「今更『女性活躍推進法案』?」

「今更『女性活躍推進法案』?」



{「女性活躍推進法案」とは}

 先ず同法案の評価は後回しにして、先ずは同法案の概要を紹介しよう。
【目的】豊かで活力ある社会の実現を図るためには、自らの意思によって職業生活を営み、又は営もうとする女性の個性と能力が十分に発揮されることが一層、重要である。そのため、以下を基本原則として、女性の職業生活における活躍を推進する。
△女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用が行われること。
△職業生活と家庭生活との両立を図るために必要な環境の整備により、職業生活と家庭生活との円滑かつ継続的な両立を可能にすること。
△女性の職業生活と家庭生活との両立に関し、本人の意思が尊重されるべきこと。
【基本方針等の策定】
△国は、女性の職業生活における活躍の推進に関する基本方針を策定(閣議決定)。
△地方公共団体(都道府県、市町村)は、上記基本方針等を勘案して、当該区域内における女性の職業生活における活躍についての推進計画を策定(努力義務)。
【事業主行動計画の策定等】
●国は、事業主行動計画の策定に関する指針を策定。
●国や地方公共団体、民間事業主は以下の事項を実施(労働者が300人以下の民間事業主については努力義務)
△女性の活躍に関する状況の把握、改善すべき事情についての分析
〔参考〕状況把握する事項:①女性採用比率②勤続年数男女差③労働時間の状況④女性管理職比率等
△上記の状況把握・分析を踏まえ、定量的目標や取組内容などを内容とする「事業主行動計画」の策定・公表等
△女性の活躍に関する情報の公表(省令で定める事項の内、事業主が選択して公表)
●国は、優れた取組を行う一般事業主の認定を行うこととする。
【女性の職業生活における活躍を推進するための支援措置】
●国は、職業訓練・職業紹介、啓発活動、情報の収集・提供等を行うこととする。
地方公共団体は、相談・助言等に努めることとする。
●地域において、女性活躍推進に係る取組みに関する協議を行う「協議会」を組織することができることとする(任意)。
【その他】
●原則、公布日施行(事業主行動計画の策定については平成28年4月1日施行)。
●10年間の時限立法


{「女性活躍推進法案」の審議見通しと問題点}

本法案は安倍総理の「成長戦略」に位置付けられ、5月22日に衆議院本会議で審議入りした。国、自治体や300人超えの企業に「女性活用させる数値目標の設定」や「『行動計画』づくり」を義務付ける等、基本的には「従来型」ながらも、ある程度「実効性」を迫る内容もある。ただ「数値目標の設定」も設定数値は企業任せになっており、まだザル法の謗りは免れない。

{基本的には一昔前の発想「女性活躍推進法案」}
私は第一次「男女雇用機会均等法」の制定(1985年)から第三次「男女雇用機会均等法改正(2007年)」以降まで、ほぼ継続的に同法周知と今日的には「性差別解消啓発」に取り組んできている。その経験からして第二次「男女雇用機会均等法改正(1999年)」までは基本的に「女性労働者に対する雇用機会均等」を基調としており「ポジティブアクション」に対する考え方も国連ナイロビ将来戦略に基く政府目標(女性管理職等30%)により「女性の積極登用」等を中心に取り組み、国は、そういったポジティブアクションに取組む企業への支援することにあった。その時代における本法であれば相当に意味あるものと評価するが、今では実効性も疑わしく、むしろ偽善的で「足の引っ張り」にならないかと心配である。

{第三次「男女雇用機会均等法」改正の「発想転換」}
第三次「男女雇用機会均等法」の制定は、2007年(4月1日施行)である。
主な改正ポイントは結構、多くまたは質的転換も図られている。具体的には①男女双方への性差別の禁止(均等法から「性差別」差別禁止法へと転換)②権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変更、退職勧奨、雇い止め等についての性差別の禁止、③間接差別禁止、④妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、⑤セクシュアルハラスメントの対象に男性も加え、予防、解決のため、事業主に具体的措置を義務付ける、等であり「ポジティブ・アクションを取組む国の支援」規定も補足的にはあるものの、基本的には「性別による差別的取扱いの禁止」を中心としたものに内容転換されており、その実効性を確保するためには、上記「性別による差別的取り扱い」等を徹底取締りする事が、結果的に「女性活躍推進」にもつながるものである事を分かっていないと、そもそも安倍総理に「女性労働者問題」を語る資質がない。多分、安倍総理は経営側の見方だから「性別による差別的取り扱い等、徹底取締り」はヤル気もないだろうが、だからといって「女性活躍推進法案」もあまり政策効果が期待できず、カッコ付け・偽善的なものになる事が目に見えている。
 現に現実に労働相談現場では「育児休業⇒契約社員⇒退職強要」や「マタハラ」の頻発、「出産退職6割(30年間、変化なし)」等が、大げさではなく山ほど寄せられており、安倍総理の言う「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%に」は夢物語だ。とにかく今更「イベント・啓発型『女性活躍推進法案』」は安倍総理の「10年は遅れている時代認識」の偶作で、予算が勿体無いだけ。なお補足的に忠告しておくが、あまり「女性の活用推進」と言わない方が良い。多くの女性が「働きたいけど、もし活用されるような期待に応えられなかったら、どうなるの?」とプレッシャーに悩む女性の声はよく聞く。まさに「男性も女性も性別に関り無く安心して働き続けられる事」を誰もが望んでいるのが本音なのだから-。
(民守 正義)