「公正採用」と「能力発見!」採用選考のコツ
「公正採用」と「能力発見!」採用選考のコツ
ご存知、2016年度採用(現在3回生)の就職戦線が、もう事実上、スタートしている。
別稿で「親も一緒に就職活動」に憂慮している私だが、それはそれとして公務員現役時代に「公正採用」と、一定の採用相談業務の経験も生かして、「今なら言える採用面接のポイント」を提供してみよう。
今は私も一民間人。公務員現役時代には言えなかった実務・実態論に反論も含めて提供するので、「本来、あるべき事とは違う」と怒らず(?)に御一読願いたい。
一 就職スケジュールの変更等
(1)先ず大学生の就職スケジュールが変更され、2016年卒(現在2年生)の就職活動から適用される。主な変更内容は下記のとおり。
《主な大学生の就職スケジュール変更内容[2016年卒(現在2年生)の就職活動から適用]》
<現行>
①「大学3年生12月~」→企業の求人活動(広報・説明会等)の解禁。
②「大学4年生4月~」→選考活動(筆記試験・採用面接等)開始。
③「大学4年生10月~」→求人企業の内定発表解禁。
<変更後>
①「大学3年生3月~」→企業の求人活動(広報・説明会等)の解禁。
②「大学4年生8月~」→選考活動(筆記試験・採用面接等)開始。
③「大学4年生10月~」→求人企業の内定発表解禁。
(2)就職スケジュールの変更事情と実態は?
○今回の就職スケジュール変更は、政府が昨年12月「学生は学業に専念すべき」との理由で、経団連(加盟企業;約1300社)に余裕(就職活動3ヶ月後倒し)あるものにするよう要請したことに応えたもの。
○元々、極めて形式的に例年9・10月頃に、ほぼ全国の大学が加入する「就職問題懇談会」が、経団連に対し文部科学省を通じて事実上、「公正採用選考」と「内定解禁10月~」を申入れ、経団連が10・11月頃に、これに応えて「大学卒業予定者(省略)等の採用選考に関する企業倫理憲章」を公表していた。今回の政府の措置は、この例年対応に付加する特段のものと言える。
○では実際の効果はどうか。現行でも就職スケジュールの実態は、大企業で3年生6月頃までに求人活動が始まり、同年12月頃には選考活動。4年生6月頃には「内々定」ということで、採用予定者を確保しようとしている。もちろん中小企業は、この大企業実態スケジュールの後追いの傾向になっている。つまり現行でも「企業倫理憲章」は守られておらず、ましてや大企業を中心とした経団連加入企業の範囲で拘束力もないことを考えると、効果の程は疑問である。
従って実務的には、あまり例年と変わらぬ対応の方が望ましいかもしれない。
○今年の就職状況はどうか。昨年4月1日時点での就職率は「大卒94.4%、高卒96.6%」で、就職氷河期から脱し、相当に改善されてきているが、一方で企業の慎重姿勢は続いており、注視は必要だ。なお就職状況の改善には、学生の中小企業指向への高まりもあると言われている。
二 「採用計画」は「中・長期的経営計画(経営ビジョン)」から
1.先ず「採用」の前に「将来的経営計画(ビジョンまたはイメージ)」位は考えておこう。例えば「自分の会社経営を、将来どうしたいのか」「日常経営で何が弱点、どの分野を伸ばすべきか」等々。それと財務状況将来見通しとの検討も加え、「何人の募集で、どのような雇用形態が望ましいか」「どのように育成すべきか(例えば営業リーダー等)」等で見えて来る「獲得すべき人材イメージ(輪郭)」を明確化しておくべきだ。
2、当然の事を言っているようだが、小規模経営者等の中には、「経営ビジョン」が不十分なのか、ご都合主義なのか、「経営ビジョン」と「採用計画」が連結していなく、単なる「人員補充」になっているのか、「採用行為自体に無理か不十分性があったのではないか」と思わざるを得ない採用行為も多く見られる。だから「採用選考判断」とは関係ない、問題となる採用面接質問をして、後でハローワークからの行政指導等を受けたり、「内定取消し」に陥ったりするのだ、
上述の事は、高校生採用等で、よく見られる事だが、会社の規模に関係なく、一応に対応して欲しい。
*なお労働関係法令等を守る気も無く、「人材育成」の観点も無いどころか、その場勝手の不届きな経営者の方は、直ちに本稿から去っていただきたい。もう現役でない立場だから、ハッキリ言うが、そうした不良経営者の存在が、日本経済を、より不健全なものにするだけだからだ。
三 「採用選考」の準備
1.概ねの採用手順は、以下のとおり。
(1)募集要項の作成→公表
①5W1Hは当然のこと、上述した「求める人材イメージ(条件)」が解るように作成しよう。それにより事前にミスマッチを、ある程度、防ぎ、効率的な採用面接にもつながる。
②インターネット求人等で会社イメージも伝える場合は、明るい雰囲気は当然のこと、多くの社員が掲載されている方が望ましい。
*なお「社長メッセージ」だけの場合も含めて、いくら大学生の中小企業指向が強まったとはいえ「ワンマン社長」「同族経営」は敬遠されがちなだけは、御忠言申し上げたい。
(2)履歴書(応募用紙)・エントリーシート等の作成・配布
