コラムーひとりごと26 「男女雇用機会均等法」と男性意識の変遷
コラムーひとりごと26
「男女雇用機会均等法」と男性意識の変遷
私が、このテーマを選んだのは、私は部落解放運動や障害者運動、労働運動等、幾つかの人権課題に実践的に取組んできたが、その様々な人権課題の中でも、自分で最も人権意識が遅れているのが、実は「性差別(女性差別)問題」だと思っている。
従って敢えて、このテーマに取組むことで、自己啓発にも資したいと思う。
{第一次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第一次「男女雇用機会均等法」の制定>
初めて「男女雇用機会均等法」が制定されたのは1985年。それまであった「勤労婦人福祉法」を正式名称「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」に改正されたのが始まり。「勤労婦人福祉法」の改正ということもあり、女性「福祉法」としての性格を払拭するものではなかった。例えば①「女性を対象とした差別禁止法」であって「片面的」であったこと。②「男女差別において重要な位置を占める募集・採用、配置、昇進に関する均等待遇原則が、努力義務に留まった事等に言える。
そもそも弁護士(大阪労働者弁護団所属)の弁によると、法律で「努力義務」なる規定は日本独特で、西欧では「措置義務→違反すれば罰則」が常識らしい。「努力義務」規定は、経営側にも気遣いした規定かもしれないが、裁判では「努力義務を為したか、どうか」の判断に、予め、法律で限定例示的に示している場合と、一々、労使双方の主張を検証しなくてはならない場合がある。いずれにしても「努力義務」規定は、法律よりも格下の「要綱」「指針」等で定めるのが本来であろう。
<第一次「男女雇用機会均等法」の制定時の男性意識>
当時の「男性意識」は公務員職場でも「女性が交替で職員のお茶汲み」が常識的で、ある時、私が「女性職員のお茶汲みを止めようか?」と言うと、係長が「お金を払ってでも自分で入れるのはいやだ」と言ったことを覚えている。もっとも当該係長は、どんどん昇格していくのだが、その内、自分でお茶を入れるどころか、部下のお茶を入れるのを手伝うぐらいまでに「意識改革」されたことを、本人の名誉のために付言しておく。
でも公務員職場でさえ、その「男性意識」だから、民間中小企業等では、せいぜい業務補助的で「職場の花」程度の扱いであったことは十分、推察できる。
{第二次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第二次「男女雇用機会均等法」の制定>
第二次「男女雇用機会均等法」の制定は1999年施行(1997年改正)である。また法葎名称も現在の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」に改正されている。この第二次「男女雇用機会均等法」の改正ポイントは【①依然として男性への差別は禁止されなかったこと。②努力義務であった採用・昇進・教育訓練等での差別が禁止規定に。③「セクシュアルハラスメント防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務」規定の新設。④「ポジティブ・アクション(積極的改善措置)」の新設。⑤女性の残業・深夜労働・休日労働を制限した女子保護規定の撤廃。】等である。
<第二次「男女雇用機会均等法」の制定時の男性意識>
この2000年頃の男性の中には、公務員職場でも女性権利意識の高い方(多くは女性)から「それって女性差別と違うの~?」とか「セクハラと違うの~?」とか言われ、バツの悪そうな、不満そうな者も多くいたと思う。民間企業でも、それまで当然のごとく男性中心型で振舞ってきたものが、改正ポイント「採用・昇進・教育訓練等での差別禁止規定」「セクシュアルハラスメント防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務」規定が新設されたことも影響してか、男性の中にも少なからず戸惑い程度はあったと思われる。まさに「男性意識改革」の過渡期に差しかかった時であったのではないかと思う。ただ、まだなお、その過渡期は続いているように思えるのだが-。しかし第二次「男女雇用機会均等法」の改正ポイントが、事業主が義務的に講ずるべき事項が多かったことから、企業としての関心は高く、当時の「男女雇用機会均等法-改正のポイント」と銘打ったセミナーが、いつも盛況だったのを覚えている。
{第三次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第三次「男女雇用機会均等法」の制定>
第三次「男女雇用機会均等法」の制定は、2007年(4月1日施行)である。主な改正ポイントは結構、多くまたは質的転換も図られている。具体的には①男女双方への性差別の禁止(均等法から差別禁止法へと転換)、②権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変更、退職勧奨、雇い止めなどについての性差別の禁止、③間接差別禁止、④妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、⑤ポジティブ・アクションを企業が開示するにあたり国が支援、⑥セクシュアルハラスメントの対象に男性も加え、予防、解決のため、事業主に具体的措置を義務付ける、⑦調停の対象にセクハラも加わる、等である。
