これが実態!「経営者のモラルハザード」(続2)
これが実態!「経営者のモラルハザード」(続2)
*前回(続1)からの続き。
<「労働契約」>
【実例1】
相談者は求職者A(女性)。ある求人募集広告により採用応募したところ、求人側は「もう欠員は無い。別の会社を紹介してあげる」と言われ、別会社Xへ連れて行かれる。別会社Xは、暗い雰囲気に提示された労働条件も相当に悪い。相談者は「人身売買」と思い込んで逃げ出し、労働事務所へ通報的労働相談に訪れた。労働事務所から、大阪労働局所轄課に事実調査・行政指導等を依頼し、大阪労働局所轄課も対応を約束した。
【実例2】
相談者はアルバイト社員A(男性)。「正社員募集」の求人広告に採用応募。ところが採用面接の際に求人側Xは、「最初の6か月だけ様子を見て、勤務態度が良ければ正社員にする。それまではアルバイトとして雇用し、社会保険は加入しない」と告げられた。相談者は、やむなく了承した。6か月後、正社員扱いとすることを申入れたところ、「もう6か月、アルバイトとして様子を見る」と言われ、Aは労働相談に訪れた。労働事務所は、使用者(求人側)Xの真意を事情聴取すべく「調整」を行った。「調整」途中、使用者Xは「『正社員募集』と広告しなければ、なかなか良い採用応募がない」と洩らしたため、「元々、正社員とする意思があるのか?」と質したところ、不明瞭な答え。後日、相談者Aに事情聴取経過を伝えたところ、「こんな信用のできない使用者の下で働きたくない」と意思を示し退職した。
<「職場のいじめ(パワーハラスメント含む)」>
【実例1】
相談者は、某毛染会社管理部長A(男性)。加害者は、同社副社長B。副社長Bは相談者Aを「業務報告がない(or遅い)」として叱責。副社長Bは、相談者Aを土下座さして謝らせた。また後日、同様の理由で副社長Bは、相談者Aの首を強く殴打した上、自分の靴をビニール袋に入れて、相談者Aの顔面近くまで振回し、「牛馬のように調教したろか!」と脅かした。相談者Aは、今後の対応等に関して労働相談に訪れた。労働相談の中で、相談者Aの怒りが強く、「金銭和解よりも社会的制裁を受けて欲しい」との意向が強いため、「暴行・脅迫事件」として警察に被害届、及び刑事告発することになった。その後、副社長Bの代理人弁護士から「話合い(和解)」の申入れがあり、和解した模様である。(和解内容は不明)
【実例2】
相談者は、倉庫内管理業務を行うA(男性)。相談者は、日頃から複数の他の従業員から、からかい、嫌がらせを受けていた。ある日、相談者Aが倉庫内整理をしていると、突然、倉庫内照明が消え、入口に戻ろうとして転倒し、入口付近で笑い声が聞こえた。相談者Aは、悔しさのあまりに労働相談に訪れた。労働相談途中、当方が「調整」手段も提示したが、相談者Aは「もう少し耐えてみる」との心境変化を示したため、複数日にわたり傾聴に努めた。
なお、その後、会社は倒産し、債権者集会で「いじめ」の首謀者と出合い、その際に「借金の申入れ」を受けたが、「冷たく堂々と断れた」と得意顔で報告を受けた。
<「退職」>
【実例1】
相談者は、某アパレル関係会社正社員A(女性)。相談者Aは、次期就職先の事もあり、二週間後を退職日とする「退職届」を提出した。これに対し会社人事責任者Bは「当社の就業規則で『退職届は三か月前に提出すること』と決まっており、認められない」と返答した。相談者Aは、今後の対応について労働相談に訪れた。法的には「民法627条第1項;退職の意思表示から二週間後に労働契約は終了する」となっているものの、①「就業規則で別段の定めをした場合、そちらが優先する」という判例と②「就業規則によって、2週間を越えて、退職予告期間を延長することは、労基法の定める人身拘束防止の諸規定に反する」との二つの判例に分かれている。(最近では①判例の方が多数説)しかし「三か月前の退職届提出義務が『公の秩序』に抵触する疑義があること、相談者Aの業務が二週間後以降に出勤しなくても、重大な損害を与えることが想定し難いこと等から、とりあえず相談者Aの立場に立って「民法第627条第1項のみを理由に、2週間後以降は退職により出勤しない」旨の通知書面を送付し、人事責任者Bの対応を見守ることとした。結果的に人事責任者Bからの反論・問題指摘無く無事、退職できた。
<「賃金未払い」>
【実例1】
相談者は、トラック運送運転者A(男性)。相談者Aは、使用者Bに対し、再三にわたり残業手当の支払を求めたものの、使用者Bが一向に応じようとしないため、労働相談に訪れた。労働相談の結果、早速「調整」を行うことになり、使用者Bと面会して残業手当を支払わない理由を質した。使用者Bは比較的、大きな紙に「業界の常識」と書いて、「運送業界では残業手当を支払わないのは業界の常識」と嘲笑うように言い放った。そこで私は、その紙を取上げ、「業界の常識」に続けて、「世間の非常識」と書き加え、「調整」は即、打ち切りとなった。その後、相談者Aは合同労組に加入し、団体交渉の結果、残業手当は支払われたとのこと。