①「公正採用」の観点から言うと、大卒採用の場合は、厚生労働省が示している「新規大学卒業予定者用標準的事項履歴書〔参考例〕」または「日本工業規格(JIS)履歴書〔標準的参考例〕」が望ましい。しかし企業独自の「社用紙」やインターネット求人による「エントリーシート」を作成・使用する場合は、後記の「就職差別につながる質問事項」は設けてはならない。
②高卒採用の場合は、近畿内の高校においては、「近畿高等学校統一応募用紙」のみとなっており、企業独自の「社用紙」「エントリーシート」は認められていない。
(用紙は、求人指定校または最寄ハローワークへ)
《知っておこう!「公正採用選考ルール」》
(1)戸籍(抄)謄本の提出を求めるのは、やめましょう。
①戸籍(抄)謄本の提出を求めることは、他人の「生まれ」「ところ」等を知ることになり、「部落差別に通じる問題事象」となる。(ハローワークの行政指導等対象)
②採用内定後であっても、社会保険等の手続で戸籍(抄)謄本の提出は必要なく、「不必要な個人情報の収集(個人情報保護法第16条違反)」に該当する。
*他に例外的に「住所」「氏名」「生年月日」「扶養家族の有無」等の確認が必要な場合は、「住民票記載事項証明書」で対応可能。
(2)会社独自の応募用紙、エントリーシート、採用面接時において、以下の質問事項等は、「就職差別につながる問題事象」となる。(ハローワークの行政指導等対象)
①国籍・本籍・出生地に関すること。
②家族に関すること。(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産、等)
③住宅状況に関すること。(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設、等)
④生活・家庭環境に関すること。
⑤宗教に関すること。
⑥支持政党に関すること。
⑦人生観・生活信条に関すること。
⑧尊敬する人物に関すること。
⑨思想に関すること。
⑩労働組合・学生運動など、社会運動に関すること。
⑪購読新聞、雑誌、愛読書等に関すること。
<男女雇用機会均等法に違反する事項(雇用均等室の行政指導等対象)>
①結婚・出産語も働くことの意思や恋人・結婚予定の有無を質問する。
②男性あるいは女性の一方のみ残業、休日出勤、転勤が可能かを質問する。
③男性または女性を敬遠しているかのような質問、発言をする。
④セクシュアルハラスメントと思われる質問・発言をする。
⑤女性と男性と異なった面接を行う。
(面接回数、男女別集団面接、集団面接-男性のみ質問)
<男女雇用機会均等法に違反する募集要項(雇用均等室の行政指導等対象)>
①「男性のみ」「女性のみ」の募集。
②男女別に採用予定人数を設定。
③男女別年齢制限の設定。
*一般的に雇用対策法第10条により、年齢制限は禁止されている。(例外規定有り)
④「営業マン」「ウエイトレス」等、男性または女性を表す名称で募集職種を表記する。
⑤会社案内や募集要項等において、「男性歓迎」「女性向き」等の表示をする。
<男女雇用機会均等法に違反する就職情報提供(雇用均等室の行政指導等対象)>
①「会社案内」等の資料を女性には送付しない等、男女で対応が異なる。
②男女別に会社説明会を開催する。
(3)合理的必要理由もなく血液検査、色覚検査等を一律的に行うこと。
○検査項目及び検査結果は、必ず本人にも通知すること。
(4)身元調査は、絶対にしないこと。
○「身元調査」とは、差別につながるような個人情報(センシティブ情報;素行調査含む)を、本人の承諾なく、自宅近隣付近で問合せる等の行為をいう。
○もし、これが発覚すると、問題事象の中でも「重大問題事象対応」となり、実は大阪府・大阪労働局・関係大学・人権団体が、特段の連携関係をもって、事実調査と行政指導等を行うことを、内部的に申し合わせている。
(5)同和関係者、障害者、難病者、在日外国人、等の特定の人々を排除すること。
○採用面接時の面接担当者の発言等で、上記意図が発覚した場合も「重大問題事象対応」となる。
《「公正採用選考ルール」の注意ポイント》
1.募集要項とエントリーシート等は、求める具体的な人材をプール化する上でも重要で、それが求職者に伝わるよう、創意工夫した方がよい。
2.「公正採用選考」に反する質問には、実際には紛らわしい場合も多い。(例;愛読書、座右の銘、社訓の感想、等々)実務的に言えば、紛らわしきは、避けた方がよい。その理由は、問題回避と、会社が求める能力・人材が明確であるほど、そんな紛らわしい質問はどうでもよく、もっと仕事上の質問に切替えた方が賢明である。
3、エントリーシート等で「短所」のみの記載を求めている場合があり、一般の「採用試験対策本」にも、その場合の記載方法等に紙面を割いているのがあるが、率直に言って「短所」のみ記載を求めること自体、望ましくなく、ハローワークの注意指導対象である。
何故なら「人は、誰もが長所もあれば短所もあり、長所が転じて短所となり、その逆も真なり」である。同時に企業が使うのは求職者の能力(長所)であり、求職者にとってみれば、エントリーシートや採用面接は、自己能力アピールの場である、従って求人側・求職側双方の思いをまとめ、結論的に言えば、「長所を重きに短所も聞く」スタンスで「能力発見!」の機会とした方が良い。
4.一般に販売されている「採用コンサルティング本(求人企業用)」「採用試験対策本(求職者用)」には要注意!
