コラムー29 西堺警察署「自白強要」と「権力犯罪」

コラムーひとりごと29
西堺警察署「自白強要」と「権力犯罪」



私は学生運動等を行っていた事もあって、警察権力からの「不当捜査・暴言」等の類は何度もある。だから今回の「西堺警察署『自白強要』事件」は「さもありなん。むしろ氷山の一角」と言うのが正直の感想。
でも、あまり警察との接触・厄介(?)になった事がない方は「警察が、そんな事するの~?」とか「(犯罪を)やってなかったら、何で『やった』と言ったの~?」とか、にわかには本当の捜査実態で、どれだけ自白強要・誘導等がキツイものか分かって貰えない。そこで「西堺警察署『自白強要』事件の概要・問題点」と、「刑事捜査の改善点」等について述べてみたい。

一 「西堺警察署『自白強要』事件の概要・問題点」
1.堺市の81歳の男性Aは知人の男性Bを殴ったとして去年、在宅起訴された。
2.しかし今月、大阪地方裁判所堺支部が無罪を言い渡し無罪判決が確定。
3.またAは「西堺署の巡査長(男性)から自白を強要される等、違法な取調べにより精神的な苦痛を受けた」として本月24日、大阪府に損害賠償(2百万円)を求める訴えを起こした。
 ◎なおAは、一昨年9~11月に5回、任意の事情聴取受け、その内1回をICレコーダーへの録音に成功した。
○その執拗な「自白強要」の概要は以下のとおり。
〔巡査長〕「口があるんですから答えろ。黙らなくてもいいから答えろ」「『やりました』て一言言うたら、すぐ済む話やで」「あんたがそうまでしてやってないと言いきる理由は何や。答えろ、答えろ、命令に答えろ」「別にいつでもいいんやで。いつ認めてくれても。あんまり言うと自白の強要になるな」「あんたがウソついてるんやろ、認めたくないんやろ、答えろ。あんたのことや、答えろ。どっちやねん。黙りこくって生きていける世の中ちゃうの、知ってるやろ」等。
◎Aは元小学校の校長で、取り調べの際に、仕事等を侮辱された。
 ○〔巡査長〕「ええ?先生さんよお、あんたどうやって物事教えてきたんや。ガキやから適当にあしらっとったんちゃうん。そういう回答するんやったら、あんたの人生そういうふうにしか見えへんで、ああ?」
◎また刑事訴訟法で義務付けられた黙秘権の告知はなく、黙秘権の侵害があった。
◎さらに無断で所持品検査もされた。
4.本「自白強要」事件の問題点
(1)本事件は、まだ「任意の事情聴取」段階で弁護士と接触し、その弁護士の助言に基き、ICレコーダーによる録音に成功。それが「自白強要」の動かぬ証拠となり発覚したものである。しかし一般的には「任意の事情聴取」録音することは至難の事で、事後に口頭だけで「自白の強要があった」と訴えても警察は「事情聴取は適正に行われたもの」との見解を示し闇に葬むされるのが殆どである。
(2)なおそこに「自白の強要」に耐えかねて一旦、「虚偽自白」をしてしまうと、それを裁判で「自白の強要による虚偽自白」と何度、主張しても、なお更に認められない。
【この場合の注意事項】
①捜査官は「自白」を得るために「裁判で否認すればいいじゃないか」と「自白誘導」する。(これは明らかな「騙し」である。でも捜査官は、そんな事は平気で行う)
②「後程、裁判で否認は困難」と述べたが、基本的に「警察→検察庁→裁判所」は日常的な人間関係も含めて「『馴れ合い』の関係にある」と思っておいた方がよい。
(3)本「自白の強要」事件では「刑事訴訟法で義務付けられた黙秘権の告知はなく、黙秘権の侵害があった」ことが問題になっているが、私の知る限り、そんな「黙秘権の事前告知」をきっちり行われる事等、聞いたこともないし、先ず有り得ない。
警察は自分達に不都合な市民(被疑者等)の権利知識は教えないのが通常だ。
(4)そもそも、この巡査長は何故「暴行を受けた」と被害届、及び刑事告訴した告訴人の主張だけを鵜呑みにして「自白の強要」に走ったのか。被疑者Aが「否認」を続けている段階で、告訴人の被害主張、及び被害届等も「虚偽刑事告訴」の疑いをもって、再事情聴取しなかったのか疑問が残る。その理由には二つ、考えられる。
①一つは「思い込み」も含めた巡査長の力量不足。「任意の事情聴取」で被疑者Aに対して、人権侵害の「えらそうな事」を言っても、所詮は技量も人間性も「若造」である。
②もう一つは、予め定めた捜査シナリオに固執し、柔軟かつ融通が効かなくなっていることがある。私の経験上でもあったが、通常、捜査を始める前に「捜査会議」を開催し、だいたい「どこまで捜査し、何を立件し、どの範囲で検察庁起訴するか」を決め、それに沿った捜査を進める。そして、そのシナリオに外れる捜査方針の変更は、あまり捜査指揮する者はしたがらない。その結果、捜査シナリオを大きく変更する事実が出てきても、その事実証拠を無視したり隠したりする。厚生労働省村木厚子さん冤罪事件、松本サリン事件等々は、その例とも言える。おそらく本件「自白の強要」事件も、巡査長が当初の捜査シナリオに固執した結果だと推察される。
(5)Aの申立を受け、大阪府警は「取調に問題がなかったか調査する」としているが、それにしても時間がかかり過ぎている。ICレコーダー録音の「信憑性」から調べているようだが、本当は「巡査長は、ヘマしやがって」と言い訳を探しているのかと疑いたくなる。ぜひ「府民が納得する調査結果と当該巡査長への適切な懲戒処分」を望む。
*なお府警本部は、当該巡査長の名前を公表していない。通常、ここまで「実行犯」が特定されていれば、逮捕(容疑の段階)でも名前公表するのに、身内に甘いのか公表を控えている。私は、府警本部とマスコミ各社に「当該巡査長(実行犯)の名前公表」を行うよう求めた。WEB上の意見でも名前公表を求める声が多い事を申し添えておく。

