ピケティと「アベノミクス」
ピケティと「アベノミクス」
今日の「アベノミクスの経済効果」を推し量るのに「雇用」「実質賃金」「企業の景気予測」等があるが、いまのところ「各種経済統計」は悪くはない。
例えば4月の全国有効求人倍率は1,17倍と23年1ヶ月ぶりの高水準。完全失業率も3.3%で18年ぶりの低さである。その背景的要因には「景気回復基調」と「少子化による労働力不足」がある。ただ負の面が無い訳ではなく、求人内容は低賃金の職種や非正規雇用が目立つ。今後は仕事の「質」の改善と「実質賃金の上昇」「圧倒的に多い中小企業への波及」等がポイントだ。なお余談だが、昨年総選挙前、TBS「NEWS23」が「景気が良くなったとは思わない」と素朴実感を語る街頭インタビューを放送したことに、生出演した安倍総理が「おかしいんじゃないですか!?」と短気に食ってかかったことは、あまりにも有名。安倍総理に言っておくが「経済には謙虚・冷静に」にが経済政策の基本姿勢であるべきことだとご忠言申し上げる。
次に4月の「全国消費者物価指数」は103.3となり、昨年同月と実質的には横ばい。
また企業産活動も鉱工業生産指数(速報値)が前月を1.0%上回る99.1で緩やかな回復基調が続く。さらに経団連による「夏のボーナス調査(第1回集計)」によると、妥結額は平均で昨年夏より2.43%多い91万3106円で3年連続のプラス、2008年以来の高水準だった。63社の内、54社が「製造業」で、「製造業」に限れば妥結額は96万7870円。「自動車」は伸び率こそ0・19%減だったが金額は110万3802円で最多だった。
造船(87万2248円)電機(85万8495円)も多かった。
最近は企業業種の改善と共にボーナス額を業績に連動して決める傾向が強まってきており、それが高い水準になった背景にある。
そして企業の業績回復を背景に採用意欲も高まっている。「朝日」が主要100社に来年春の新卒採用計画を質したところ、前年より「増やす」は42社で「減らす」の11社を大きく上回った。特に「売り手市場になった」と感じている企業は64社に上った。
また内閣府;5月‐月例経済報告では「景気の基調判断‐『緩やかな回復基調が続いている』」を2か月連続で据え置いた。個人消費では10ヵ月ぶりに上方修正する等、家計部門で改善の動きが出たが、先行して回復してきた企業部門に陰りが見えてきた。
最後にアベノミクスのキイポイントでもある「デフレ脱却予想」だが、日銀副総裁は「物価下落が今後も続けば、予想インフレ率が下がる可能性は絶対ないとは言えない」と警戒感含みのコメントを出した。つまり日銀は今のところ、中長期的には予想インフレは上がっていると見ているものの「常に注意しながら見ている」とのスタンスだ。
総じてアベノミクスは、圧倒的に多い中小企業への波及効果への懸念等、不安定要素を抱えながらも、経済指標的には順調性を保っているという事か。
そこで世界的に注目を浴びているピケティなら今のアベノミクスを、どう評価するだろうか。
その事を論じる前に、ピケティ自身が言っていることとして断っておく事が二点ほどある。それはピケティ自身が認めているように「ピケティ『21世紀の資本』」は税務統計数学を相当、応用したもので「まだまだ不完全であり、そこは皆さんの研究論議で深めて頂きたい」というスタンスである事、日本も含めて各国の詳細な経済事情まで理解して論評している訳ではない事、等である。
なお余談だが、安倍総理はピケティのような左翼系経済学者は、お嫌いのようで、来日中は相当、煙たかったようだ。理由は単純に「左翼嫌い」なだけだ。
先ずピケティは「アベノミクスの恩恵をアピールすべき」とアドバイスしたらしい。
民主党;長妻議員は国会質疑で「ピケティさんも成長は否定していない」と先ずピケティを引合いに出した上で「成長せずに分配だけを考えていけば、ジリ貧になる」と持論を語り「(アベノミクスは)全体を底上げする政策だ」と力説した。
しかし社交辞令もそこまでで、ピケティは、例えば「アベノミクスは富裕層・大企業への税を軽減する一方で、その穴を大衆課税である消費税増税で埋めようとしている。これは、私(ピケティ)が主張する累進課税強化と真っ向対立している。あらゆる人にかかる消費税を引き上げることが、どうして日本の成長にとってよいことなのか、納得できない」と日本の「財界優遇政策」を強烈に批判している。