○上記「マニュアル本」の記載内容は、参考になる事柄も多いが、何故か「公正採用選考」の観点がなく、あるいは真逆に「悪いことを良し」と記載している本も結構、多い。例えば「身元調査OK」「親の職業、家族状況を聞き出す」というものがあった。もし、その事で求職者が問題化しても、そのリスク責任は求人企業である。
あまり信じ込み、鵜呑みはしないように。
*もし疑問点等があれば、Eメールにて相談に応じます。
(3)採用選考の準備・実施
<採用人材条件(イメージ)に応じた試験方法を検討・選択しよう。
◎試験方法の種類
○書類選考
①高卒採用の場合
■「近畿高等学校統一応募用紙」のチェクポイント
◆「調査書」-「学習の記録」欄
◆「特別活動の記録」 ◆「出席状況」
②大卒採用の場合
■特にエントリーシート等の不合格チェクポイント
◆特に稚拙、アピール度合いが低い内容
◆明らかに会社が求める人材条件(イメージ)と異なる場合(ミスマッチの防止)
*国公立大学等の学力有名大学名だけで書類選考することは、逆に良い人材を見逃すことにもなり、不適切かつ妥当ではない。
○学科試験
①高卒採用の場合
◆国語・算数をはじめとした「基礎学力」を把握する程度の問題は必要。
◆理工系の場合は、「工具・機械名」「機械の機能・能力」程度の問題は必要。
②大卒採用の場合
■文科系の場合
◆大卒としての基礎知識・学力を把握する問題。(特に「常識問題」は重要)
■理工系の場合
◆各科学技術分野により異なるので省略する。
(但し事実上、教授紹介が多い。)
○採用面接
①面接方法の種類と特徴等
■個別面接-面接人数が少なく、双方(求職者・求人企業)の自己アピール、人物評価等を、じっくり把握するにはメリット。
■集団面接-数人~10人程度まで。面接予定者が多い場合にメリットがあるが、採用にあたって、双方(求職者・求人企業)が自己アピール、人物評価等を、把握するには、やや消化不良の可能性がある。
■討論面接-10人程度までで、課題を与え、各人にある程度、自由に意見を述べさせる。(課題は、業務上のエピソード等が望ましく、政治的・宗教的内容等は、ご法度。)意外と求職者個々人の特性把握にはメリットがあるが、助言者・評価者等の事前準備と時間的労力がかかる。
*一時、「圧迫面接」が流行ったが、とかく「人権トラブル」が発生し易く、求職者の自己アピールしにくい等、「求職者・求人企業対等平等原則」にも疑念が生じる。率直に言って私としては、推奨し難い面接手法である。
◆上記面接方法は、面接予定者数や具体的な人材獲得条件、複数回面接(一次・二次)等により選択・組合せ等の検討を行い、実施決定して頂きたい。
{注意:高卒採用の場合は、必ず全員に「採用面接」を行うこと。(大阪労働局指導)}
②採用面接準備の注意ポイント
■予め、質問・評価シートは準備しておくこと。
(「公正採用」に反する問題質問の防止と採用判断基準の客観性等を維持・確保するため)
■採用関係者の事前会議。
◆採用予定人数、獲得人材条件、質問事項と採点基準等の事前意思統一を図る。
*飛込み面接官に要注意-よくある実例だが、この事前会議に出席せず、飛び込みで採用面接に臨み(会社幹部に多い)「公正採用選考」に反する質問・発言を連発し、後でハローワーク等の強い行政指導等を受ける。採用実務責任者は、上司であっても勇気をもって、毅然と対応して頂きたい。
■「討論面接」の注意点
◆意外と素性が見えるのが「討論面接」。それだけに進行役・評価者等の役割は重要。
ア全員を何か発言させること。
イ敢えて「反対意見」「逆説的質問」を行い、求職者の反応・対応を見る。
(「逆切れし易いか、冷静か」「牽引型リーダーか、調整型リーダーか」「感覚的思考か、論理的思考か」「独創的か、マニュアル的か」等々)
■質問作成のポイント
◆礼儀、組織性、協調性を把握する質問は当然の事、「獲得すべき人材条件」に沿った業務上の質問が望ましい。
〔質問事例〕
ア.「当社の主力商品(主な業務)は、何ですか?」-事前認知度と基本的意欲を確認する。
イ.よくあるトラブル、失敗事例を出して「貴方ならどうする?」-結論自体の適否よりも応えるスピード(臨機応変)、組織・周囲の者に配慮されているか、等が判断ポイント。
ウ.実技・演技も有効。「今、ここで困っているお客様に声をかけてください」-適切かどうかよりも、臨機応変力、営業度胸・サービス度が判断基準。等々。
*このように「ポジティブ採用」で発想すると、「公正採用」に反する質問時間が無駄。「何を質問をしてよいか、解らない」は「獲得する人材が解らない」と同じ。
*なお「公正採用選考」等の参考資料には、大阪府ホームページ「採用と人権」または「『公正採用選考』のポイント」をキーワードに検索して参照してください。