二 刑事捜査等の改善点
1.「自白供述調書」は証拠扱いするな!
そもそも冤罪の温床に「自白偏重主義」がある。しかし「自白供述調書」ほど、いい加減なものはない。私の経験上(参考人供述調書)でも捜査官が勝手に本人(私)になりきった文章を作文し一応は読み上げて「これでええやろ?」と威圧的に言って、署名と拇印(本当は認印でもよいのだが、指紋採取のためか拇印を求める)だけを押させる。もし「ここは大分、違うので書き直して欲しい」とでも言うと、「鬼瓦」のような恐い顔をして、面倒くさそうに書き直してくれる場合と「もう、これでええやんか!」と書き直してくれない場合とがある。
「参考人供述調書」でも、これが常識的なのに、ましてや「自白供述調書」で「犯行の否定(無実)」の主張から始まると、既述の「自白の強要」が、まかり通るのは想像に難くない。従って「自白の強要」による「自白供述調書」が一般的に有り得る事との「性悪説」に立って「自白供述調書だけでは起訴できない」ルールが、ぜひ必要だ。具体的に言うと起訴するには「『自白供述調書』は補助証拠資料に留め、更に犯行を立証する客観的・物理的証拠が必要」ということだ。そのルールにより「自白偏重主義」は払拭される。
2.中途半端な「捜査の可視化」は、ない方がまし。
一般的に言えば「取調捜査」は密室で行われるため「自白強要」の温床になりやすく「捜査の可視化」は必要なものに思える。現に国際的にも日本の「密室捜査」は批判されている。
その国際的批判も受けて、今国会でも「捜査の可視化」拡大等、刑事司法制度改革関連法案が議論されている。しかし、その内容には課題も多く、例えば初めて義務化される「可視化」は殺人や傷害致死といった裁判員裁判の対象事件と、検察の独自捜査事件が対象。このように限定してしまうと、刑事裁判のわずか3%程度の事案しか対象とならない。また「例外規定」も多く、特に「容疑者の言動から十分な供述を得られないと判断したとき」という規定があり、これでは取調官の裁量によって拡大解釈され、恣意的に例外規定を運用されて「可視化(録音・録画)」を怠るどころか、冤罪の補強資料として作成されてしまう危険がある。
まさに「法律の趣旨が『骨抜き』された状態」から「捜査の可視化」への世論に悪乗りした「冤罪円滑法案」の謗りを免れないものになっている。
従って、もし「捜査の可視化」を実現するなら、それは「全面可視化」しかなく、なおかつ、それをいつでも立入り監視できる「第三者機関」が必要だ。

三 最後に
色々と警察捜査権力の実態的批判を行ったが、その一方、刑事被害にあったときに大変、お世話になった事もある。要は警察にも二面性があるという事だ。また犯罪を取締り防止するには市民の協力無しには成り立たない事を、最もよく解っているのも警察。
警察も「上から目線」体質等、これまでの悪い体質・慣習等は払拭して頂いて、真に「市民警察」の役割を果たして頂くことを期待する。
(民守 正義)