また政府‐西村内閣府副大臣が政府の「雇用者100万人増」や「トリクル ダウンの試み」などについてパワーポイント資料を何枚も使って説明し「アベノミクスで格差が拡大しているというのは全くの誤解」とドヤ顔を見せた。
しかし、データ分析ではピケティの方が2枚も3枚も上手だった。
「確かに日本の格差はアメリカほどではない。しかし上位10%の富裕層の所得は国民所得全体の30~40%まで上がっており、さらに上昇傾向にある。しかも日本はゼロに近い低成長なのに上位の所得が増えているということは、実質的に購買力を減らしている人々がいるということだ。おまけに累進課税の最高税率も低い。国際的水準で見ても日本の過去の税率と比べてみても、つまりトップの所得シェアが増えているのに以前より低い税率しか納めていないということだ。これを不平等と言わず何というのか!」
西村副大臣はタジタジだった。
アベノミクス最大ポイントは、先ず富裕層を優遇して儲けさせ、その富の一部がやがて低所得者層にまで"したたり落ちてくる"トリクルダウン理論にある。ピケティは、これを「過去を見回してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」と一蹴した。それよりも、労働に対する税を低くして資産に対する税を増やし、金持ちから税金を取って資産のない若者向けの減税を実施する等して、格差を是正すべきだという。
私もおこがましく「アベノミクス評価」させてもらうと、安倍総理が「アベノミクスがうまくいっている」と意の一番に上げるのが「株価」。しかし、これに対する批判的評価はピケティと同様で、実態は日銀紙幣を増刷させて国内金融機関に国債を買わせる。その異次元金融緩和-紙幣のだぶつきが「株価」に反映しているだけで、これも実体経済の伴わない「バブル」だ。
ピケティも言っているが「紙幣を増刷することは(税制に手を着けるより)株価吊り上げに最も容易だが、後のバブル崩壊・金融恐慌の責任は、誰が被るのか。まして経済成長にはつながらない」その意味で「株価の高値」は「アベノミクスの恩恵」ではなく「危険なバブル崩壊の予兆」と見た方が適切だ。
次に「雇用」だが「雇用」については前段の「経済指標」でも「比較的好調」といえるだろう。
しかし、その具体実態は「非正規雇用」や「低賃金」等の質的問題は依然として問題が残されており、そこへ「いつまで経っても派遣法案=労働者派遣法改悪」で派遣・非正規雇用労働者の固定化・格差拡大で「アベノミクス云々」の枠を超える「深刻な労働問題」に直面するだろう。
「実質賃金」については、実は経団連の「名目賃金の賃上げ回答」は「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」との取引であった事が明らかになっている。そもそも経団連‐会員大企業に限られた「名目賃金の賃上げ回答」であり、それが圧倒的に多い中小企業まで波及するなんて事は「世間知らずの安倍総理」ならではの発想で「NEWS23」で怒っている場合ではない。付言して「好調な夏のボーナス回答」も、できれば月例給で還元する方が実質賃金は上昇するが、百歩譲って「業績に連動して決める」と言うのが已むを得ないなら、それこそ「残業代は成果により支払う」の代償措置で「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」は撤回してもらいたい。
総じて「アベノミクスの評価」は、現在の経済指標を見ている限りは「ほぼ順調な推移にある」と言えるが、その実態は相当、危ういものである。それが今夏以降、「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」や「いつまで経っても派遣法案」等の負の面が誰の目にも明らかになったとき、「戦争関連法案」の比の類ではなく「安倍政権の崩壊」まで至るかどうかは別としても、相当に大きな政局になることだけは確かだろう。
