「憲法審査会-違憲」後の動向(3)

「憲法審査会-違憲」後の動向(3)



《6月10日「衆議院特別委員会」またもや砂川判決》
横畠内閣法制局長官は「憲法9条は砂川判決で示されているとおり、自衛権を否定していない。これまでの政府の憲法解釈との論理性は保たれている」との「合憲論」を展開した。
これに対して辻元委員(民主)は「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」座長代理を務めた北岡さんの発言を取り上げ「北岡さんは『米軍と基地に関する裁判で、そこに展開されている法理は必ずしも拘束力を持たない』と言っている。こじつけようとするから、憲法学者がおかしいと言っている」と批判した。そもそも砂川判決は、与党協議の間でも「集団的自衛権を視野に入れた判決ではない」として「封印」した経緯がある。それでも政府が砂川判決に未練たらしいのは「憲法の番人」である最高裁が「自衛権について述べた唯一の判決」を根拠とする事で、法案に正当性があることをアピールする狙いがある。ただ、それだけのことで砂川判決が「集団的自衛権には何ら関係のない「お門違い判決」であることには変わりなく、恥を搔き続けるだけの事だけである。
 ただ難儀なのは「三権分立の基本原則」を堂々と否定して「憲法に合致するか否かを判断するのは裁判所ではなく内閣と国会」「安保政策に責任を持つのは私達-政治家」としてはばからない。
 法理論的にはムチャクチャで「独裁主義」に通ずるものだが、最終的には国民世論で「自民党の政治的撤退」まで求めて「独裁者」の目は早めに摘まないと危なくて仕方ない。
また政府は「時の政府の判断によって結論部分を、コロコロ変えても良いのか?」との質問にも「安全保障環境の変化に伴い、従前想定されなかった事態も起こり得る」と認めた。どうも衆議院憲法審査会‐「憲法違反」判断以降、基本的に「開き直り」路線で、総反発を食らわぬ程度に強行審議していく路線で行くように思える。
 
《集団的自衛権-行使例の機雷除去Q&A》
Q;安倍首相は、集団的自衛権行使の事例として「ホルムズ海峡の機雷除去」を挙げるけど、そもそも機雷って何ですか。
A;船舶の航行を妨害する目的で海峡や港湾の出入り口にまく海の爆弾です。鎖でつながれた係維機雷、海底に置く沈底機雷、 魚雷を発射する短係止機雷があります。船体が触れたり、鉄製の船の磁気に反応したりして爆発する他スクリュー音や水圧に反応するタイプもあります。
Q;機雷敷設は内緒?
A;国際法上、敷設した国は敷設海域を告示する義務があります。仮に一個しか撒いていなくても機雷に触れれば沈没するので、告示海域は通れなくなります。
Q;除去が必要ですね。
A;船舶が、行き来できる航路を確保しなければなりません。除去作業は主に「掃海具」という道具で鎖を切って機雷を浮上させたり、磁気を出して誤作動させたりします。まず掃海ヘリコプターが掃海具で上空から大まかに除去し、次に掃海艇が敷設海域に入って根こそぎにします。
Q;掃海艇は機雷の上を通っても大丈夫なの?
A;もちろん危険はあります。磁気に反応しないよう船体は木やグラスファイバーでできていますが、エンジンは鉄です。それでも敷設海域を何度も往復して安全性を確認します。
Q;機雷除去での自衛隊派遣はどの程度の規模になるの?
