コラムーひとりごと21 労が多くて…?「安陪談話」
コラムーひとりごと21
労が多くて…?「安陪談話」
<「痛切な反省」と「心からのお詫び」を使わない「安陪談話」>
安倍首相は今月25日、NHK番組で、植民地支配と侵略について「痛切な反省」と「心からのお詫び」を表明した「村山談話」の文言を、戦後70年「安陪談話」にそのままでは使わない考えを示した。安陪首相は今月5日の伊勢神宮参拝の際の会見で、過去の植民地支配と侵略を謝罪した「村山談話」を含め、歴代内閣の方針を踏襲する考えを示していただけに、ぐらつく疑念が残るが、少なくとも昨年総選挙後の勝利コメントには、総選挙前には「争点にしない」と言っていたくせに「憲法改正」「集団自衛権」に加え、自民党タカ派議員の要請意見もあって、この「村山談話」の見直しも今後の政策メニューには入れていた。
この発言に対し早速、懸念と反発の声が国内外に出ている。
韓国では、翌日の外交部定例会見の中で「戦後70年の「安倍談話」から過去の談話の中核となる文言を無くしてしまえば、国際社会や周辺国がどんな反応を示すか、日本政府は歴史を直視してよく考えるべきだ」と牽制した。
また中国も翌日の外交部定例会見で「安陪総理は、日本が侵略の歴史を美化して負債をずっと背負っていくのか、本当に侵略の罪を深く反省して歩みを軽くするのかを注目している」と牽制している。
更に米国は、25日のNHK番組「安陪発言」より前の5日に、国務省サキ報道官は「これまでに村山富市元首相と河野洋平元官房長官が示した謝罪が、近隣諸国との関係を改善するための重要な区切りだったというの が我々の見解だ」と釘を刺している。
国内では、公明党-山口那津男代表は「過去の談話の表現は非常に大きな意味を持っている」とし「それを尊重して意味が配信される様にしなければならない」と主張した。
民主党-岡田克也代表は「安倍首相が新しい談話に、過去談話の表現を使わないとはっきり述べたものと理解される」とし「戦後70年の間、日本の歩みを否定するのと同然で容認できない」と力説した。
また維新の党-江田憲司代表も「歴代談話の文言は、基本的に継承しなければならない」とし「これを変更すると、周辺国に誤ったメッセージを送信する結果を生む恐れがある」と指摘した。
共産党-志位和夫委員長も「歴代談話の中で最も重要な部分を曖昧にして後退させようとする意図が見える重大な事案」との分析見解を示した。
こうした批判の中で、菅官房長官は「安陪談話」について「戦後のお詫びも含め全体としては引き継いでいく」と釈明しながらも、一方で「同じものであれば新たに談話を出す必要はない」とも述べ、やはり「文言等見直し」は有りうるとして「未来志向の内容にしたい」との折衷的な考えを示した。
<「痛切な反省」と「心からのお詫び」は決着済み>
しかし、まだこれから「安陪談話」は作成されるのだし、「村山談話」の文言見直しも安陪政権の「願望」に過ぎなく、今時点では問題ある「安陪談話」とならぬよう、世論監視・喚起が必要であろう。その意味で警鐘意見を述べたい。
そもそも何故、「痛切な反省」と「心からのお詫び」言葉を無使用(または稀釈)したいと思うのだろうか。保守・右翼の方々にも多少、幅があって「いつまでも『痛切な反省』と『心からのお詫び』をしたくない」と思う感情と、もう一つは「そもそも『痛切な反省』と『心からのお詫び』すべき事実がない」とチョー主観的な方といるようだ。どちらも過去の日本の侵略行為を正当化ないしは「やむを得なかった」と軽んじたがるところは共通しているのだが…。
でも1995年に「村山談話」が出され、それが韓国・中国をはじめ、アジア諸国に認められ、日本のアジア外交の基礎となっているのは、歴然とした事実。だからこそ本音はともあれ歴代内閣が「村山談話」を踏襲・引き継いできたのだ。(ちょっと第一次安陪内閣のときに「『村山談話』に違和感がある」と発言したが、結局、『踏襲・引継ぎ』に修正明言している)言わば「村山談話(『痛切な反省』と『心からのお詫び』)」が日本のアジア外交の客観的基礎になっており、今更、どうしようが決着済みである。せめて「『痛切な反省』と『心からのお詫び』を違う表現でー」と言いたいのなら、私も物書きの端くれとして思うに、既に適切な言葉として使われているし、そんな労の多いことは止めた方がよい。
<ちょっと気になる安陪総理の「国際情勢認識」>
安陪首相が今月20日、「イスラム国」対策として近隣のイラクやレバノンなどに2億ドルの支援を表明した。支援の内容は「イラク、シリアの難民・避難民支援」や「人材開発、インフラ整備」など非軍事的な色彩が強いものだが、当初の表明に、あまりそのことが強調されてなかったせいか、「イスラム国」には「敵国-十字軍登場」と写り、そのことが「イスラム国人質事件」を誘発したという説がある。それに対し日本政府は、「安陪首相が中東歴訪前から、政府は「イスラム国人質事件」を察知しており、その対策本部を内々に立ち上げた上で中東歴訪した」と国会で答弁している。ただ、この政府答弁自体、疑問視する声もある。いずれにしても「人質→殺害・不当要求」する「イスラム国」は許されないし、また日本政府には後藤さんの救出をはじめ、残された課題に頑張って頂きたい。我々も祈る気持ちで見守りたい。