○適性検査
■適性診断については、特段の知識が無く、直接、下記に問合せて頂きたい。
〒540-0031 大阪市中央区北浜東3-14 エル・おおさか本館3階〔06-4794-9198〕
○健康診断
■採用選考段階での健康診断を一律的に実施することは、「公正採用選考」の趣旨に反し、また不必要(不合格者)の個人情報を収集すること(個人情報保護法第16条に低触)にもなることから不適当である。ましてや上記「公正採用ルール」中でも述べたとおり、血液検査、色覚検査等は、より慎重な対応が必要だ。
因みに文部科学省の「大学生の求職申込み必要書類(卒業見込み証明書・成績証明書・健康診断書)から、今は健康診断書が除外されている。
*なお採用内定後の健康診断はOKで、明らかに職務遂行上、困難な健康状況である場合は、合理的「内定取消し」理由として認められる。
*但し内定後の健康診断を「入職時の健康診断」にも代用する場合は、当該「健康診断」または「健康診断書」が入職時(通常4月~)の3ヶ月前までのものでなければならない。(労働安全衛生規則第43条)
(4)不採用となった履歴書の取扱い
○不採用となった履歴書について、よく返却を求められる事があるが、民法では「履歴書」自体は、会社に提出したもので、所有権は会社にあり、返却の義務を負わない。
○但し「履歴書」に記載されている内容は、再度、使用の可能性がない限り、「不必要な個人情報の収集(個人情報保護法第16条違反)」に該当し、会社は直ちに破棄または消去等をしなければならない。(雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン)
なお再度、使用の可能性がある場合は、他者の目に触れぬよう、厳重保管である。
しかし実務的には、特に求職者が返却を求めている場合は、トラブル防止の観点から返却に応じた方が賢明であろう。
四 まとめ
1.本稿は、基本的な「公正採用のポイント」と「採用選考のコツ」の両方を一体的に記載したもので、内容水準は別として、採用マニュアル本としては、一般書籍販売されていないという自負がある、
2.本稿全体を通じて強調したいのは、「いかにリスクの少ない人材を採用するか(ネガティブ採用)」よりも「いかに真に会社が期待する人材を獲得するか(ポジティブ採用)」の方が、良き人材獲得に有効かつ結果的に「公正採用」に反する問題事象を起こさないことにもなる。
3.なお公正採用に反する問題事象が発覚した場合は、少なくとも大阪府内では、ハローワークの行政指導等に留まらず、大阪府・人権団体等も交えた「事実確認」→「本人への謝罪」→「今後の防止策の提示」等、相当の労力を伴う事案に至る場合もある。
4.それだけに「親が商売人なら営業トークが旨いのではないか」とか「長男だったら~、女性だったら~」といった科学的根拠の無い経験的思い込みは、問題となる質問を起こす要因にもなり、この際、払拭した方がよい。大事な事は、「今現在の本人能力(意欲)を判断する」事だ。
5.加えて、これ以上の相談・アドバイスは、個別ケースに応じた方が効果的なので、遠慮なくEメール相談して頂きたい。
6.また「採用面接」の場は、単に「採用選考」だけでなく、「求職者と求人側との労働条件の確認」の場である。その際のトラブル(労使紛争)も多いが、それは別の機会に委ねたい。
最後に今や労働市場は、売り手市場。「公正採用」の下、厳しい「人材獲得合戦」に奮起することを期待する。
ご存知、2016年度採用(現在3回生)の就職戦線が、もう事実上、スタートしている。
別稿で「親も一緒に就職活動」に憂慮している私だが、それはそれとして公務員現役時代に「公正採用」と、一定の採用相談業務の経験も生かして、「今なら言える採用面接のポイント」を提供してみよう。
今は私も一民間人。公務員現役時代には言えなかった実務・実態論に反論も含めて提供するので、「本来、あるべき事とは違う」と怒らず(?)に御一読願いたい。
一 就職スケジュールの変更等
(1)先ず大学生の就職スケジュールが変更され、2016年卒(現在2年生)の就職活動から適用される。主な変更内容は下記のとおり。
《主な大学生の就職スケジュール変更内容[2016年卒(現在2年生)の就職活動から適用]》
<現行>
①「大学3年生12月~」→企業の求人活動(広報・説明会等)の解禁。
②「大学4年生4月~」→選考活動(筆記試験・採用面接等)開始。
③「大学4年生10月~」→求人企業の内定発表解禁。
<変更後>
①「大学3年生3月~」→企業の求人活動(広報・説明会等)の解禁。
②「大学4年生8月~」→選考活動(筆記試験・採用面接等)開始。
③「大学4年生10月~」→求人企業の内定発表解禁。
(2)就職スケジュールの変更事情と実態は?