【実例2】
相談者は、設計関係労働者A(男性)。ある日、使用者Bは、従業員全員を集めて、泣きながら「今日で当社は倒産」と言い、特に相談者Aには「退職金を諦めて欲しい」と懇願し、相談者Aも、やむなく了承した。数日後、会社の前を通ると、皆が仕事をしているのを見て驚いた。早速、使用者Bに問い質したところ、「倒産芝居」であることを認める。相談者Aは「もう退職には応じるが、退職金は支払うこと」を求めたが、使用者Bは、これも拒否したため、労働相談に訪れた。労働相談の結果、使用者Bは相当、確信的で「調整」等の話合い解決は困難と判断。大阪労働者弁護団に本件事案を移送することにした。
大阪労働者弁護団から依頼された相談者Aの代理人弁護士は、「労働債権;先取り特権」に基き、使用者Bの現金・預金等を差し押さえた。使用者Bは、銀行との信用等も含め、たちまち経営上の支障をきたし、慌てて退職金規定に基く退職金を支払った。
{「経営者のモラルハザード」いかに健全化すべきか}
ここに挙げた実例は、何も得意なものではない。むしろ日常茶飯事の一部で、挙げ足りないぐらいだ。経営者のモラルは、そこまで落ち込んでいる。日本は資本主義なので、あまり社会問題化しないようにしているだけだ。そこに「残業代不払い法案」のように違法を合法化しようとする策動は、悪の上塗りでしかなく、それが経団連をはじめとする経営側の本質かと言いたい。
少しでも経営者のモラルを健全化するためには、車でも運転免許が必要で、「人(経営者)が人(労働者)を雇うときには、せめて必要な法的知識・労働関係諸制度等の講習と簡易な試験を受ける『経営者資格制度』の導入」が必要だと思う。なにも自由主義経済を否定している訳ではない。人権尊重の観点と実態上も健全ルールを確立しようとするだけだ。連合をはじめとする労働団体やリベラル政治勢力は、その勇気ある政策提言をぜひ、出して欲しい。
もちろん経営側からは反発も出るだろう。いいじゃないか。「安定・安心の生活」を願う労働者からの支持がえられるなら。ダメ?ダメ?
*前回(続1)からの続き。
<「労働契約」>
【実例1】
相談者は求職者A(女性)。ある求人募集広告により採用応募したところ、求人側は「もう欠員は無い。別の会社を紹介してあげる」と言われ、別会社Xへ連れて行かれる。別会社Xは、暗い雰囲気に提示された労働条件も相当に悪い。相談者は「人身売買」と思い込んで逃げ出し、労働事務所へ通報的労働相談に訪れた。労働事務所から、大阪労働局所轄課に事実調査・行政指導等を依頼し、大阪労働局所轄課も対応を約束した。
【実例2】
相談者はアルバイト社員A(男性)。「正社員募集」の求人広告に採用応募。ところが採用面接の際に求人側Xは、「最初の6か月だけ様子を見て、勤務態度が良ければ正社員にする。それまではアルバイトとして雇用し、社会保険は加入しない」と告げられた。相談者は、やむなく了承した。6か月後、正社員扱いとすることを申入れたところ、「もう6か月、アルバイトとして様子を見る」と言われ、Aは労働相談に訪れた。労働事務所は、使用者(求人側)Xの真意を事情聴取すべく「調整」を行った。「調整」途中、使用者Xは「『正社員募集』と広告しなければ、なかなか良い採用応募がない」と洩らしたため、「元々、正社員とする意思があるのか?」と質したところ、不明瞭な答え。後日、相談者Aに事情聴取経過を伝えたところ、「こんな信用のできない使用者の下で働きたくない」と意思を示し退職した。
<「職場のいじめ(パワーハラスメント含む)」>
【実例1】
相談者は、某毛染会社管理部長A(男性)。加害者は、同社副社長B。副社長Bは相談者Aを「業務報告がない(or遅い)」として叱責。副社長Bは、相談者Aを土下座さして謝らせた。また後日、同様の理由で副社長Bは、相談者Aの首を強く殴打した上、自分の靴をビニール袋に入れて、相談者Aの顔面近くまで振回し、「牛馬のように調教したろか!」と脅かした。相談者Aは、今後の対応等に関して労働相談に訪れた。労働相談の中で、相談者Aの怒りが強く、「金銭和解よりも社会的制裁を受けて欲しい」との意向が強いため、「暴行・脅迫事件」として警察に被害届、及び刑事告発することになった。その後、副社長Bの代理人弁護士から「話合い(和解)」の申入れがあり、和解した模様である。(和解内容は不明)
【実例2】
