コラムーひとりごと50 「若者に多い労働相談」
コラムーひとりごと50
「若者に多い労働相談」
{若者の生き血を吸うブラック経営者}
「ブラックアルバイト」について4月22日、「朝日」WEBニュースで掲載されていた。
最近「ブラックアルバイト」という表現で、ようやく社会問題化の兆しが見えてきたが、実際には「殆ど無法状態」と言えるほど「労基法違反」は当然のこと、犯罪に近い不当収奪・搾取等がまかり通っている。言わば「若者の世間知らず」につけ込んで「本当の商売は、表の看板ではなくて、若者から金を巻き上げることか!」と言いたくなるくらい「経営者のモラルハザード」は常態化している。
若干、話が脱線するが現在、経団連等の財界が安倍政権をフル活用して「残業代不払い合法化(ゼロ)法案」とか「いつまで経っても派遣労働者改悪法案」等が今国会に上程・「スケジュール有りき」で審議強行されているが、今でも違法経営者が横行しているのに「この上、何をチンピラ要求してくるのだ!」と言いたい。
そんな経営者都合ばかりの「経営者中心・労働者安くて使い捨て社会」の事ばかりをインテリぶって言うから、亀井静香議員が経団連御手洗元会長に対し「今日、子供が親を殺す世の中になったのは、お前ら経営者のせいだ」と言われるのだ。こんな「残業代不払い合法化(ゼロ)法案」とか「いつまで経っても派遣労働者改悪法案」等の「経営者だけニッコリ法案」のことなんかよりも「お前ら経営者仲間で、どうしようもない悪徳経営者がウヨウヨいるので、経団連等の経営者団体は『労働法制を守ろう!自己啓発キャンペーン』でもやってろ!」と本気で言いたい。
<「朝日」WEBニュースで掲載された「ブラックアルバイト」の実態>
話が相当、脱線したのは日頃からの労働相談等を対応しての「うっぷん」が溜まったもので申し訳ない。それでは本稿読者と共通認識を図るため「『朝日』WEBニュースで掲載された『ブラックアルバイト』の実態」を法的解説付きで要約紹介しよう。
【事例1】
大手コンビニチェーンで1年半ほど働いた男子大学生。商品の過剰な販売ノルマ(100個達成)を課せられ、結局は家族・親戚に自腹も含めて無理に購入した。(「自爆営業」と言うらしい)もし「販売ノルマが達成できませんでした」と言うと「反省文」を書かされ「罰ゲーム」として勤務時間外にゴミ捨て場の掃除などを無給で命じられることになっている。
{法的解説}
①販売ノルマ(目標)を定めること自体は法的に問題がないが、そのノルマを達成できなかった場合に予め、そのノルマに至らなかった差額賠償することを定めた場合は、労働基準法第16条「賠償予定の禁止」に抵触する。そもそも「使用者;商品販売を内容とした業務命令⇒労働者;業務命令に基く労働力の提供⇒使用者;当初労働契約に基く労働力の提供に見合った賃金(報酬)の支払」が労働契約の原則であり、そこに「販売ノルマ未達成⇒未達成部分の賠償」を一方的に入れること自体、労働契約法上「違法性」が窺われる。
②「販売ノルマが達成できなかった場合に『反省文』を書かされ『罰ゲーム』として勤務時間外にゴミ捨て場の掃除などを無給で命じられる」ことについて、先ず「反省文」については「ノルマ未達成」が非違行為による「懲戒処分」とは認定し難く、後の「罰ゲーム」も含めて使用者の「指揮命令権の濫用」と言わざるを得ない。従って「反省文」も「罰ゲーム」も一切、無視しても何ら「業務命令違反」等の法的問題は生じない。さらに「罰ゲーム-勤務時間外にゴミ捨て場の掃除等を無給で命じられる」について実際に、そのような行為を強いられた場合には、その労働に見合う賃金請求が可能。使用者が賃金請求に応じない場合は「労働基準監督署への申告」もまた可能。
なお余談だが、使用者の方には「ノルマ達成しなかったら賠償」という「ネガティブモチベーション」よりも「ノルマ達成したら別途、報酬を与える」といった「ポジティブモチベーション」の方が販売成績がアップするということを「人事・労務コンサルティング」もアドバイスしている者として助言しておく。
【事例2】
①当初の労働契約と異なり②「休憩無しの長時間労働」や③「一方的な労働時間設定や当初労働契約よりも低い賃金設定」④「『研修中』を名目にした最低賃金を下回る賃金額」⑤「正社員並みの業務内容と責任を強いる」等の労働実態が報告された。
{法的解説}
①当初の労働契約と異なる。
労働契約の具体内容は「採用面接」時等において「労使双方の対等平等原則」の中で労使合意に基き決定する。〔労働契約法第3条1項〕当然、合意・決定された労働契約内容は、労使双方が遵守する義務がある。〔労働契約法第3条4項〕
なお使用者が合意した労働契約内容を履行しない場合、労働者は当該労働契約を即時解除〔労働基準法第15条2項〕できる他、労働審判・民事裁判等の民事上の法的係争により「労働契約内容の履行確保又は損害賠償請求」等を求めることができる。
②「休憩無しの長時間労働」
