コラムーひとりごと5 「民間登用―是か非か」

コラムーひとりごと5
「民間登用―是か非か」

大阪市議会は、校長民間登用で限定的にし予算も削減した。橋下市長の民間登用方針と大阪市議会との対立議論、そして不祥事の実態。詳しい事実は、私も報道以上に知らないので、そもそも「民間登用」をどう考えるかについて述べたい。

{自治体行政における民間登用}
先ず自治体行政の中に民間人を登用することはどうか。結論的に言えば「人によりけり」である。
橋下市長は、知事時代から民間人登用志向であった。私の推測だが、橋下元知事(市長)は元々、「更に公務員賃金を抑制し、民間の効率性ノウハウを積極的に導入し~」と公務員バッシングを交えながら自論を展開していた。実際、部長連中(部長会議?)を前に「お前ら、退職したら、どこか天下りでもするんだろう!」と罵ったことがあるという。(某元部長級の証言)
また某部長を民間登用(とは言っても元々は経済産業省官僚)した事もあったが、「パワハラ部長」と揶揄(現に部下に自殺者が出た)され、あまり評判は良くなかった。
しかし若き頃、若干でも民間企業で働いた経験のある自分にとって,民間登用全てを否定する気になれない。民間企業における効率ノウハウ、独創的な企画力と結果(成果)重視等、今の公務員風土にはないが、これからは身に付けていかなければならないエキスが多くあると思う。それらを伝達導入するに民間登用は効果的手段である。ただ思い間違ってはいけないのは、それは公共サービスを目的とする自治体と営利を目的とする企業との本質的違いから来るものでもあって、「民間企業が優れて公共自治体が遅れている」というものでもない。従って殴り込みをかけるように民間企業社長が自分の会社の経営手法(ワンマン経営等)で自治体経営に乗り出しても惨敗するのが落ちだ。すなはち民間企業経営と自治体経営とは違う、大事なことは、民間企業で具体的に学ぶべき思考・ポイント等を、いかに自治体現状バランスに配慮し、アドバイスして導入を図るかだろう。
だから、それができるかどうか、「人によりけり」なのである。

{教育行政(校長)における民間登用}
次に民間校長の場合である。これについては、基本的に私は反対である。何故なら、余りにも専門的知識と実践的な経験が必要な教育行政と一般的な民間人登用ではギャップが大き過ぎて、現実は対応不能ではないかと思うからである。
私は最近まで知らなかったが、校長については教員免許がなくとも、教育長の任命によりなれるのである。しかし民間登用校長を除く全ての教員は、大学で教員免許(専門的知識)を取得し、教壇に立ち、日々、生徒・児童と立ち向かい合っている。その中で民間登用校長(元弁護士であろうが、元会社社長であろうが)が「君達の教育実践は?」とか「もっと、こうあるべきでは?」と言っても、実際にはシラケているのが本音ではないのか。せいぜい君が代を唄っているかを口パクチェックするぐらいのものではー。(口パクチェックの間、本人-民間登用校長は君が代を唄っていたのだろうか)
教員の中には出世度外視に、いつまでも教壇に立って教育実践を続けたい者もいれば、本庁に上がり指導主事から校長へと歩む者もいる。いずれにしても全く教育経験のない民間登用校長に素人助言を頂くのは正直、モチベーションの下がる思いであろう。
私の考えでは、教員の民間企業派遣研修の方が、まだましだ。

{不祥事が続く民間登用}
次に民間登用で不祥事が相次いでいる事が問題になっている。本年度末に公務員定年退職した者として言わせて頂ければ、我々は入庁時から「汚職等、不祥事」には機会ある毎に注意研修を受けて躾けられている。民間企業で行われている「営業接待」なるものも全て汚職である。それでも多少は公務員の不祥事は起きているが、先進諸国の公務員の中では、相当に少ないことだけは言っておきたい。

{中原教育長のパワハラ発言報道}
最後に補足として、9月19日に行われた大阪府教育委員非公式会議における中原徹教育長の立川さおり教育委員に対する威圧的(パワハラ)発言についてである。詳しい発言内容は省略するが、確かに松井知事(橋下大阪市長も)からの全幅の信頼を得ていることを嵩にきせた発言内容ではある。しかし、その事の是非議論は横に置いて、問題指摘したいことは、本事件のマスコミ報道で、何度か「中原教育長と立川教育委員とは形式上、同格なのでパワハラには当たらないが(当たらないかもしれないが)」と一々、前説明していたことだ。確かにパワハラは、一般的には「上位の者(あるいは専門的知識や経験の豊富な者)が下位の者(あるいは専門的知識や経験の乏しい者)へのイジメ・嫌がらせ・暴行等」を意味するのだが、それは形式上だけでなく、実質的・日常的な力関係も含まれる。従って中原教育長と立川教育委員との実質的・日常的な力関係がどうなのかはわからないが、パワハラに該当する可能性は、十分ある。私は現役時代の業務上、「人権」の専門としての自負があるが、なおかつ信憑性を得たいのなら、「パワーハラスメントの命名者-岡田康子さん」でも「労働問題の専門家-金子雅臣さん」にでも確認すればよい。そして強く指摘しておきたいのは、マスコミは、くだらない視聴者受け番組のことを考えるのもよいが、マスコミ使命として、しっかりとした「人権学」に基づいた報道・番組づくりにも心がけて欲しい。(民守 正義)