相談者は、倉庫内管理業務を行うA(男性)。相談者は、日頃から複数の他の従業員から、からかい、嫌がらせを受けていた。ある日、相談者Aが倉庫内整理をしていると、突然、倉庫内照明が消え、入口に戻ろうとして転倒し、入口付近で笑い声が聞こえた。相談者Aは、悔しさのあまりに労働相談に訪れた。労働相談途中、当方が「調整」手段も提示したが、相談者Aは「もう少し耐えてみる」との心境変化を示したため、複数日にわたり傾聴に努めた。
なお、その後、会社は倒産し、債権者集会で「いじめ」の首謀者と出合い、その際に「借金の申入れ」を受けたが、「冷たく堂々と断れた」と得意顔で報告を受けた。
<「退職」>
【実例1】
相談者は、某アパレル関係会社正社員A(女性)。相談者Aは、次期就職先の事もあり、二週間後を退職日とする「退職届」を提出した。これに対し会社人事責任者Bは「当社の就業規則で『退職届は三か月前に提出すること』と決まっており、認められない」と返答した。相談者Aは、今後の対応について労働相談に訪れた。法的には「民法627条第1項;退職の意思表示から二週間後に労働契約は終了する」となっているものの、①「就業規則で別段の定めをした場合、そちらが優先する」という判例と②「就業規則によって、2週間を越えて、退職予告期間を延長することは、労基法の定める人身拘束防止の諸規定に反する」との二つの判例に分かれている。(最近では①判例の方が多数説)しかし「三か月前の退職届提出義務が『公の秩序』に抵触する疑義があること、相談者Aの業務が二週間後以降に出勤しなくても、重大な損害を与えることが想定し難いこと等から、とりあえず相談者Aの立場に立って「民法第627条第1項のみを理由に、2週間後以降は退職により出勤しない」旨の通知書面を送付し、人事責任者Bの対応を見守ることとした。結果的に人事責任者Bからの反論・問題指摘無く無事、退職できた。
<「賃金未払い」>
【実例1】
相談者は、トラック運送運転者A(男性)。相談者Aは、使用者Bに対し、再三にわたり残業手当の支払を求めたものの、使用者Bが一向に応じようとしないため、労働相談に訪れた。労働相談の結果、早速「調整」を行うことになり、使用者Bと面会して残業手当を支払わない理由を質した。使用者Bは比較的、大きな紙に「業界の常識」と書いて、「運送業界では残業手当を支払わないのは業界の常識」と嘲笑うように言い放った。そこで私は、その紙を取上げ、「業界の常識」に続けて、「世間の非常識」と書き加え、「調整」は即、打ち切りとなった。その後、相談者Aは合同労組に加入し、団体交渉の結果、残業手当は支払われたとのこと。
【実例2】
相談者は、設計関係労働者A(男性)。ある日、使用者Bは、従業員全員を集めて、泣きながら「今日で当社は倒産」と言い、特に相談者Aには「退職金を諦めて欲しい」と懇願し、相談者Aも、やむなく了承した。数日後、会社の前を通ると、皆が仕事をしているのを見て驚いた。早速、使用者Bに問い質したところ、「倒産芝居」であることを認める。相談者Aは「もう退職には応じるが、退職金は支払うこと」を求めたが、使用者Bは、これも拒否したため、労働相談に訪れた。労働相談の結果、使用者Bは相当、確信的で「調整」等の話合い解決は困難と判断。大阪労働者弁護団に本件事案を移送することにした。
大阪労働者弁護団から依頼された相談者Aの代理人弁護士は、「労働債権;先取り特権」に基き、使用者Bの現金・預金等を差し押さえた。使用者Bは、銀行との信用等も含め、たちまち経営上の支障をきたし、慌てて退職金規定に基く退職金を支払った。
{「経営者のモラルハザード」いかに健全化すべきか}
ここに挙げた実例は、何も得意なものではない。むしろ日常茶飯事の一部で、挙げ足りないぐらいだ。経営者のモラルは、そこまで落ち込んでいる。日本は資本主義なので、あまり社会問題化しないようにしているだけだ。そこに「残業代不払い法案」のように違法を合法化しようとする策動は、悪の上塗りでしかなく、それが経団連をはじめとする経営側の本質かと言いたい。
少しでも経営者のモラルを健全化するためには、車でも運転免許が必要で、「人(経営者)が人(労働者)を雇うときには、せめて必要な法的知識・労働関係諸制度等の講習と簡易な試験を受ける『経営者資格制度』の導入」が必要だと思う。なにも自由主義経済を否定している訳ではない。人権尊重の観点と実態上も健全ルールを確立しようとするだけだ。連合をはじめとする労働団体やリベラル政治勢力は、その勇気ある政策提言をぜひ、出して欲しい。
もちろん経営側からは反発も出るだろう。いいじゃないか。「安定・安心の生活」を願う労働者からの支持がえられるなら。ダメ?ダメ?
(民守 正義)
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