コラムーひとりごと37 「高遠さんは今・・・」

コラムーひとりごと37
「高遠さんは今・・・」


  「高遠 菜穂子さん」まだ、記憶に残っている方も多いだろう。高藤さんと言えば2004年4月、他の日本人男性2名とともに、イラク武装勢力に人質の一人として拘束された事件。当時としては、イラク武装勢力が「自衛隊の撤退等」を求め、家族も政府に強く求めた事もあって「自己責任」論をはじめとする社会的「バッシング」の目にあった。
 今でも「イスラム国人質事件」もあって、WEB上では相変わらず口だけの「自己責任」論をほざくコメントを、よく目にする。本稿では「自己責任」論批判は避けるが、自己行動責任の伴わない「口だけネット右翼」の風潮にはへきえきしている。
*「自己責任」論に対する批判は【コラムーひとりごと20 またか!「自己責任」-イスラム国人質事件】参照。

<母の力で再びイラクへ>
 高遠さんへのバッシングはPTSDになるほど相当なもので、このときの心境を高藤さんは、今では次のように語っている。
〔帰ってから4か月寝ていた。正直、イラクの武装した人達には殺されないで、日本で殺されたという感じだった。とにかくそれが辛かった。言葉が通じて、自分の国でどうして話を聞いてくれないのだろうかと思った。全然かけ離れてイメージを語られて苦しかった。〕
 また高藤さんへのバッシングは、家族まで及んだ。一部新聞社が被害者宅の正確な住所を報道したり、報道陣が被害者宅に大挙して押し掛けたりして、そのため兄弟にも脅迫状が届いたり、脅迫電話・FAXが集中した。更にテレビキャスターが一方的な報道を行う等、報道被害や報道の公正という観点からも問題になったぐらいだ。
 このように高藤さんへのバッシングが家族にまで及んだことで「私が殺されていれば、ここまで家族がしつこく攻撃されることもなかった」と落ち込む高遠さんに対して、母親は頬を平手打ちしたそうだ。「二度とそういうこと言うんじゃないよ!早くイラク人に会ってこい!イラク支援を止めたら私が許さな いよ!」この叱咤激励に背中を押され、事件発生4か月後に再びイラク支援に向かった。高遠さんは「この事件が起きるまでは、家族の中で私が一番強いと皆から思われていたんですが、家族の方が強かった」と家族への感謝を口にしている。

<近年の高藤さんの活動は>
1.事件後のPTSDを乗り越え、現在も医療支援などを行っている。
 ◎イラン等では、米軍が使用した劣化ウランによる先天性欠損症・脳瑠・水頭症・無脳症・口唇口蓋裂等が多い。
(米国は否定している)
2.度々、帰国し日本各地で講演活動を行う。
3.一旦、イラクの隣国のヨルダンを拠点に支援活動を続ける。2009年4月、5年ぶりにイラクを訪れ、病院や学校などを視察する。その後もイラクで路上生活者の自立支援プロジェクトに参加する。

<高藤さんの信念「日本国憲法」>
 高藤さんは、ご自身の人質経験から、講演等で「日本国憲法(特に第9条)の重要性」を説いている。その主な趣旨は以下のとおり。
【拘束中、私は「9条」を実践した。「9条」の精神を実践していたことが、彼らの殺意を止めた】
◎イラク武装勢力に「私達が個人レベルで戦争に反対している」と熱意をもって説明した事。
◎そして戦力を持っていなくて丸腰だということが、彼らの殺意を止めた。
 それは後で「憲法9条」の精神「非武装平和」を実践していたからだと思った。
◎戦場において、先ず対話をするには、丸腰しかない。
【自衛官の命を守るためにも「9条」を守るべき】
◎「自衛官の命を守る」ためにも「9条」は守らなければいけない。
◎自衛隊イラク派遣には、確かにイラクでは人手は必要だし、自衛隊の持っている特殊能力を活かしてほしい部分もある。でも軍服でなくて作業服で、武器でなくて工具を持ってきてほしい、それで現地の人達の反応も全然違うと思う。
【9条を土台に根付いた「平和主義」】
◎私は日本人は基本的に「細胞が平和主義」だと思う。
◎良くも悪くも「平和主義」。悪い点でいえば対話・議論を避ける。意見が合わないからこそ対話をするのであって、紛争解決のための対話がまさにそうだ。だからときには険悪になったりもする。その辺りが日本人は苦手。
◎良い点では何か攻撃を受けても、すぐに「武力行使だ!報復だ!」とは、なかなか考えない人が多い。最近、世界で「9条」が評価されているのも、そういう事だと思う。
◎日本人の「平和主義な細胞」の土台の一つが「9条」なのかもしれない。
 現に日本に来たイラク人は皆、日本の復興を見て衝撃に近いほどの感動を受ける。
 その主たる理由は「戦争をしなければ復興できる」ということ。
◎ある日本に来たイラク人は「イラクの新憲法にも『9条』のようなものを入れたらよかったのに」と言っていた。かつて戦争で疲弊しきった日本人は、平和憲法ができたとき、本当に嬉しかったに違いないと思わずにはいられない。

<今、イラクでは>
 昨年6月にIS支配地域となったイラク第二の都市、モスルの「奪還作戦」が、4月にも米軍とイラク政府軍、クルド人治安部隊合同で計12旅団、2万~2万5千人(対してIS1千~2千人)を投入して行う計画だという。その状況下で、既にバクダッド西部のイスラム教スンニ派住民が多く住む地区は戦争状態が続いており、バクダッドや南部のシーア派地区も「スンニ派狩り」を行うシーア派民兵が猛威を振るっている。そこにIS(同じスンニ派でも「イスラム教を代表していない」と対立している)が加わり「大量『スンニ派狩り(殺戮)』」が危惧されている。

<高藤さんに期待するもの。有権者こそ「自己責任」を!>
 私は久しぶりに高藤さんの健在振りを知って一安心した。しかし同時に、いまだに続く高藤さんに浴びせる誤った「自己責任」論、誹謗。日本(国民)は、そんなに「偏狭な自国利益主義」でしか物事を感覚できないのかと愕然とする。
 それでも高遠さんは言う。「日本の問題、国外の問題。どこにそのボーダーがあるのですか?特にイラクの問題なんて、完全に日本の問題だと思います」まさに彼女の、そのボーダーレス発想での国際的支援ボランティア活動が、日本の平和立国「日本」の信用を高め、真に「国際的平和貢献する日本」ブランドを得ることに通じると確信する。
 おりしも昨日(24日)、安倍総理が国会で「我が軍(自衛隊)」発言、礒崎首相補佐官が、憲法改悪について「目に見えるところまで来た」と発言し、安倍政権の「積極的戦争主義」の強引な推進に自信を窺わせている。(*安倍政権は「積極的平和主義」と言っているが、これは完全な真逆・誤用である。)その事は、取りも直さず高遠さん達が、地道に積み重ねてきた「平和ブランド=日本」を根底からひっくり返すものである。
 私は本気で心配している。このまま安倍政権の「いつでも、どこでも国防軍派遣」推進を見過ごすと、孫が成人になる頃には「反戦・民主主義」等と言う事自体、はばかる世の中になるのではないかと・・・。そうなってから「誰か止めてくれなかったのか」と言っても、もう遅い。安倍内閣の支持率も下降気味とはいえ、まだ40%台をキープしている。
 有権者も「感覚的人気投票」や「目先の利益政策」等ばかりに目を奪われずに、もう少し大局的・長期的視点に立った思考で、それこそ「自己責任による投票行動」を行って欲しい。
(民守 正義)