○今回の就職スケジュール変更は、政府が昨年12月「学生は学業に専念すべき」との理由で、経団連(加盟企業;約1300社)に余裕(就職活動3ヶ月後倒し)あるものにするよう要請したことに応えたもの。
○元々、極めて形式的に例年9・10月頃に、ほぼ全国の大学が加入する「就職問題懇談会」が、経団連に対し文部科学省を通じて事実上、「公正採用選考」と「内定解禁10月~」を申入れ、経団連が10・11月頃に、これに応えて「大学卒業予定者(省略)等の採用選考に関する企業倫理憲章」を公表していた。今回の政府の措置は、この例年対応に付加する特段のものと言える。
○では実際の効果はどうか。現行でも就職スケジュールの実態は、大企業で3年生6月頃までに求人活動が始まり、同年12月頃には選考活動。4年生6月頃には「内々定」ということで、採用予定者を確保しようとしている。もちろん中小企業は、この大企業実態スケジュールの後追いの傾向になっている。つまり現行でも「企業倫理憲章」は守られておらず、ましてや大企業を中心とした経団連加入企業の範囲で拘束力もないことを考えると、効果の程は疑問である。
従って実務的には、あまり例年と変わらぬ対応の方が望ましいかもしれない。
○今年の就職状況はどうか。昨年4月1日時点での就職率は「大卒94.4%、高卒96.6%」で、就職氷河期から脱し、相当に改善されてきているが、一方で企業の慎重姿勢は続いており、注視は必要だ。なお就職状況の改善には、学生の中小企業指向への高まりもあると言われている。
二 「採用計画」は「中・長期的経営計画(経営ビジョン)」から
1.先ず「採用」の前に「将来的経営計画(ビジョンまたはイメージ)」位は考えておこう。例えば「自分の会社経営を、将来どうしたいのか」「日常経営で何が弱点、どの分野を伸ばすべきか」等々。それと財務状況将来見通しとの検討も加え、「何人の募集で、どのような雇用形態が望ましいか」「どのように育成すべきか(例えば営業リーダー等)」等で見えて来る「獲得すべき人材イメージ(輪郭)」を明確化しておくべきだ。
2、当然の事を言っているようだが、小規模経営者等の中には、「経営ビジョン」が不十分なのか、ご都合主義なのか、「経営ビジョン」と「採用計画」が連結していなく、単なる「人員補充」になっているのか、「採用行為自体に無理か不十分性があったのではないか」と思わざるを得ない採用行為も多く見られる。だから「採用選考判断」とは関係ない、問題となる採用面接質問をして、後でハローワークからの行政指導等を受けたり、「内定取消し」に陥ったりするのだ、
上述の事は、高校生採用等で、よく見られる事だが、会社の規模に関係なく、一応に対応して欲しい。
*なお労働関係法令等を守る気も無く、「人材育成」の観点も無いどころか、その場勝手の不届きな経営者の方は、直ちに本稿から去っていただきたい。もう現役でない立場だから、ハッキリ言うが、そうした不良経営者の存在が、日本経済を、より不健全なものにするだけだからだ。
三 「採用選考」の準備
1.概ねの採用手順は、以下のとおり。
(1)募集要項の作成→公表
①5W1Hは当然のこと、上述した「求める人材イメージ(条件)」が解るように作成しよう。それにより事前にミスマッチを、ある程度、防ぎ、効率的な採用面接にもつながる。
②インターネット求人等で会社イメージも伝える場合は、明るい雰囲気は当然のこと、多くの社員が掲載されている方が望ましい。
*なお「社長メッセージ」だけの場合も含めて、いくら大学生の中小企業指向が強まったとはいえ「ワンマン社長」「同族経営」は敬遠されがちなだけは、御忠言申し上げたい。
(2)履歴書(応募用紙)・エントリーシート等の作成・配布
①「公正採用」の観点から言うと、大卒採用の場合は、厚生労働省が示している「新規大学卒業予定者用標準的事項履歴書〔参考例〕」または「日本工業規格(JIS)履歴書〔標準的参考例〕」が望ましい。しかし企業独自の「社用紙」やインターネット求人による「エントリーシート」を作成・使用する場合は、後記の「就職差別につながる質問事項」は設けてはならない。
②高卒採用の場合は、近畿内の高校においては、「近畿高等学校統一応募用紙」のみとなっており、企業独自の「社用紙」「エントリーシート」は認められていない。
(用紙は、求人指定校または最寄ハローワークへ)
《知っておこう!「公正採用選考ルール」》
(1)戸籍(抄)謄本の提出を求めるのは、やめましょう。
