コラムーひとりごと36 どこへ行く「日本の原発政策」
コラムーひとりごと35
どこへ行く「日本の原発政策」
2011年3月の「福島原発事故」以降、「日本の原発政策」は、大きく見直されるのかと思いきや、むしろ「原発推進」が実態のようである。そこで「日本の原発政策」について整理して考察してみたい。
《現在の日本の原発基本政策=エネルギー基本計画》
現在の「日本の原発基本政策」は一応、昨年4月に閣議決定された新「エネルギー基本計画」に基いている。
<新「エネルギー基本計画」の概要>
【基本的方針】
(1)安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、経済効率性の向上、環境への適合を図ること。
(2)平時、および危機時のエネルギーの需給バランスを安定的に確保するため“多層化・多様化した柔軟なエネルギー需給構造”の実現を目指すこと。
【具体的な内容】
①エネルギーは「重要な低炭素の国産エネルギー」として位置付けられている。
ところが2012 年7月から実施されている固定価格買取制度(FIT)に申請し認定された数に対し実際に発電を開始した数が極端に少ない。その主な理由は〔◎資金調達の遅れ◎土地、部材(パネル等)の調達の遅れ◎系統連系(電力会社との接続調整)の遅れ◎開発行為に関する許認可等で時間がかかる〕等が考えられる。
②「原子力発電」は、なお「重要なベースロード電源」
〔その上での検討・対応課題〕
◎安全性の確保。◎原子力損害賠償制度の見直し。◎使用済み核燃料処理問題の早急な解決。
◎補完(火力)電源として [化石燃料(天然ガス等)調達先・方法の多元化]を図る。
◎「電力コスト低廉化」に向けた分析・検討。
■「電力10社による地域独占、大規模集中型発電、垂直統合」という現在の体制の大胆な改革。
<新「エネルギー基本計画」の各界の評価・意見>
【経団連(財界)】
①新「エネルギー基本計画」の基本的視点として「エネルギー政策の要諦は、安全性を前提とした上で、エネルギーの安定供給を第一とし、最小の経済負担で実現すること。 併せてエネルギー供給に伴って発生する環境負荷を可能な限り抑制するよう、最大限の取組を行うことが重要」とした上で、国際的な視点(原子力の平和利用、地球温暖化対策、安定供給等)及び経済成長の視点の重要性を強調している。こうした考えは、我々と軌を一にするものであり高く評価できる。
②特に基本計画の前提となる将来の具体的なエネルギー需要を見通すにあたっては、成長戦略との整合性を確保する必要がある。
【主要政党】
{民主党}「(1)40年廃炉を徹底(2)原子力規制委員会が安全を確認したもののみ再稼働(3)原発の新増設は行わない」という3原則を前提に2030年代までに原発稼動ゼロを目指す。
{公明党}原発の新規着工を認めず、速やかに原発に依存しない社会・原発ゼロを目指す。
{社民党}1.原発稼働を直ちにゼロにする。2、危険度の高い炉から速やかに廃炉に着手し2020年までに終える。実際の廃炉完了までは数十年の期間を要するため、その間の安全管理を徹底。3、当面の電力需要にはLNGコンバインド発電、超々臨界圧石炭火力発電、石炭ガス化燃料電池複合発電など高効率の火力への置き換えよって対応しつつ、 2050年までには自然エネルギー100%の実現を目指す。
{共産党}①「収束宣言」を撤回し、収束と廃炉、除染と賠償を、一大事業として行う。
②原発再稼働の方針を撤回し、輸出政策を中止する。③「即時原発ゼロ」の政治決断を行い、再生可能エネルギーの大幅導入へ抜本的に転換する。
<その他の識者等の意見・論評>
①政府(経済産業省)は、原発依存度を15~25%に設定する方針。従って「再稼動ありき」で進んでいる。②新「エネルギー基本計画」は、各業界のエネルギー源=「木」の位置付けについてはされているが、全体のエネルギー供給バランスがどうなるかという肝心な論点=「森」については避けている。③「原発再稼働」と言っても、電力会社は取捨選択して「古い原発」の再稼働を断念し始めている。すなわち「元に戻る再稼働」ではなく、「減り始める再稼働」である。④「40年廃炉基準」を厳格に運用した場合には、2030年の原子力依存度は15%程度に留まる。⑤「原発のあり方」世論調査で「中長期的な見通し」について、多数を占めるのは「将来ゼロ」であり、「即時ゼロ」「ずっと使い続ける」は少数派である。「将来ゼロ」とは「当面はある程度原発を使う」ことを意味する。⑥大切なことは、現実的・建設的な選択を行い、できるだけ早く、電源ミックス(水力、火力、原子力をバランスよくミックスして電気をつくること)を含む確固たる原発・エネルギー政策を決定すること。
【管元総理大臣】「人類は核エネルギーと共存できないと考 えるに至った。世界が脱原発に向けて舵を切るべき。
【ドイツ;メルケル首相】ドイツは、福島第一原発事故を連帯感を持って受け止め、より早く原子力から撤退する道を選んだ。ドイツは今、再生可能エネルギーへの転換を進めている。日本もドイツと協力して脱原発の道を進むべきだ。
【小泉元総理大臣】日本が原発の安全性を信じて発信してきたのは過ちだった。これ以上、原発を増やしていくのは無理だと思う。原発への依存度を下げ、世界に先駆けて自然エネルギーを推進しないといけない。
{私の所感}
未曾有の福島第一原発事故は、世界を震撼させ、私に言わせれば汚染水の漏れ・メルトダウンしたウランの除去・立ち入り禁止区域と避難住民の固定化等々、未だに「非常事態」である。そして、それは「安全・低コスト・クリーン」等の原発神話(デマ宣伝)を根底からひっくり返した。にも関らず安倍総理は、東京オリンピック誘致プレゼンテーションで「福島原発は、完全コントロールされている」と日本人なら誰でも分かる大嘘をついた。
そうした、いい加減な状況認識の中での「原発政策=新『エネルギー基本計画』」である。そのベースとなる思想は「とりあえず再稼動ありき」で、「中・長期的に電源ミックスをはじめとした日本の総合的エネルギー供給は、どうあるべきか」というグランドデザインや、それを裏付ける数値目標は、何も書かれていない。
経団連が一定、評価しているのは「とりあえずは自分達の業界での電力確保は大丈夫なようだ」という「木を見て森を見ず」という識者(古賀茂明)の指摘と、安倍総理自身のトップセールスによる「原発ビジネス(原発輸出)」が、当面の財界の要請に応えているからだ。
私は今すぐ確たる将来ビジョンを描いた「エネルギー基本計画」が必要だとは思わない。しかし実質審議されている「総合資源エネルギー調査会」のメンバーは殆ど、政府寄り意見の者で、最初から「結論有りき」の感がある。その程度の「結論有りき」の内容なら、一方でもっと自由・闊達な継続的議論の場があってもいいのではないか。その点でもドイツ;メルケル首相の対応は実に柔軟で、安倍総理は返す言葉も無かったようだ。そのくせ「再稼動は慎重に」と言っただけで官邸筋はNHK大越健介キャスターの降板圧力をかけている。議論は「結論有りき・言論は封殺」で、本当に将来を見据えた日本のエネルギー基本政策策定が可能なのだろうか。その基本的前提条件から問われている。
(民守 正義)
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