「採用面接」労働条件確認

「採用面接」労働条件確認

先に「『公正採用』と『能力発見!』採用選考のコツ」を掲載し、その際に「『労働条件確認』は別稿で」と約束した。それで早速「『採用面接』労働条件確認」注意ポイント等を紹介したい。
*なお、先の「『公正採用』と『能力発見!』採用選考のコツ」も企業人事担当者や求職者にとっては、「公正採用」も踏まえた採用マネージメント解説としては希少価値。(ハッキリ言って他の「採用マネージメント本」は「公正採用」事項の欠落、または間違いが殆ど。[就職差別事件を起こさない]ためにも、ご一読または関係者へ御案内してください。

{「採用募集」から「採用」までの法的プロセス}
通常の「採用募集」から「採用決定」までを、法的に説明すると、以下のとおり。
【「求人側;採用募集(労働契約申込みの誘引)」→「求職者;採用応募(労働契約の申込み)」→「採用面接・試験合格」→「求人側;内定通知(労働契約申込みに対する承諾)」→「求職者;採用承諾(口頭または同承諾書の送付=労働契約締結の意思表示)」→「求人側;採用承諾(採用内定)」→「採用」】

<「求人側;採用募集(労働契約申込みの誘引)」の注意事項>
〔注意1〕
①採用募集(労働契約申込みの誘引)には、下記の方法及び、特に「主な業務内容」「労働条件の標準的例示(目安)」が記載されている。
②「主な業務内容」「労働条件の標準的例示(目安)」には、実際の予定労働実態との乖離が大きく、労使トラブルの要因となることが多い。
③労働契約上の「実際の労働条件」等は、「採用面接」の際に「求人側⇔求職者の合意」により確定する。
 {主な「採用募集(労働契約申込みの誘引)」等}
◎ハローワークの求人票-ハローワークの求人票といえども「主な業務内容」「労働条件の標準的例示(目安)」と「採用面接」の際に聞く内容、また実際に働いて判る労働実態と大きく乖離している場合がある。しかし苦情申立てにより、ハローワーク職員が、改めて「求人票の記載方法」を指導する等、まだ信憑性と安心感がある。私としては「ハローワークの採用募集」を、よりましで推奨したい。
*なおハローワーク職員に助言・苦情対策を依頼する場合は、「後席の指導官」を指名した方がよい。
(前列「窓口」来客対応者は、殆ど契約職員で、応用的対応には困難)
◎インターネット求人―「主な業務内容」「労働条件の標準的例示(目安)」と「採用面接」の際に聞く内容、また実際に働いて判る労働実態と大きく乖離している場合が有り得る事は同様。但し著しい乖離の場合は、ハローワークが、ハローワーク求人でもあるか、否かに関らず、苦情申立てにより「行政指導等」は行われる。
◎求人雑誌・新聞折込広告-誇大・誤解を招く記載も少なくなく、上記「②労使トラブル」としては多い。
○誇大・誤解を招く記載事例
■「社会保険完備」
◆そもそも社会保険(健康保険・厚生年金)の加入要件は、法人事業所(雇用人数に関係ない)、また法人でない5人以上事業所は「強制適用事業所」となっており、加入しなければならないことになっている。
(労働者が、試用期間であるか、どうかは関係ない)
◆またパートタイマーであっても、正社員と比較して「(1)1カ月の労働日数が概ね4分の3以上(2)1日の所定労働時間が概ね4分の3以上」であれば、収入に関係なく加入しなければならない。
◆従って「加入要件」を満たしてれば「社会保険完備」どころか、当然に加入義務があり、加入しなければ「厚生年金法・健康保険法違反」である。
■「正社員募集」
◆「正社員募集」と称しながら、採用面接の際の説明では「○か月(○週間)後に、正社員にする。その間はアルバイトとして採用する」と随分、後退した事を言う。      ◆当初から雇用形態条件に変更があり、後の「正社員とする」も含めて信用には要注意。
■「営業社員募集」
◆ここでは、「保険外交員(募集人)」を想定して「営業社員募集」と記載したが、他にも「貨物輸送運転手(バイク宅急便含む)」「訪問販売員」等に見られるもので、要は、労働契約上の労働実態でありながら「請負契約だ」として労動基準法をはじめとする労働関係法規等の適用を免れようとするもの。いわゆる「偽装請負」で、募集広告では曖昧に記載されていることが多い。
 ◆なお、「実態として労働契約だ!」と主張するには「(1)原則として、仕事の依頼、業務従事に対する諾否の自由がないこと、(2)勤務時間・勤務場所の指定があること、(3)業務用器具の負担がないこと、(4)報酬が労働自体の対償であること」が判断基準となる。
 〔注意2〕上記「ハローワークの『行政指導等』」は、「不適切な求人内容への記載指導」であって、労働契約締結に向けた助言等の関与はしない。
 〔注意3〕上記「■『正社員募集』」「■『営業社員募集』」については、「ハローワークの『行政指導等』」対象外であって、同意できなければ。先ずは「採用面接」で契約拒否を明確に伝える。
{「確認すべき労働条件事項」等}
 ◎少なくとも就業規則で「絶対的必要記載事項」となっている事項は、確認しよう。
○労働契約の期間に関する事項 ○就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
○始業及び終業の時刻 ○所定労働時間を超える労働の有無○休憩時間 ○休日・休暇 
○労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
○賃金の決定、計算及び支払の方法 
○賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
○退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
*「労働基準法施行規則第5条」参考。
◎確認された労働条件事項は、後ほどでも書面(労働条件通知書)で交付するよう依頼する。
 ○確認・決定された労働条件は、労働基準法第15条で、書面(労働条件通知書)交付しなければならないことになっている。