この主な改正ポイントを、もう少し詳しく説明すると、上記①②は「労働者の募集、採用、配置、昇進、降格、解雇など」について性別を理由とする差別的取扱いを禁止していること。③「間接差別の禁止」とは、【具体的には○労働者の募集、採用において、労働者の身長、体重、体力を要件とすること。○コース別管理における「総合職」の労働者の募集、採用にあたって、転居を伴う転勤に応じられることを要件とすること。○労働者の昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とすること。】を禁止事項としている。
また上記④「不利益取扱い」を更に具体的に言うと、【○女性労働者が結婚、妊娠、出産したことを退職理由として予定する定めをすること。○女性労働者が結婚したことを理由として、解雇すること。○厚生労働省令で定められている事由を理由に、女性労働者に不利益な取扱いをすること。】である。
<第三次「男女雇用機会均等法」と今後の課題>
更に「男性意識改革」に、最も男性の理解が後れているのが、上記⑤に関連して「性別に関らず(「男性・女性から男性も含む」)セクハラ禁止」となったことだ、この「性別に関らず」の意味の中には、何もトランスジェンダー(性同一性障害)や同性愛の方だけを意味しているだけでなく、例えば「男性(女性)が、同性である男性(女性)の事を、『女好きだ(男好きだ)』と噂を流したり、本人に直接、誹謗・揶揄したりすること」もセクハラに該当するということだ。(大阪市立大学;服部良子准教授/同一見解)
実は私も最近、学生運動からの古い友人から、 こうした誹謗を受け、強く抗議をしたが、いまだに理解できないのか謝罪しない。
いずれにしても現行「男女雇用機会均等法」は、他にも「是正指導に応じない場合は企業名を公表」等も盛り込み、まだ「採用」等で努力規定に留まっている部分もあるが、ほぼ完成形に近いと言える。しかし現実の社会が、同法目的達成まで追いついているかと言うと、圧倒的に多い中小企業も含め、相当に距離感があるのが現実ではないか。どうも私共から見ていると、厚生労働省雇用均等・児童家庭局での具体検討・対応は、率直に言って地方雇用均等室も含め、大企業と学識者等を中心に「かくあるべき論」で取組んでいるように見えて仕方ない。別に同法の目的・仕上がり像が高いのが良いなら、それはそれでいいのだが、それを現実化するために、中小企業へのフォローアップ・具体的指導を都道府県の活用も含め、よりキメ細かな対応策が必要ではないか。要は「もっとドブ板活動をせよ」ということだ。
最後に私も雇用均等室に業務上のお付合いもしたが、「人によりけり」ではあるが、上から目線で「国家公務員が、雇用均等官が、そんなにえらいのか」と言いたくなるような命令口調の方も結構いて、「これでは中小・零細企業の悩みも親身に聞いてあげられないだろうな」と思わす方もいたことは、敢えて苦言として呈する。
「男女雇用機会均等法」と男性意識の変遷
私が、このテーマを選んだのは、私は部落解放運動や障害者運動、労働運動等、幾つかの人権課題に実践的に取組んできたが、その様々な人権課題の中でも、自分で最も人権意識が遅れているのが、実は「性差別(女性差別)問題」だと思っている。
従って敢えて、このテーマに取組むことで、自己啓発にも資したいと思う。
{第一次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第一次「男女雇用機会均等法」の制定>
初めて「男女雇用機会均等法」が制定されたのは1985年。それまであった「勤労婦人福祉法」を正式名称「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等女子労働者の福祉の増進に関する法律」に改正されたのが始まり。「勤労婦人福祉法」の改正ということもあり、女性「福祉法」としての性格を払拭するものではなかった。例えば①「女性を対象とした差別禁止法」であって「片面的」であったこと。②「男女差別において重要な位置を占める募集・採用、配置、昇進に関する均等待遇原則が、努力義務に留まった事等に言える。
そもそも弁護士(大阪労働者弁護団所属)の弁によると、法律で「努力義務」なる規定は日本独特で、西欧では「措置義務→違反すれば罰則」が常識らしい。「努力義務」規定は、経営側にも気遣いした規定かもしれないが、裁判では「努力義務を為したか、どうか」の判断に、予め、法律で限定例示的に示している場合と、一々、労使双方の主張を検証しなくてはならない場合がある。いずれにしても「努力義務」規定は、法律よりも格下の「要綱」「指針」等で定めるのが本来であろう。
<第一次「男女雇用機会均等法」の制定時の男性意識>
当時の「男性意識」は公務員職場でも「女性が交替で職員のお茶汲み」が常識的で、ある時、私が「女性職員のお茶汲みを止めようか?」と言うと、係長が「お金を払ってでも自分で入れるのはいやだ」と言ったことを覚えている。もっとも当該係長は、どんどん昇格していくのだが、その内、自分でお茶を入れるどころか、部下のお茶を入れるのを手伝うぐらいまでに「意識改革」されたことを、本人の名誉のために付言しておく。
でも公務員職場でさえ、その「男性意識」だから、民間中小企業等では、せいぜい業務補助的で「職場の花」程度の扱いであったことは十分、推察できる。
{第二次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第二次「男女雇用機会均等法」の制定>