A;現場の状況にもよりますが、複数の掃海艇のほか、ヘリ空母型護衛艦、掃海母艦、補給艦など最低でも七、八隻は必要でしょう。掃海ヘリは普段は艦艇に搭載していないので、輸送艦で運ぶかもしれません。
Q;機雷を敷設した国は黙っているでしょうか。
A;航空機などによる掃海艇への攻撃が考えられますね。発進して来ないよう基地を攻撃する必要が出てきて、本格的な戦闘になるおそれがあります。
Q;安倍首相は「事実上もう戦闘が行われていない、しかし、停戦合意が国際的な法理上成り立っていない状況」での機雷除去を主張しています。
A;それなら正式な停戦を待てばよいだけの話です。停戦合意後、機雷は遺棄されるので集団的自衛権の行使にはならず、法改正の必要もありません。危険な掃海作業を安全に見せかけようとするから、ほころびが出てくるのです。

《問われる中谷防衛大臣の資質「憲法」と「法葎」の関係も分からず》
 嘘とゴマカシだらけの答弁に、招致した憲法学者の「違憲」発言と、戦争法案のでたらめが次々明るみに出ている今国会だが、その国会で安倍首相に並んで、国民を呆れさせているのが中谷防衛相だ。
 象徴的なのが、維新の党;柿沢幹事長の質問に「武力の行使と武器の使用、この違い、本当にわかりませんか?それが分からないと、これ議論できませんよ」と上から目線で言い放ったことだろう。
 この答弁は「国民に説明しようという姿勢がない」と野党の激しい反発を呼んで、中谷大臣は謝罪に追い込まれた。
 だが、その後も中谷大臣に反省の色はなかった。
 例の憲法学者の違憲発言を巡ってなんと「現在の憲法を、如何にこの『軍事法案』に適応させていけばいいのかという議論を踏まえて閣議決定を行った」と言い放った。
 つまり『軍事法制』に合わせて憲法解釈を変えるという立憲主義を頭から否定するような発言を行って、 野党のみならず与党関係者まで唖然と困らせた。
 自衛隊員のリスクについても同様で「(『戦争関連法案』が成立しても)隊員のリスクは増大しない」「自衛隊員の任務は、これまでも命がけであり、これ以上ないリスクを負っているから、変わりはない」等と、訳の分からない言い切りを連発している。
 だが、この中谷大臣‐陸上自衛隊出身という経歴等からゴリゴリの右派と思われがちだが、実は元々はリベラル派を自称し、なんと「集団的自衛権をはじめとする解釈改憲に反対」の立場をとっていた。
「憲法を改正するかどうか、改正しなくても解釈の変更を行うべきとの議論があるが、私は現在の憲法の解釈変更はすべきではないと考えている。解釈の変更は、もう限界に来ており、これ以上、解釈の幅を広げてしまうと、これまでの国会での議論は何だったのか、ということになる、憲法の信頼性が問われることになる」。
 著書『右でも左でもない政治』(幻冬舎/2007年)の中で、こう言い切っているのは、他ならぬ中谷自身だ。
「憲法の拡大解釈は限界に達している」という節の中で、中谷はこう断言もしている。「自衛隊を海外に派遣する際の枠組みとして、国連安保理の決議を踏まえたものに限ることは、重要な考え方である」と。以前は、こんなことを主張していながら今は、これまでの国会の議論を全て無意味にしてしまうような「解釈改憲」の旗ふり役を務め「『軍事法制』に合わせて憲法解釈を変える」と堂々と宣言するのだから、その厚顔ぶりには唖然とするしかない。
 米軍基地問題も同様だ。野党時代に出版した『なぜ自民党の支持率は上がらないのか』(幻冬舎/2012年)では、米軍普天間飛行場の移設問題で迷走した民主党の鳩山政権を強烈に批判し「国の安全保障において、一番必要なのは信頼関係の再構築であり、そのためには政府・総理・官房長官はもっと沖縄に足を運び…沖縄に対する配慮と誠実な姿勢を示すべきである」と言い切っている。
 安倍首相の前でも、ぜひ同じ啖呵を切ってもらいたいと思わせる堂々たる言説だが、もちろん今はそんなことは口が裂けても言わないし、それどころか中谷自身も防衛大臣なってからは、なかなか沖縄に行こうとしなかった。
 ただ、こうした過去の言動を引合いに出して、それだけで中谷を「リベラル派から転向」したと糾弾するのは、いささか単純過ぎて、それはそれで不適切ともいえる。
 大方の人は忘れているだろうが、中谷は自民党憲法調査会-改憲案起草委員会座長を務めていた2004年「リベラル」とは全く逆の方向の“事件”を引き起こしたことがある。
陸上自衛隊中枢の陸自幕僚監部の二等陸佐が「軍隊の設置」や「集団的自衛権の行使容認」等を盛り込んだ憲法改正案を作成し、それを密かに中谷に渡していたのだ。
 しかも依頼したのは中谷とされ、陸自幹部の考えは、自民党の憲法改正草案に反映されたという。
 作成者の二等陸佐は「陸上幕僚監部防衛部防衛課防衛班」という制服組の中枢中の中枢に属しており、中谷が受け取った文書は「草案」「改正案」の二つに分かれていたとされる。
