「憲法審査会-違憲」後の動向(7)

「憲法審査会-違憲」後の動向(7)

《「憲法審査会-違憲(6月5日)」以降のあれこれ》
<「戦争法制」九州各地で反対集会「戦争法案いらんばい」>
 集団的自衛権の行使を容認し、自衛隊の活動範囲を広げる安全保障関連法案への反対などを訴える集会やデモ行進が13日、九州各地であった。
 福岡県弁護士会は、福岡市中央区の市民会館で「憲法違反の集団的自衛権に反対する市民集会」を開き、弁護士200人を含む約1700人が参加した。
 日本弁護士連合会憲法問題対策本部の伊藤真副本部長が講演。集団的自衛権の行使が容認されれば、交戦権を認めていない憲法9条が空文化されると指摘して「どんな国にしたいのかは私たち自身が決めること。憲法の番人は私たち国民だ」と訴えた。集会後は市内中心部をデモ行進し、「戦争法案いらんばい」 とシュプレヒコールした。
 佐賀県鳥栖市では、市民団体が主催する「戦争立法に反対する学習会」があり、約30人が参加した。同県弁護士会の東島浩幸弁護士が集団的自衛権に ついて「行使したら国際紛争の当事国となり、相手から攻撃を受ける可能性がある」と指摘した。参加した鳥栖市の無職、山元睦美さん(63)は「戦争は絶対 にいけない。外交で解決していくべきだ」と話していた。
 一方、長崎県佐世保市では、陸上自衛隊相浦駐屯地と海上自衛隊佐世保教育隊などの約630人が商店街をパレードした。恒例行事で新入隊員の市民へ のお披露目が目的だが、佐世保地区労などはパレードに反対する集会を開催。参加者約100人は「戦争にいかせたくありません」などのプラカードを掲げた。
  今夏までに安保関連法案の成立を目指す政府に対し、地区労の豊里敬治議長は「政府は隊員の命や人権をもっと見つめるべきだ」と批判した。