<「採用面接」-「労働条件の確認の心構え」等>
①「採用面接」は、自己アピールをはじめとする「採用選考判断作業」の場でもあり、そこに「労働条件の確認作業」を入れることは、現実的には難しいこともある。②しかし「労働条件の確認作業」を怠り、後に[労使トラブル]の要因になることも十分、考えられる。③従って「採用選考判断作業」を先行して行い、「採用面接」終了前に「労働条件の確認作業」を行う等の工夫・配慮を願いたい。
但し、これまでの労働相談経験から言って「労働条件の確認を行ったからといって、不機嫌・立腹する経営者・人事担当者は、元々、従業員への支配意識が強く、労使トラブルを起こし易い傾向にある」ことだけは、付言しておく。

<入職後の「事前の労働条件」乖離の対抗手段>
◎「採用面接」時に承諾した労働条件よりも、入職後の実際の就労実態が厳しく乖離がある場合は、労働者は即時に「労働契約の解除」ができる。
【即時解除権;労働基準法第15条2項】

◎通常、労働者の方から「労働契約の解除(退職)」を申出た場合、2週間後に労働契約の効力は終了する。
(民法627条第1項)

もし、2週間を経過せず退職(出社しない)して、会社に何らかの損害を与えた場合、労働者は会社に対して、法的には「損賠賠償責任」を負うことになる。
◎しかし上記「即時解除権」を行使した場合は「損賠賠償責任」も免れる。

<最後に>
先の「『公正採用』と『能力発見!』採用選考のコツ」も含めてまとめると、「採用面接」とは「公正採用に基く採用選考と労働条件確認の場」であるといえる。
ある損害保険会社の人事採用責任者の方が言っていた。 「採用面接で『不採用だろうなー』と思う受験者ほど、雑談も含めて時間をかける」と。それは「採用」では縁が無くとも「ステークホルダー」としては、縁があるかもしれないからだという。それぐらい真剣に「採用面接」で求職者と求人企業が向かい合っていただくと、ありがたい。
その一方、労働相談を行っていると、労働者の無知とモラルなく従業員を阿漕に扱う使用者も多くいることも事実。最近では「メンタル問題」も含めて複雑化しているが、心身が疲弊するまでに、労働相談に声をかけて頂ければ、喜んで対応する。