コラムーひとりごと11 民間企業の「人事評価」と大阪府の「人事評価」

コラムーひとりごと11
民間企業の「人事評価」と大阪府の「人事評価」

{まだなお未成熟な「人事評価制度」}
 日本で「人事評価制度」が導入され始めたのは、バブル経済崩壊の頃と言われている。
 その主な「人事評価制度」の評価内容は成果主義であった。しかし「何をもって成果とするか(アウトプットか、インプットか)」については、当初から未整理だったし、また成果評価がし易いものと、そうでないものとに不平等感(例えば営業成果⇔内勤成果)があって、「人事評価制度」自体の信頼性が会社が宣伝するほどなく、疑心暗鬼の中のスタートだったと言われている。その内、「人事評価制度」も様々な見直し改良が流行り、パフォーマンス評価や自己能力管理制度、行動評価基準としてのコンピテンシーの導入等の工夫がされてきた。しかし「これが人事評価制度の決定だ」というものもなく、まだなお摸索と研究は続く。
 ここで実例2例を紹介すると、一つは成果主義に基く「人事評価制度」を導入したのだが、社員の中には成果配分を本月分と翌月分とにおいてコントロールしたり、目先の成果に囚われ、かえって大局的なモチベ-ションやモラルが低下する等の事態になり、結果的に導入した「人事評価制度」を廃止して、元の職務・資格制度に戻したところ、一応、業績は回復したという話。
 もう一つは、先進的に「人事評価制度」を導入したという大手薬業メーカーで、先ず会社の経営企画会議で、会社の当面または中期的な経営計画を決定する。そして、その経営企画に沿って、各セクションが更なる具体目標と達成計画を策定する。次に各セクション責任者(中間管理職)は、各担当者に更に具体的な目標と役割分担等を伝え、併せて各担当者からの意見・要望も聴取して、パフォーマンス評価や自己能力管理等についても十分な相互理解を得て、評価は管理職評価と自己評価を合わせて行うというものだ。
 この「人事評価制度」の注意ポイントは、①会社全体の経営計画が、一応に下部まで浸透すること。従って人事評価は、会社の上層部から行うとの事。(大阪府は逆だが-)
②そして、この「人事評価制度」のキーポイント(成功の鍵)は、会社の上層部と現場とを結ぶ中間管理職にあり、中間管理職も本来の自己業務もあって、相当に疲弊しているらしい。でも当該会社の人事管理責任者は、「中間管理職は、それ位の役割を果たせねば駄目だ」だと言ってのけた。
 この二つの実例は、結果において正反対だが、実は「人事評価制度」を導入する際には、相当に十分な理解・説得と納得が必要という教訓では共通している。特に米国等と違って、日本的雇用管理制度(年功序列・職能資格制度)も多少は残し、成果評価(アウトプット)だけでなく、行動評価(インプット)も評価対象に加味するとなると、なお更に中間管理職とスタッフ(部下)とのコミュニケーションは重要だ。