<合憲説明、政府ちぐはぐ 閣僚ら釈明相次ぐ>
 新たな「戦争関連法案」を審議する衆議院特別委員会は10日の質疑で、法案が「憲法違反」かどうかを巡り論戦を交わした。政府が過去の最高裁判決を合憲の論拠として持ち出したことについて、野党は「こじつけだ」と批判。閣僚らの答弁も揺らぐ等、ちぐはぐな対応も目立った。
 憲法学者3人が集団的自衛権の行使などを盛り込んだ関連法案を「憲法違反」と指摘した余波は、この日も続いた。
 横畠内閣法制局長官は9日に公表した政府見解を説明「憲法9条は砂川判決で示されているとおり、自衛権を否定していない。これまでの政府の憲法解釈との論理的整合性は保たれている」と砂川事件の最高裁判決を引き、法案の「合憲論」を展開した。
 民主党;辻元委員は、首相の私的諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)の座長代理を務めた北岡伸一の発言を取り上げ「北岡さんは『砂川判決は米軍と基地に関する裁判で、そこに展開されている法理は必ずしも拘束力を持たない』と言っている。こじつけようとするから、憲法学者がおかしいと言っている」と批判した。
 そもそも砂川判決は、与党協議を主導した自民党;高村副総裁が昨年、集団的自衛権の行使容認に否定的な公明党を説得するために持ち出した論理だ。
 だが、公明党の山口代表は当時「自衛隊が合憲、違憲かという論争の中で下された判決であり、集団的自衛権を視野に入れた判決ではない」と反発。結局、砂川判決を行使容認の根拠とはせず、戦力を持つことを禁じた憲法9条の下でも「自衛の措置をとることを禁じているとは解されない」とした1972年の政府見解を根拠にすることで両党は合意し「封印」した経緯がある。その砂川判決を政府が再び持ち出したのには理由がある。
 法案を「違憲」と断じた憲法学者に対抗するため「憲法の番人」である最高裁が「自衛権について述べた唯一の判決」(高村)を根拠にすることで、法案に正当性があることをアピールする狙いがある。安倍首相も8日、訪問中のドイツ・ミュンヘンでの記者会見で「今回の法整備にあたっての憲法解釈の基本的論理は、砂川判決の考え方と軌を一にするものだ」と強調した。
 一方で政府・与党は砂川判決の別の側面にも着目。「違憲」という指摘への反論材料にしている。
 砂川判決は国防など高度の政治性をもつ国家の基本政策について「司法審査には馴染まない」とする判断をしており現在でも重要な判例として影響力を持っている。自民党は「平和安全法制について」と題したビラの中で「憲法に合致するかどうかを判断するのは裁判所ではなく、内閣と国会」と明記。「安保政策に責任を持つのは、私達政治家」と主張している。こうした政府・与党の対応ぶりについて、共産党;宮本委員は10日「砂川判決は集団的自衛権に触れていない」と追及。これに対し横畠内閣法制局長官は「集団的自衛権に触れているわけではない」と認めた。更に宮本委員は、政府が引用する砂川判決の自衛権を巡る部分についても、判決を導き出すための論理ではない「傍論(ぼうろん)」部分であると指摘。「砂川判決を集団的自衛権の根拠づけに使うのは、ご都合主義だ」と断じた。
 政府側の発言修正も相次いだ。菅官房長官は4日の会見で「『違憲じゃない』という著名な憲法学者もいっぱいいる」と発言したことについて辻元委員から「違憲じゃないと発言する憲法学者をいっぱい挙げてください」と問われた。
 菅官房長官は3人の憲法学者の名前を挙げたが「私は数ではないと思いますよ。憲法の番人は最高裁だから、その見解に基づいて今回の法案を提出した」と答弁。別の議員から具体的な人数を問われると「私自身が知っている方は10人程度。大事なのは憲法学者の多数派か少数派かではない」とはぐらかした。一方、中谷防衛相は5日の衆議院特別委で「現在の憲法をいかに法案に適用させていけばいいのか」と答弁し、それに対して野党が「立憲主義に反する」と批判。中谷防衛相は「撤回させていただく」として「憲法の解釈の範囲内で法案を作成したという意味で申し上げた」と釈明した。
 憲法解釈の変更で「法的な安定性を大きく揺るがす」(長谷部恭男・早大教授)と指摘されていることも議論になった。政府は9日の見解で「安定性は保たれている」と反論し、その根拠として自衛権の行使を認めた72年の政府見解の「基本的論理」を維持していると訴えている。当時は認められないとしていた集団的自衛権が認められるようになった理由について「安全保障環境が根本的に変容」したことを挙げ、「これまでの認識を改める」とした。こうした政府の説明に野党は「ときの政府の判断によって結論部分をころころ変えても良いのか」と追及。横畠内閣法制局長官は「安全保障環境の変化に伴い、従前想定されなかった事態も起こりうる」と述べ、今後も安保環境が変われば憲法解釈が変わりうることを認めた。「憲法違反」との批判が強まる中、法案成立後に最高裁が違憲判決を出した場合の対応も問われた。民主党;寺田委員らは「違憲判断がなされた場合、慣例どおり法律の執行を停止するのか」と質問。中谷防衛相は「最高裁の判断には従う。法治国家として適切に対処する」と述べるにとどめた。
【用語解説「砂川事件の最高裁判決」】
 東京都砂川町(現立川市)の旧米軍立川基地の拡張に反対した7人が基地に入り、日米安保条約に基づく刑事特別法違反に問われた事件に対する1959年の最高裁判決。一審は「安保条約での米軍駐留を憲法9条に反する」として全員無罪としたが、最高裁が破棄。差戻し審で全員有罪が確定した。
最高裁は自衛権を認める一方、安保条約や在日米軍について「高度の政治性を有し、司法裁判所の審査には原則として馴染まない」と合憲かどうかの判断を避けた。

<防衛相、隊員の「リスク増える」>

  中谷防衛相は12日、衆議院「戦争法制」特別委員会で「戦争関連法案」に盛り込まれた自衛隊の活動拡大に伴う隊員のリスクについて「増える可能性はある」と初めて言及した。同日、閣議決定された政府答弁書は「リスクは高まらない」としており、逆の見解となった。 どちらが本音か?
 中谷防衛相は「法律に伴うリスクが増える可能性はあるが、任務をさせる上ではリスクを極小化させる」と述べた。答弁の訂正はしなかった。
 なお政府答弁書は「自衛隊員が戦闘行為に巻き込まれるリスクが高まるとは考えていない」と明記している。

*なお今後とも、本稿「『憲法審査会-違憲』後の動向」は随時、継続的に掲載します。
(民守 正義)