第二次「男女雇用機会均等法」の制定は1999年施行(1997年改正)である。また法葎名称も現在の「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」に改正されている。この第二次「男女雇用機会均等法」の改正ポイントは【①依然として男性への差別は禁止されなかったこと。②努力義務であった採用・昇進・教育訓練等での差別が禁止規定に。③「セクシュアルハラスメント防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務」規定の新設。④「ポジティブ・アクション(積極的改善措置)」の新設。⑤女性の残業・深夜労働・休日労働を制限した女子保護規定の撤廃。】等である。
<第二次「男女雇用機会均等法」の制定時の男性意識>
この2000年頃の男性の中には、公務員職場でも女性権利意識の高い方(多くは女性)から「それって女性差別と違うの~?」とか「セクハラと違うの~?」とか言われ、バツの悪そうな、不満そうな者も多くいたと思う。民間企業でも、それまで当然のごとく男性中心型で振舞ってきたものが、改正ポイント「採用・昇進・教育訓練等での差別禁止規定」「セクシュアルハラスメント防止に向けた事業主の雇用管理上の配慮義務」規定が新設されたことも影響してか、男性の中にも少なからず戸惑い程度はあったと思われる。まさに「男性意識改革」の過渡期に差しかかった時であったのではないかと思う。ただ、まだなお、その過渡期は続いているように思えるのだが-。しかし第二次「男女雇用機会均等法」の改正ポイントが、事業主が義務的に講ずるべき事項が多かったことから、企業としての関心は高く、当時の「男女雇用機会均等法-改正のポイント」と銘打ったセミナーが、いつも盛況だったのを覚えている。
{第三次「男女雇用機会均等法」の制定と男性意識}
<第三次「男女雇用機会均等法」の制定>
第三次「男女雇用機会均等法」の制定は、2007年(4月1日施行)である。主な改正ポイントは結構、多くまたは質的転換も図られている。具体的には①男女双方への性差別の禁止(均等法から差別禁止法へと転換)、②権限の付与や業務の配分、降格、雇用形態・職種の変更、退職勧奨、雇い止めなどについての性差別の禁止、③間接差別禁止、④妊娠・出産・産前産後休業の取得を理由とした不利益取り扱いの禁止、⑤ポジティブ・アクションを企業が開示するにあたり国が支援、⑥セクシュアルハラスメントの対象に男性も加え、予防、解決のため、事業主に具体的措置を義務付ける、⑦調停の対象にセクハラも加わる、等である。
この主な改正ポイントを、もう少し詳しく説明すると、上記①②は「労働者の募集、採用、配置、昇進、降格、解雇など」について性別を理由とする差別的取扱いを禁止していること。③「間接差別の禁止」とは、【具体的には○労働者の募集、採用において、労働者の身長、体重、体力を要件とすること。○コース別管理における「総合職」の労働者の募集、採用にあたって、転居を伴う転勤に応じられることを要件とすること。○労働者の昇進にあたり、転勤の経験があることを要件とすること。】を禁止事項としている。
また上記④「不利益取扱い」を更に具体的に言うと、【○女性労働者が結婚、妊娠、出産したことを退職理由として予定する定めをすること。○女性労働者が結婚したことを理由として、解雇すること。○厚生労働省令で定められている事由を理由に、女性労働者に不利益な取扱いをすること。】である。
<第三次「男女雇用機会均等法」と今後の課題>
更に「男性意識改革」に、最も男性の理解が後れているのが、上記⑤に関連して「性別に関らず(「男性・女性から男性も含む」)セクハラ禁止」となったことだ、この「性別に関らず」の意味の中には、何もトランスジェンダー(性同一性障害)や同性愛の方だけを意味しているだけでなく、例えば「男性(女性)が、同性である男性(女性)の事を、『女好きだ(男好きだ)』と噂を流したり、本人に直接、誹謗・揶揄したりすること」もセクハラに該当するということだ。(大阪市立大学;服部良子准教授/同一見解)
実は私も最近、学生運動からの古い友人から、 こうした誹謗を受け、強く抗議をしたが、いまだに理解できないのか謝罪しない。
いずれにしても現行「男女雇用機会均等法」は、他にも「是正指導に応じない場合は企業名を公表」等も盛り込み、まだ「採用」等で努力規定に留まっている部分もあるが、ほぼ完成形に近いと言える。しかし現実の社会が、同法目的達成まで追いついているかと言うと、圧倒的に多い中小企業も含め、相当に距離感があるのが現実ではないか。どうも私共から見ていると、厚生労働省雇用均等・児童家庭局での具体検討・対応は、率直に言って地方雇用均等室も含め、大企業と学識者等を中心に「かくあるべき論」で取組んでいるように見えて仕方ない。別に同法の目的・仕上がり像が高いのが良いなら、それはそれでいいのだが、それを現実化するために、中小企業へのフォローアップ・具体的指導を都道府県の活用も含め、よりキメ細かな対応策が必要ではないか。要は「もっとドブ板活動をせよ」ということだ。
最後に私も雇用均等室に業務上のお付合いもしたが、「人によりけり」ではあるが、上から目線で「国家公務員が、雇用均等官が、そんなにえらいのか」と言いたくなるような命令口調の方も結構いて、「これでは中小・零細企業の悩みも親身に聞いてあげられないだろうな」と思わす方もいたことは、敢えて苦言として呈する。
(民守 正義)
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