①戸籍(抄)謄本の提出を求めることは、他人の「生まれ」「ところ」等を知ることになり、「部落差別に通じる問題事象」となる。(ハローワークの行政指導等対象)
②採用内定後であっても、社会保険等の手続で戸籍(抄)謄本の提出は必要なく、「不必要な個人情報の収集(個人情報保護法第16条違反)」に該当する。
*他に例外的に「住所」「氏名」「生年月日」「扶養家族の有無」等の確認が必要な場合は、「住民票記載事項証明書」で対応可能。
(2)会社独自の応募用紙、エントリーシート、採用面接時において、以下の質問事項等は、「就職差別につながる問題事象」となる。(ハローワークの行政指導等対象)
①国籍・本籍・出生地に関すること。
②家族に関すること。(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産、等)
③住宅状況に関すること。(間取り、部屋数、住宅の種類、近隣の施設、等)
④生活・家庭環境に関すること。
⑤宗教に関すること。
⑥支持政党に関すること。
⑦人生観・生活信条に関すること。
⑧尊敬する人物に関すること。
⑨思想に関すること。
⑩労働組合・学生運動など、社会運動に関すること。
⑪購読新聞、雑誌、愛読書等に関すること。
<男女雇用機会均等法に違反する事項(雇用均等室の行政指導等対象)>
①結婚・出産語も働くことの意思や恋人・結婚予定の有無を質問する。
②男性あるいは女性の一方のみ残業、休日出勤、転勤が可能かを質問する。
③男性または女性を敬遠しているかのような質問、発言をする。
④セクシュアルハラスメントと思われる質問・発言をする。
⑤女性と男性と異なった面接を行う。
(面接回数、男女別集団面接、集団面接-男性のみ質問)
<男女雇用機会均等法に違反する募集要項(雇用均等室の行政指導等対象)>
①「男性のみ」「女性のみ」の募集。
②男女別に採用予定人数を設定。
③男女別年齢制限の設定。
*一般的に雇用対策法第10条により、年齢制限は禁止されている。(例外規定有り)
④「営業マン」「ウエイトレス」等、男性または女性を表す名称で募集職種を表記する。
⑤会社案内や募集要項等において、「男性歓迎」「女性向き」等の表示をする。
<男女雇用機会均等法に違反する就職情報提供(雇用均等室の行政指導等対象)>
①「会社案内」等の資料を女性には送付しない等、男女で対応が異なる。
②男女別に会社説明会を開催する。
(3)合理的必要理由もなく血液検査、色覚検査等を一律的に行うこと。
○検査項目及び検査結果は、必ず本人にも通知すること。
(4)身元調査は、絶対にしないこと。
○「身元調査」とは、差別につながるような個人情報(センシティブ情報;素行調査含む)を、本人の承諾なく、自宅近隣付近で問合せる等の行為をいう。
○もし、これが発覚すると、問題事象の中でも「重大問題事象対応」となり、実は大阪府・大阪労働局・関係大学・人権団体が、特段の連携関係をもって、事実調査と行政指導等を行うことを、内部的に申し合わせている。
(5)同和関係者、障害者、難病者、在日外国人、等の特定の人々を排除すること。
○採用面接時の面接担当者の発言等で、上記意図が発覚した場合も「重大問題事象対応」となる。
《「公正採用選考ルール」の注意ポイント》
1.募集要項とエントリーシート等は、求める具体的な人材をプール化する上でも重要で、それが求職者に伝わるよう、創意工夫した方がよい。
2.「公正採用選考」に反する質問には、実際には紛らわしい場合も多い。(例;愛読書、座右の銘、社訓の感想、等々)実務的に言えば、紛らわしきは、避けた方がよい。その理由は、問題回避と、会社が求める能力・人材が明確であるほど、そんな紛らわしい質問はどうでもよく、もっと仕事上の質問に切替えた方が賢明である。
3、エントリーシート等で「短所」のみの記載を求めている場合があり、一般の「採用試験対策本」にも、その場合の記載方法等に紙面を割いているのがあるが、率直に言って「短所」のみ記載を求めること自体、望ましくなく、ハローワークの注意指導対象である。
何故なら「人は、誰もが長所もあれば短所もあり、長所が転じて短所となり、その逆も真なり」である。同時に企業が使うのは求職者の能力(長所)であり、求職者にとってみれば、エントリーシートや採用面接は、自己能力アピールの場である、従って求人側・求職側双方の思いをまとめ、結論的に言えば、「長所を重きに短所も聞く」スタンスで「能力発見!」の機会とした方が良い。
4.一般に販売されている「採用コンサルティング本(求人企業用)」「採用試験対策本(求職者用)」には要注意!