いったい、どんな内容だったのか。「草案」に盛り込まれていたのは(1)侵略戦争の否定(2)集団安全保障(3)軍隊の設置、権限(4)国防軍の指揮監督(5)国家緊急事態(6)司法権 (7)特別裁判所(8)国民の国防義務─の8項目で、各々の条文を列記していた。それらの条文は、例えば「国の防衛のために軍隊を設置する」「集団的自衛権を行使することができる」等と極めて具体的。首相が「緊急事態の際は国家緊急事態を布告」できるという条文や「全ての国民は国防の義務を負う」等の条文が盛り込まれていた。さらに軍事裁判所を念頭に置き「特別裁判所」の設置にも触れている。
 一方「改正案」は「集団的自衛権、並びに国連の集団的措置(集団安全保障)に基づく武力行使の容認」について「必要不可欠」と強調。これらを実現すれば「日本が攻撃された場合に米国等の防衛(日本以外を標的とするミサイルの迎撃を含む)」「有志連合軍に参加しての戦闘行動(アフガン、イラク等)」が可能になる、等と記されていたというのだ。いったい、これはどういうことか。
 当時の中谷は「政治家として勉強のために『力を貸してくれ』といったのは事実だが、学者を含め多方面に参考意見を求めている。
 私的なものであり、陸佐の文書は素案を書いた調査会側にも渡していないため、問題ない」などと釈明していたが、憲法改悪という極めて高度な政治的問題に「制服組」を関与させるというのは、シビリアンコントロール(文民統制)の観点から見てもありえない行為だ。
 しかも文書には二等陸佐の個人名、職場の連絡先が明記され、職場のファクスから送信されたというから「私的なもの」ではなかった。常識的に考えて、こうした「草案」「改正案」を二等陸佐が1人で仕上げたとは考えにくい。その背後には間違いなく、他の制服組、さらには幹部の存在があるはずだ。
 実は04年の“事件”は「むしろ自衛隊の側が仕掛けたもの、つまり“軍”による“改憲クーデター計画”だったのではないか」という見方がある。
 中谷は元々、二世議員で自衛隊出身といっても数年在籍しただけで中枢に人脈は殆どなく力関係から言っても制服組エリート集団に、こんなことを指示できるとは考えられない。むしろ自衛隊の側が自分達の意向を改憲案に反映させようと自民党サイドにアプローチしたもので、中谷は、その意を受けた単なる仲介役にすぎなかったと見られている。
 そう考えると安倍首相の意図を代行しているだけの今の中谷の有り様もよくわかる。
 この男には確固とした政治的信条等はなく、その時々の“ボス”に言われるまま、何も考えずに動いているだけなのだ。
 いや、この男にないのは政治的信条だけではない。今国会でも明らかになっているように、憲法や防衛、外交に対する知識が全くないのだ。中谷の“愚かぶり”のエピソードは、これまでも山ほどある。
 例えば今年2月27日、防衛庁設置法の文民統制に関する改正について聞かれた際 「これ(防衛庁設置法)ができたのは1954年。私は、その後、生まれた訳で当時、どういう趣旨があったかは分からない」等とオコチャマ答弁。その後、国会でも追求された。
 また、特定秘密保護法が成立した直後に行われた地元・高知新聞でのロング・インタビューでは、記者の質問に詰まる場面が何度も出てくる。
 当時の中谷は衆議院特別委員会の与党筆頭理事。同法修正案の提出者だったにも関らず、内閣官房が作成した秘密保護法の逐条解説を記者に突きつけられると「もう去年(2012年)こんなのできてんの?なんでできてるんでしょうね?」等と回答している。
 逐条解説を読み込んでいないどころか、その存在を法案成立後になっても知らなかったという醜態をさらしてしまったのだ。
 まだある。13年に改憲問題で「週刊プレイボーイ」(集英社)の取材を受けた中谷に関し同誌で、こんなエピソードを暴露されている。「先ず驚いたのは、自民党の憲法改正起草委員長でもある中谷さんが『立憲主義とはなんぞや?』といった憲法学の基礎を理解していないどころか、肝心の自民党改憲草案に関する理解すら極めて曖昧であったコトだ」(同誌13年12月16日号より)
 また、この際、中谷は憲法にある国民の三大義務「納税・教育・勤労」すら答えられなかったのだ。
 「(略)国政において要職に携わる人物が、憲法について、これほど『無知』だということは明らかに『国家安全保障上の大問題』 だろう♭その事実はもはや『特定秘密』に指定すべきだと思うのだが、どーだろう?」(同前)
 安倍首相といい中谷防衛相といい、要するに私達の国はこんなただの“愚か者”の言いなりになって戦後70年間、大切に守ってきたものをドブに捨てようとしているのだ。
*なお今後とも、本稿「『憲法審査会-違憲』後の動向」は随時、継続的に掲載します。
(民守 正義)