《今日の「アベノミクスの経済効果」》
今日の「アベノミクスの経済効果」を推し量るのに「雇用」「実質賃金」「企業の景気予測」等があるが、いまのところ「各種経済統計」は悪くはない。
例えば4月の全国有効求人倍率は1,17倍と23年1ヶ月ぶりの高水準。完全失業率も3.3%で18年ぶりの低さである。その背景的要因には「景気回復基調」と「少子化による労働力不足」がある。ただ負の面が無い訳ではなく、求人内容は低賃金の職種や非正規雇用が目立つ。今後は仕事の「質」の改善と「実質賃金の上昇」「圧倒的に多い中小企業への波及」等がポイントだ。なお余談だが、昨年総選挙前、TBS「NEWS23」が「景気が良くなったとは思わない」と素朴実感を語る街頭インタビューを放送したことに、生出演した安倍総理が「おかしいんじゃないですか!?」と短気に食ってかかったことは、あまりにも有名。安倍総理に言っておくが「経済には謙虚・冷静に」にが経済政策の基本姿勢であるべきことだとご忠言申し上げる。
次に4月の「全国消費者物価指数」は103.3となり、昨年同月と実質的には横ばい。
また企業産活動も鉱工業生産指数(速報値)が前月を1.0%上回る99.1で緩やかな回復基調が続く。さらに経団連による「夏のボーナス調査(第1回集計)」によると、妥結額は平均で昨年夏より2.43%多い91万3106円で3年連続のプラス、2008年以来の高水準だった。63社の内、54社が「製造業」で、「製造業」に限れば妥結額は96万7870円。「自動車」は伸び率こそ0・19%減だったが金額は110万3802円で最多だった。
造船(87万2248円)電機(85万8495円)も多かった。
最近は企業業種の改善と共にボーナス額を業績に連動して決める傾向が強まってきており、それが高い水準になった背景にある。
そして企業の業績回復を背景に採用意欲も高まっている。「朝日」が主要100社に来年春の新卒採用計画を質したところ、前年より「増やす」は42社で「減らす」の11社を大きく上回った。特に「売り手市場になった」と感じている企業は64社に上った。
また内閣府;5月‐月例経済報告では「景気の基調判断‐『緩やかな回復基調が続いている』」を2か月連続で据え置いた。個人消費では10ヵ月ぶりに上方修正する等、家計部門で改善の動きが出たが、先行して回復してきた企業部門に陰りが見えてきた。
最後にアベノミクスのキイポイントでもある「デフレ脱却予想」だが、日銀副総裁は「物価下落が今後も続けば、予想インフレ率が下がる可能性は絶対ないとは言えない」と警戒感含みのコメントを出した。つまり日銀は今のところ、中長期的には予想インフレは上がっていると見ているものの「常に注意しながら見ている」とのスタンスだ。
総じてアベノミクスは、圧倒的に多い中小企業への波及効果への懸念等、不安定要素を抱えながらも、経済指標的には順調性を保っているという事か。
《ピケティの「アベノミクス評価」》
そこで世界的に注目を浴びているピケティなら今のアベノミクスを、どう評価するだろうか。
その事を論じる前に、ピケティ自身が言っていることとして断っておく事が二点ほどある。それはピケティ自身が認めているように「ピケティ『21世紀の資本』」は税務統計数学を相当、応用したもので「まだまだ不完全であり、そこは皆さんの研究論議で深めて頂きたい」というスタンスである事、日本も含めて各国の詳細な経済事情まで理解して論評している訳ではない事、等である。
なお余談だが、安倍総理はピケティのような左翼系経済学者は、お嫌いのようで、来日中は相当、煙たかったようだ。理由は単純に「左翼嫌い」なだけだ。
先ずピケティは「アベノミクスの恩恵をアピールすべき」とアドバイスしたらしい。
民主党;長妻議員は国会質疑で「ピケティさんも成長は否定していない」と先ずピケティを引合いに出した上で「成長せずに分配だけを考えていけば、ジリ貧になる」と持論を語り「(アベノミクスは)全体を底上げする政策だ」と力説した。
しかし社交辞令もそこまでで、ピケティは、例えば「アベノミクスは富裕層・大企業への税を軽減する一方で、その穴を大衆課税である消費税増税で埋めようとしている。これは、私(ピケティ)が主張する累進課税強化と真っ向対立している。あらゆる人にかかる消費税を引き上げることが、どうして日本の成長にとってよいことなのか、納得できない」と日本の「財界優遇政策」を強烈に批判している。