○上記「マニュアル本」の記載内容は、参考になる事柄も多いが、何故か「公正採用選考」の観点がなく、あるいは真逆に「悪いことを良し」と記載している本も結構、多い。例えば「身元調査OK」「親の職業、家族状況を聞き出す」というものがあった。もし、その事で求職者が問題化しても、そのリスク責任は求人企業である。
あまり信じ込み、鵜呑みはしないように。
*もし疑問点等があれば、Eメールにて相談に応じます。
(3)採用選考の準備・実施
<採用人材条件(イメージ)に応じた試験方法を検討・選択しよう。
◎試験方法の種類
○書類選考
①高卒採用の場合
■「近畿高等学校統一応募用紙」のチェクポイント
◆「調査書」-「学習の記録」欄
◆「特別活動の記録」 ◆「出席状況」
②大卒採用の場合
■特にエントリーシート等の不合格チェクポイント
◆特に稚拙、アピール度合いが低い内容
◆明らかに会社が求める人材条件(イメージ)と異なる場合(ミスマッチの防止)
*国公立大学等の学力有名大学名だけで書類選考することは、逆に良い人材を見逃すことにもなり、不適切かつ妥当ではない。
○学科試験
①高卒採用の場合
◆国語・算数をはじめとした「基礎学力」を把握する程度の問題は必要。
◆理工系の場合は、「工具・機械名」「機械の機能・能力」程度の問題は必要。
②大卒採用の場合
■文科系の場合
◆大卒としての基礎知識・学力を把握する問題。(特に「常識問題」は重要)
■理工系の場合
◆各科学技術分野により異なるので省略する。
(但し事実上、教授紹介が多い。)
○採用面接
①面接方法の種類と特徴等
■個別面接-面接人数が少なく、双方(求職者・求人企業)の自己アピール、人物評価等を、じっくり把握するにはメリット。
■集団面接-数人~10人程度まで。面接予定者が多い場合にメリットがあるが、採用にあたって、双方(求職者・求人企業)が自己アピール、人物評価等を、把握するには、やや消化不良の可能性がある。
■討論面接-10人程度までで、課題を与え、各人にある程度、自由に意見を述べさせる。(課題は、業務上のエピソード等が望ましく、政治的・宗教的内容等は、ご法度。)意外と求職者個々人の特性把握にはメリットがあるが、助言者・評価者等の事前準備と時間的労力がかかる。
*一時、「圧迫面接」が流行ったが、とかく「人権トラブル」が発生し易く、求職者の自己アピールしにくい等、「求職者・求人企業対等平等原則」にも疑念が生じる。率直に言って私としては、推奨し難い面接手法である。
◆上記面接方法は、面接予定者数や具体的な人材獲得条件、複数回面接(一次・二次)等により選択・組合せ等の検討を行い、実施決定して頂きたい。
{注意:高卒採用の場合は、必ず全員に「採用面接」を行うこと。(大阪労働局指導)}
②採用面接準備の注意ポイント
■予め、質問・評価シートは準備しておくこと。
(「公正採用」に反する問題質問の防止と採用判断基準の客観性等を維持・確保するため)
■採用関係者の事前会議。
◆採用予定人数、獲得人材条件、質問事項と採点基準等の事前意思統一を図る。
*飛込み面接官に要注意-よくある実例だが、この事前会議に出席せず、飛び込みで採用面接に臨み(会社幹部に多い)「公正採用選考」に反する質問・発言を連発し、後でハローワーク等の強い行政指導等を受ける。採用実務責任者は、上司であっても勇気をもって、毅然と対応して頂きたい。
■「討論面接」の注意点
◆意外と素性が見えるのが「討論面接」。それだけに進行役・評価者等の役割は重要。
ア全員を何か発言させること。
イ敢えて「反対意見」「逆説的質問」を行い、求職者の反応・対応を見る。
(「逆切れし易いか、冷静か」「牽引型リーダーか、調整型リーダーか」「感覚的思考か、論理的思考か」「独創的か、マニュアル的か」等々)
■質問作成のポイント
◆礼儀、組織性、協調性を把握する質問は当然の事、「獲得すべき人材条件」に沿った業務上の質問が望ましい。
〔質問事例〕
ア.「当社の主力商品(主な業務)は、何ですか?」-事前認知度と基本的意欲を確認する。
イ.よくあるトラブル、失敗事例を出して「貴方ならどうする?」-結論自体の適否よりも応えるスピード(臨機応変)、組織・周囲の者に配慮されているか、等が判断ポイント。
