければならない。

*なお今後とも、本稿「『憲法審査会-違憲』後の動向」は随時、継続的に掲載します。
(民守 正義)