労働時間が6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分。8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない。〔労働基準法第34条〕また法定外労働時間(残業時間)には「時間外労働に関する限度基準」が定められており、法的には「長時間労働」に歯止めがかかっている。
なお上記違法な「長時間労働」には労働基準監督署への申告により行政指導の対象となる。
③「一方的な労働時間設定や当初労働契約よりも低い賃金設定」
上記①と同様。
④「『研修中』を名目にした最低賃金を下回る賃金額」
「研修中」とは言え、任意性が無く実質的に強制的(業務命令)である場合は、当初労働契約どおりの賃金を支払わなければならない。従って当然に最低賃金を下回ってはいけない。〔最低賃金法第4条第1項第2項〕
なお「最低賃金法違反」は労働基準監督署への申告により行政指導の対象となる。
⑤「正社員並みの業務内容と責任を強いる」
パート・アルバイト等について、通常の労働者の業務内容・責任の度合等と同様の場合「同一労働同一賃金」の基本政策に基き賃金をはじめとする重要な労働条件も同様とすべきである。
この基本政策に基き、パートタイム労働法9 条1項では、パートタイム労働者の賃金の内、基本給、賞与、役付手当等、職務の内容に密接に関連する賃金(職務関連賃金)の決定方法について、事業主は通常の労働者との均衡を考慮し、パートタイム労働者の職務内容、成果、意欲、能力、経験等を勘案して賃金を決定することが「努力義務」とされている。
なおパート・アルバイト等と通常の労働者と比較して「不均衡」が著しい場合、労働局雇用均等室が是正に向けた助言・勧告を行う。
<若者に多い「労働相談」>
私は約10年、公務員時代に労働事務所-労働相談を行ってきた。その経験から比較的、若者に多い労働相談傾向があることに気づいた。本稿では、その典型的な3実例を紹介する。
(但し法的解説は省略する)
【実例1-ダラダラと正社員引き延ばし】
相談者はアルバイト社員A(男性)。「正社員募集」の求人広告に採用応募。ところが採用面接の際に求人側Xは「最初の6か月だけ様子を見て、勤務態度が良ければ正社員にする。それまではアルバイトとして雇用し、社会保険は加入しない」と告げられた。相談者は、やむなく了承した。6か月後、正社員扱いとすることを申入れたところ「もう6か月、アルバイトとして様子を見る」と言われ、Aは労働相談に訪れた。労働事務所は、使用者(求人側)Xの真意を事情聴取すべく「調整」を行った。「調整」途中、使用者Xは「『正社員募集』と広告しなければ、なかなか良い採用応募がない」と洩らしたため、「元々、正社員とする意思があるのか?」と質したところ不明瞭な答え。
後日、相談者Aに事情聴取経過を伝えたところ「こんな信用のできない使用者の下で働きたくない」と意思を示し退職した。
【実例2-商品買い上げノルマを強要】
相談者は新規大卒で「スキューバーダイビングセット販売」等を行う会社Xに就職。
就職後6月に「販売促進キャンペーンを行う」として同3セット(1セット百万円程度)をノルマとして課せられた。1セットは自費購入したものの、残り2セットは友人に購入依頼しても売れない。そこで使用者Xに相談したところ「ノルマはノルマ。残り2セットも何とかするように」と暗に残り2セットも自費購入でもノルマ達成するよう示唆。
相談者は、やむなく労働事務所-労働相談に訪れた。労働相談の結果、早速「調整」を行うことになり、使用者Xに対し「商品が高額であること。相談者は新規学卒で販売経験も浅いこと」等を指摘し「販売ノルマの緩和」を求め和解協議を図ったところ、結果的に相談者自身が購入した1セットのみノルマとして相談者は、これを契機に退職した。
【実例3-クイックマッサージで高額技術料】
相談者は、街角クイックマッサージに就職。最初の2週間程度は「マッサージ研修」。
ただ「マッサージ研修」終了して数日後、諸事情があって退職を申出たところ「今、辞められたらマッサージ技術を盗まれたのも同然。ついては技術取得料として30万円を支払え」と恐喝めいて請求。相談者は具体的解決方策を求めて労働事務所-労働相談を訪れた。労働相談の結果、相談者は「研修期間・数日間の就労賃金は放棄してもよい」との事だったので、弁護士名で「マッサージ技術取得料の債務不存在」文書を送付した。使用者からは、その後、何の連絡もない。
{「若者に多い労働相談」の特徴}
上記各実例でも解るように、少し世間の裏側でも知っていれば騙されずに「NO!」と言えたものが、使用者が若者の「世間知らず」につけ込んで「労働契約当初段階と無理・強要」事案が多い。それだけに高校・大学等も「親子で就職活動」もいいけれど、労働法規をはじめとした「労働者教育」もぜひ必要との認識を持って欲しい。
(民守 正義)
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