また政府‐西村内閣府副大臣が政府の「雇用者100万人増」や「トリクル ダウンの試み」などについてパワーポイント資料を何枚も使って説明し「アベノミクスで格差が拡大しているというのは全くの誤解」とドヤ顔を見せた。
しかし、データ分析ではピケティの方が2枚も3枚も上手だった。
「確かに日本の格差はアメリカほどではない。しかし上位10%の富裕層の所得は国民所得全体の30~40%まで上がっており、さらに上昇傾向にある。しかも日本はゼロに近い低成長なのに上位の所得が増えているということは、実質的に購買力を減らしている人々がいるということだ。おまけに累進課税の最高税率も低い。国際的水準で見ても日本の過去の税率と比べてみても、つまりトップの所得シェアが増えているのに以前より低い税率しか納めていないということだ。これを不平等と言わず何というのか!」
西村副大臣はタジタジだった。
アベノミクス最大ポイントは、先ず富裕層を優遇して儲けさせ、その富の一部がやがて低所得者層にまで"したたり落ちてくる"トリクルダウン理論にある。ピケティは、これを「過去を見回してもそうならなかったし、未来でもうまくいく保証はない」と一蹴した。それよりも、労働に対する税を低くして資産に対する税を増やし、金持ちから税金を取って資産のない若者向けの減税を実施する等して、格差を是正すべきだという。
《私の「アベノミクス評価」》
私もおこがましく「アベノミクス評価」させてもらうと、安倍総理が「アベノミクスがうまくいっている」と意の一番に上げるのが「株価」。しかし、これに対する批判的評価はピケティと同様で、実態は日銀紙幣を増刷させて国内金融機関に国債を買わせる。その異次元金融緩和-紙幣のだぶつきが「株価」に反映しているだけで、これも実体経済の伴わない「バブル」だ。
ピケティも言っているが「紙幣を増刷することは(税制に手を着けるより)株価吊り上げに最も容易だが、後のバブル崩壊・金融恐慌の責任は、誰が被るのか。まして経済成長にはつながらない」その意味で「株価の高値」は「アベノミクスの恩恵」ではなく「危険なバブル崩壊の予兆」と見た方が適切だ。
次に「雇用」だが「雇用」については前段の「経済指標」でも「比較的好調」といえるだろう。
しかし、その具体実態は「非正規雇用」や「低賃金」等の質的問題は依然として問題が残されており、そこへ「いつまで経っても派遣法案=労働者派遣法改悪」で派遣・非正規雇用労働者の固定化・格差拡大で「アベノミクス云々」の枠を超える「深刻な労働問題」に直面するだろう。
「実質賃金」については、実は経団連の「名目賃金の賃上げ回答」は「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」との取引であった事が明らかになっている。そもそも経団連‐会員大企業に限られた「名目賃金の賃上げ回答」であり、それが圧倒的に多い中小企業まで波及するなんて事は「世間知らずの安倍総理」ならではの発想で「NEWS23」で怒っている場合ではない。付言して「好調な夏のボーナス回答」も、できれば月例給で還元する方が実質賃金は上昇するが、百歩譲って「業績に連動して決める」と言うのが已むを得ないなら、それこそ「残業代は成果により支払う」の代償措置で「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」は撤回してもらいたい。
総じて「アベノミクスの評価」は、現在の経済指標を見ている限りは「ほぼ順調な推移にある」と言えるが、その実態は相当、危ういものである。それが今夏以降、「残業代ボッタクリ(ゼロ)法案」や「いつまで経っても派遣法案」等の負の面が誰の目にも明らかになったとき、「戦争関連法案」の比の類ではなく「安倍政権の崩壊」まで至るかどうかは別としても、相当に大きな政局になることだけは確かだろう。
(民守 正義)
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