{大阪府における人事評価制度}
 大阪府においても「人事評価制度」はあるが、その実態運用は、相当に形式的・稚拙に思える。その主な具体運用を明らかにして問題点も探ってみたい。
<一般的(上位者から下位者に対して、全員対象に行う)な「人事評価制度」の方法>
1.基本的には、先ず「チャレンジシート」という用紙に業務目標と達成状況を自分で記載して直属上司に提出する。具体的には、①記載内容・提出時期は「業務目標」のみ記載で4月頃。②そして10月頃に「中間達成状況」を加筆して再び提出。③更に3月頃に4月1日に人事異動があるのが理由だが、まだ年度末が来ていないのに、来たと想定して一年間の自己評価を追加記載して再々度、直属上司に提出する。
2.直属上司は「第一次評価者」となって、「チャレンジシート」も参考(?)にしながら、日頃の評価と合わせた当該職員に対する人事評価を行う。その上で、更なる上司(通常は課長)が、補正的に第二次評価を行う。
 〔問題点等〕
*上司との(評価)面談は、「チャレンジシート」提出毎に行うのだが、真面目に業務に関る事柄を話す上司もいれば、「普段、あまり話ができていない」とか言って、親睦の場に変えてしまう上司もいる。
*一定、やむを得ない面もあるが、「チャレンジシート」提出頃に直属上司が「ボチボチ出してなー」と言う程度で、上記実例で述べたコミュニケーションは、殆ど行われず、事務的なものである。
*「人事評価制度」の運用は、組織の下位の方から行い、上層幹部は後の方で行う。従って上記実例で紹介例に沿った「大阪府の基本政策ビジョン」なるものを順次、下位に伝える作業は全く行われない。(理由はわからないが、上層部のプライドか?)
*最近、出された「お達し」だが、「業務目標は数値も入れて、できるだけ具体的に記載すること」との指示により、当然に日常業務で行うべき業務内容(例えば「○月までにデータ入力を行う」等)まで業務目標に記載する者がいて、業務目標が瑣末なものになってきている。「お達し」の理由は「抽象的な目標なら、その達成状況の検証判断がしにくいから」という事らしいが、「評価のし易いものほど、記載内容は稚拙」ということも、よく知っておくべきだ。なおかつ「評価にあたっては、もっと悩め!」と言いたい。
*「人事評価制度」では大阪府に限らず、よくある欠点だが、評価が中位数(BかC)に集中し易い。
*ある本庁課長(今は退職)が「俺が第二次評価者だ。わかってるかー!」と自分の言うことに従うように脅かす発言をする評価者として不適格な者もいる。
<特例的(下位者から上位者に対して行う)な「人事評価制度」の方法>
 いわゆる「下位者から上位者への人事評価」は、一般的には行われておらず、課の規模によって人数制限があるが、一定時期に課長補佐級(数人程度?)が課長を評価する。
〔問題点等〕
*「もっと下位者からの評価者の範囲を広げるべき」という声は結構、多い。しかし上層幹部の反対の声も強いようで、「部下に気を遣って、業務がやりにくい」等が理由のようだ。しかし、それはお互いの事で、現行<一般的(上位者から下位者に対して、全員対象に行う)な「人事評価制度」>の中で、上司に反対意見が言いにくい雰囲気は歴然としてある。「上司と部下-互いの適当な緊張関係と十分なコミュニケーション」これが、これからの人事評価・管理の基本的考え方であるべきではないだろうか。
*普段はケチなある本庁課長(今は退職)が、課長補佐級からの自己評価が始まる前に、「一杯飲み」をごちそうする者もいる。

<昇任・昇格制度>
 主査以上の昇任については、主査昇任試験合格後でなければ、ありえない。主査昇任試験の受験年齢制限は、45歳までである。主査以上の昇任・昇格の決定システムは、公的には何ら明らかにされていない。(概ねの想像はつくがー)
〔問題点等〕
*主査昇任試験年齢受験資格(45歳まで)に合格しなかった場合、定年退職まで同一職階(ヒラ職員)・同一給与である。これでは定年退職(60歳)までの勤労モチベーションが下がり、モラルハザードを起こす可能性が強く、何らかな救済措置が必要ではないか。
*大阪府の一般的な出世条件は、然したる問題職員ではないことを前提に、「大卒であること」「主査昇任試験が、少なくとも35歳(Ⅰ類)までに合格すること」である。概ね、その条件に適合すれば、課長補佐級までは比較的、早く昇格する。問題なのは、その昇格前には、それほど仕事ができなくても、先程の「人事評価」が突然、最高のAになることだ。まさに人事評価の後付で、「大阪府の人事評価制度が、民間企業の真似事だ」と言われる所以だ。
*私は、大手民間企業の人事管理責任者達と交流があるが、昇任・昇格を決定するにあたって「いつ、どこで、誰達が、誰をノミネートに」位は予め、社内報で明らかにして透明性を確保している企業も結構、ある。大阪府も「人事は秘密に」という旧態依然とした考え方から脱却して、できるだけ「透明性」「公開」「合理性に基く全体合意」等を基調とした人事諸制度に見直すべきではないかと思う。

 紙面の都合上、概ねの民間企業と大阪府の人事評価制度の基本的違いの羅列となったが、それでも読者の中にも様々な疑問・意見等があるだろう。
「これは?」と思う意見等があれば、寄せていただきたい。  (民守 正義)