ウ.実技・演技も有効。「今、ここで困っているお客様に声をかけてください」-適切かどうかよりも、臨機応変力、営業度胸・サービス度が判断基準。等々。
*このように「ポジティブ採用」で発想すると、「公正採用」に反する質問時間が無駄。「何を質問をしてよいか、解らない」は「獲得する人材が解らない」と同じ。
*なお「公正採用選考」等の参考資料には、大阪府ホームページ「採用と人権」または「『公正採用選考』のポイント」をキーワードに検索して参照してください。
○適性検査
■適性診断については、特段の知識が無く、直接、下記に問合せて頂きたい。
〒540-0031 大阪市中央区北浜東3-14 エル・おおさか本館3階〔06-4794-9198〕
○健康診断
■採用選考段階での健康診断を一律的に実施することは、「公正採用選考」の趣旨に反し、また不必要(不合格者)の個人情報を収集すること(個人情報保護法第16条に低触)にもなることから不適当である。ましてや上記「公正採用ルール」中でも述べたとおり、血液検査、色覚検査等は、より慎重な対応が必要だ。
因みに文部科学省の「大学生の求職申込み必要書類(卒業見込み証明書・成績証明書・健康診断書)から、今は健康診断書が除外されている。
*なお採用内定後の健康診断はOKで、明らかに職務遂行上、困難な健康状況である場合は、合理的「内定取消し」理由として認められる。
*但し内定後の健康診断を「入職時の健康診断」にも代用する場合は、当該「健康診断」または「健康診断書」が入職時(通常4月~)の3ヶ月前までのものでなければならない。(労働安全衛生規則第43条)
(4)不採用となった履歴書の取扱い
○不採用となった履歴書について、よく返却を求められる事があるが、民法では「履歴書」自体は、会社に提出したもので、所有権は会社にあり、返却の義務を負わない。
○但し「履歴書」に記載されている内容は、再度、使用の可能性がない限り、「不必要な個人情報の収集(個人情報保護法第16条違反)」に該当し、会社は直ちに破棄または消去等をしなければならない。(雇用管理分野における個人情報保護に関するガイドライン)
なお再度、使用の可能性がある場合は、他者の目に触れぬよう、厳重保管である。
しかし実務的には、特に求職者が返却を求めている場合は、トラブル防止の観点から返却に応じた方が賢明であろう。
四 まとめ
1.本稿は、基本的な「公正採用のポイント」と「採用選考のコツ」の両方を一体的に記載したもので、内容水準は別として、採用マニュアル本としては、一般書籍販売されていないという自負がある、
2.本稿全体を通じて強調したいのは、「いかにリスクの少ない人材を採用するか(ネガティブ採用)」よりも「いかに真に会社が期待する人材を獲得するか(ポジティブ採用)」の方が、良き人材獲得に有効かつ結果的に「公正採用」に反する問題事象を起こさないことにもなる。
3.なお公正採用に反する問題事象が発覚した場合は、少なくとも大阪府内では、ハローワークの行政指導等に留まらず、大阪府・人権団体等も交えた「事実確認」→「本人への謝罪」→「今後の防止策の提示」等、相当の労力を伴う事案に至る場合もある。
4.それだけに「親が商売人なら営業トークが旨いのではないか」とか「長男だったら~、女性だったら~」といった科学的根拠の無い経験的思い込みは、問題となる質問を起こす要因にもなり、この際、払拭した方がよい。大事な事は、「今現在の本人能力(意欲)を判断する」事だ。
5.加えて、これ以上の相談・アドバイスは、個別ケースに応じた方が効果的なので、遠慮なくEメール相談して頂きたい。
6.また「採用面接」の場は、単に「採用選考」だけでなく、「求職者と求人側との労働条件の確認」の場である。その際のトラブル(労使紛争)も多いが、それは別の機会に委ねたい。
最後に今や労働市場は、売り手市場。「公正採用」の下、厳しい「人材獲得合戦」に奮起することを期待する。
(民守 正義)
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