「米国議会『安倍首相演説』の評価」

「米国議会『安倍首相演説』の評価」


《「70年談話」の前哨戦》
先ず安倍首相が米国議会上下両院総会合同会議で演説したのが4月29日。本「リベラル広場」に取り上げるのが遅くなった事をお詫びしたい。
さて余談から始まるが、安倍首相の英語スピーチは相当ヘタクソで聞き取れなくてスタンディングオベーションのタイミングも解らなく、まごついた議員もいたようである。
何も米国議会と言っても英語で行わなければならないルールもなく、「安倍首相のカッコツケで恥じ搔いた」のが巷の評判である。

<安倍首相の歴史認識に注目>
先ず安倍総理は、第二次世界大戦米軍犠牲者に対して「深い悔悟を胸に黙祷を捧げた」と紹介した。
 この事自体には「礼賛」の声と「旧日本軍による捕虜への虐待に言及しなかった事に失望した」と批判の声も上がった。
また安倍総理は「女性の人権侵害のない社会の実現」を訴えた反面、「従軍慰安婦問題」には言及しなかった。ここで特に二つの点について問題提起したい。
一つは「従軍慰安婦問題」に触れなかった事。確かに右翼の輩には「従軍慰安婦問題」は無かった事にしたいぐらい「認めたくない・触れたくない歴史事実」。
しかし被害国である韓国や元従軍慰安婦当事者にとってみれば、それ以上に「思い出したくない、でも忘れる事もできない憎しみ・悲しみ」に絶する。よく「いつまで謝罪すればいいんだ?!」というワカッチャイナイ感情論での反論も聞くが、ドイツのメリケル首相が自国の経験として「謝罪し続け、そして今も謝罪し続けている。それで今日のEUの立場を築いた」と言っているように、要は「謝罪」の気持ちを発信し続けることが重要なのだ。特に韓国や元従軍慰安婦当事者が今も誠意ある態度・メッセージを求めているのなら、それに答えるのは今後の日韓友好関係を考えても当然だろう。要は安倍首相は右翼の輩だから、個人的感情だけでも「従軍慰安婦問題」には言及したくない気持ちも解らないでもないが、ここは、そういう個人的感情問題で考えるのではなく、もっと大局的に「日韓を中心とした東アジア平和戦略」の中で如何に取り組むべきかで考えるべきことである。
もう一つは「女性の人権侵害のない社会の実現」に関する問題提起。
私は安倍首相が「積極的女性差別者」とは思わないが、事「ポジティブアクション」について言えば少々、男女雇用機会均等法の改正の思想的変遷も含めて「時代遅れ」の感がある。確かに1999年の男女雇用機会均等法改正までのポジティブアクションの基本的考え方は「ナイロビ戦略」の目標値もあって、いわゆる「女性の積極的登用と国の支援」であったのだろうと思う。おそらく第二次安倍内閣で、人材的に適切であったかどうかは別として、小渕経済産業大臣・松島法務大臣を起用したのも、安倍首相なりのポジティブアクションだったのだろう。しかし2007年の男女雇用機会均等法改正では、同法の根本思想も変わり「女性労働者への差別禁止」から「性別による差別禁止」となり、これに伴いポジティブアクションも企業における「性別による役割分担意識」によって存在する「差別解消」するための自主的かつ積極的な取り組みのことをいうのだ。
 従って「女性の人権侵害のない社会の実現」は1999年頃までのスローガンとしては、そう悪くはないけれど、2007年の同法改正趣旨を踏まえると、今は「性別に関りなく人権侵害のない社会の実現」が適切で、また為すべき政策も見栄えだけする「女性閣僚の登用」よりも「男性国会議員も含めた育児休業の拡大」「性差別禁止範囲の拡大・間接差別規定の禁止指導」「マタハラの徹底摘発」等を大企業・中小企業を問わず摘発・指導等、行うことだ。今の安倍政権が財界の代弁者である以上、こうした企業への取締りもヤル気がないことは解っているが、これら強い行政指導等が「性別に関りなく人権侵害のない社会の実現」の実効ある措置で、これ以外の綺麗ごとは全て、まやかしである事は断言しておく。なお加えて安倍首相の「女性の積極的登用」が逆に女性からすれば「ここで失敗・成果が上がれなくては、それこそ『復活なき左遷だ』」との心労がかさみ、安倍首相(男性)が思うほど評価されていないことだけは付言しておく。

<厳しい中国・韓国の批判>
安倍首相の米国議会演説を受けて中国は「歴史問題を巡る謝罪を拒み、米国議員の批判を招いた」「相変わらず侵略の歴史と慰安婦問題についての謝罪を拒んだ」と批判した。
また韓国は「謝罪はおろか自賛だけ・・・安倍の40分間の詭弁」「慰安婦は言及しなかった」と相当に手厳しい批判コメントを報じた。加えて安倍首相が「韓国に対して、そんな歴史認識でいるのだったら-」と対日外交政策の見直しも囁かれだしている。
まさに「対米一辺倒日米軍事同盟」しか頭のない安倍首相にとって、中国・韓国等の東アジア、さらにドイツ・フランス等EU諸国との独自「平和外交戦略」が描かれるのか、それとも「米国二軍」で運命を共同にするのか、いささか不謹慎だが安倍政権の崩壊にも関るだけに興味が沸く。
(民守 正義)