その上で付言する事だが、安陪首相の上記「テロ対策支援表明」を見て、確かに「欧米諸国と一致してテロ対策支援を行う」とだけの強調印象は、私自身も感じた事である。 それと安陪首相の「日本⇔米国・韓国・中国」等の外交戦略を見ていると、やはり冷戦構造時代と変わらず、「先ず米国一辺倒の日米同盟を機軸に」が基本のように思える。
でも本当に、それでいいのだろうか。今は冷戦構造が終焉して、新たな国際秩序の形成過程に入ってきている。それは特に米国と中国との関係である。「中国包囲網」なんて、もうとっくの昔の話で、今の米国と中国との関係は、決して友好的ではないにも関らず、相互利害・依存関係にある、そして、それが擦り合い、調整する中で相互に対立なき世界支配を模索している。例えば2002年9月には、米中戦略経済対話を2006年より隔年で開催することで合意し、直近では2008年12月に行われた。また米中両国は国際政治問題の解決についてハイレベルな話し合いを行うために米中戦略対話も創設している。昨年8月には米国・中国海軍のソマリア沖合同演習も行っている。
更に米国債を最も保有しているのは中国だが、中国が米国債を手放して財政的に米国を困らせてやろうとしても、たちまち米国債価格は下落し、中国も大損をする。
まさに米国と中国は、そういう関係なのだ。
つまり今の米中関係は「覇権争い」というより、対立の要素も内在させながらも、コミュニケーションを通じてアジア太平洋を仕切っていこうという流れを形成していこうとしている。これに安陪総理が、どこまで認識しているかが疑問で、もし認識がないと、とんでもない的外れの外交戦略になってしまう。そして日米関係は、こうした米中の大局的戦略観の中の一部分であることを、安陪総理は、もっと理解するべきだと思う。
<新たな「米・中大局的国際戦略観」で日本の取る道は>
上記「米・中大局的国際戦略観」の中で日本は、どのような道を歩むべきなのだろうか。少なくとも二つの道が考えられる。一つは「米・中大局的国際戦略観」を承知の上で、従来どおり米国の願望に従う「対米追随型日米同盟機軸」路線。この場合、米国が他国との争い・対立に常に勝利する訳でもなく、米国の対立国からのリスクは日本も負わなければならない。現に米国が敗北したベトナム戦争では、米国と共に派兵した韓国等では、敗戦後の元兵士のPTSDに悩まされた。安陪総理は、そもそも「米・中大局的国際戦略観」自体、理解していない可能性があるが、おそらく「対米追随型日米同盟機軸」路線を選ぶだろう。「集団自衛権」も、その一環とすれば理解できる。では米国は、日本が選択した「対米追随型日米同盟機軸」路線を評価するだろうか。米国は実に勝手な国で、日本の独自の平和交渉等の窓口的役割を、時として求めるかも知れないが、概ね「日米機軸同盟は重要」と持ち上げ賛美するだろう。ただ、それでも日本と韓国との良好関係が前提で、また日本と中国との不要な摩擦は避けたいと思っており、これまでも米国高官が、日本の保守タカ派議員の大挙した靖国神社参拝等に「韓国を刺激するような余計なことをするな」と言わんばかりの警告コメントを出している。その意味で政府・自民党の「憲法改正」や「村山談話」文言見直しも快く思わない可能性は、大いにある。
もう一つの道は「対米追随型日米同盟機軸」路線を破棄し「日本独自の平和外交路線」に転じ、アジア外交重視の平和交渉の窓口・調整役に徹する。この場合、米国からの圧力も覚悟で、米国をはじめ、国際社会が納得するだけの実績も積まなければならない。
どちらかと言えば、リベラル派としては「日本独自の平和外交路線」を選択したい。
加えて、そうした国際的信頼関係を得ることが普段の目的となると、今上天皇も参拝しない「靖国神社参拝」も「憲法改正」も「集団自衛権」も、「村山談話『痛切な反省』と『心からのお詫び』」を無きものとする、または稀釈する方向での文言見直しも、全て逆効果で、「行ってはいけないこと」になる。
そして、面白いことに「対米追随型日米同盟機軸」路線も「日本独自の平和外交路線」のいずれを選択しようが、「過去の侵略行為への深い反省」等は結果的に必要で、逆にそれを美化・正当化しようとする右翼・タカ派の「復古主義」は、今後の国際情勢戦略の中で葬りざるをえないことになる。まさに「保守・反動」と言われる所以である。
これだけの事前問題意識を事前整理し、「安陪談話」の作成過程での世論監視・喚起していこう。
(民守 正義)
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