「今、闘わなければ、いつ闘う!改悪労働者派遣法」

「今、闘わなければ、いつ闘う!改悪労働者派遣法」

 今、労働者派遣法が、またもや改悪の危機に瀕している。
 そもそも労働者派遣法は、どういうものなのか、その変遷について雑駁ながら整理してみたい。

一 労働者派遣法改訂の変遷
1985年 ◎労働者派遣法成立。
      ○派遣対象業務は13業務。
1996年◎派遣対象業務を26業務へ。
      ○労働者派遣に関する指針の公表、等。
1999年◎派遣対象業務を原則自由化。
      ○派遣受入期間1年以内。
      ○事前面接等行為の制限、等の労働者保護措置       の拡充。
2003年◎製造業務について派遣対象業務として解禁。
     ◎専門(前派遣対象)26業務について3年の派遣受      入期間の撤廃。
     ◎専門26業務以外の派遣受入期間を1年→3年。
     ◎派遣受入期間制限を超えて労働者を雇入れようと     する場合は、派遣先が雇用契約の申込みを義務付      ける等。
2012年 ◎日雇い派遣の原則禁止。
     ◎派遣労働者の無期雇用化や待遇の改善の具体的     措置。
     ◎違法派遣に対する迅速・的確な対処の措置、等。
2014年今臨時国会9月に新改正案提出、
           (衆議院審議入り)*内容は後述)

《労働者派遣法の規制緩和の流れ》
 この労働者派遣法の流れを見ると、厚生労働省が目に余る違法・反社会的派遣事業に法的・行政的規制をかけようとする努力も見られながらも、全体として経営側の要請に応えて、できるだけ自由な派遣事業の活用へと改悪してきたことがわかる。
 元々、1985年の派遣法設立当時は、例外的事業・職種が対象になるだろうと考えられていたし、また戦前の女工哀史、人身売買、強制労働、中間搾取等の横行から敗戦後の民主化・反省の中で、日本の労働市場の雇用形態は、直接雇用、終身雇用制・年功序列賃金体系等を基調とし、それが敗戦後の復興から高度経済成長を支えたという効果・実績も認めなければばらない。
 しかし、その一方、高度経済成長が進展する中で、職業の専門分化、守衛や清掃といった建物サービスをはじめとする間接業務分野の外注・下請化の進行等を背景に、自己の雇用する労働者を他社に派遣し、そこで指揮命令を受けて業務処理を行うという人材派遣業が増加してきた。
 しかし労働者派遣事業は、「雇用関係」と「使用関係」が分離し、派遣元の労働者が派遣先の企業で就業するという特殊な事業形態であることから、①従前、雇用関係が二つあるような労働者供給事業は職業安定法が禁止しており、それとの関係で問題が生ずる場合があったこと、②また、実際に指揮命令する者と雇用者が違うことから、労働基準法等の適用に関しても適切に対処できず、労働者の保護が不十分であったこと等の問題があった。
 そこで労働者派遣事業の事業形態の抱える問題点の解消を図るため、労働力需給システムの一つとして制度化し、適切な法規制を行うこととし、1985年に労働者派遣法が制定されたのである。(1986年7月施行)

《日本の雇用形態は、非正規雇用の時代へ》
 しかし高度経済成長が破綻し、1973・1974年の円高不況から造船不況等へと構造不況等へと大量雇用調整時代に入り、大幅な人件費削減のツールとして労働者派遣事業が活用されてきた。
 そこで直接雇用、終身雇用制・年功序列賃金体系等を基調とする正規雇用中心型から非正規雇用積極活用型に切り替わったのである。その大きなポイントが1999年の派遣対象業務原則自由化(ネガティブリスト)だと言える。

二 労働者派遣法の新改訂案のポイント
 今臨時国会9月に出された新改訂案のポイントは、次のと おりである。
1.特定労働者派遣事業(届出制)と一般労働者派遣事業  (許可制)の区別を廃止し、全ての労働者派遣事業を許可 制とする。
*特定労働者派遣事業(届出制)=派遣元に常時雇用される労働者(自社の正規雇用社員)を他社に派遣する形態。
*一般労働者派遣事業(許可制)=登録したスタッフを派遣先との契約中に限って雇用契約を締結し、他社に派遣する形態。
2.期間制限のない「専門26業務等」を廃止し、期間制限 のある「その他の業務」と同様、全ての業務に共通する派 遣労働者個人単位の期間制限(3年)と派遣先の事業所単 位の期間制限(3年、一定の場合に延長可)を設ける。
(1)労働者個人単位の期間制限
  派遣先の同一組織単位における同一派遣労働者の継続的 な受入は3年を上限とする。
(2)派遣先の事業所単位の期間制限
             (3年、一定の場合に延長可)
3.派遣先の同一事業所における派遣労働者の継続的な受入 は3年を上限とするが、受入開始から3年を経過する時ま でに過半数労働組合等から意見を聴取した場合には、さら に3年間延長可能とする、(その後の扱いも同様)
4.派遣元事業主は、新たな期間制限の上限に達する派遣労 働者に対し、派遣労働者が引き続き就業することを希望す る場合は、新たな就業機会(派遣先)の提供等、雇用の安 定を図るための措置を講ずることを義務付ける。
5.派遣労働者の均衡待遇の確保・キャリアアップの推進
(1)派遣元事業主と派遣先の双方において、派遣労働者の  均衡待遇確保のための取組みを強化する。
(2)派遣元事業主に計画的な教育訓練等の実施を義務付け  ること等により、派遣労働者のキャリアアップを推進す  る。

三 今臨時国会労働者派遣法の新改訂案の問題点
1.派遣労働者は、いつまで経っても派遣労働者。
  労働者派遣法の新改訂案の問題点には様々な問題点があ るが、特に問題となるのが、[2(1)労働者個人単位の 期間制限(上限3年)]⇔[3.派遣先の同一の事業所に おける派遣労働者の継続的な受入は3年を上限とするが、 受入開始から3年を経過する時までに過半数労働組合等か ら意見を聴取した場合には、さらに3年間延長可能とす  る、(その後の扱いも同様)]との関係である。
  つまり派遣労働者は、問答無用に3年で派遣契約解除さ れるのに、派遣先事業所は過半数労働組合等から意見を聴 取した場合には、さらに3年間延長可能となることだ。現 在の労働組合の組織率が官公労を含めても20%を割ってい る現状の中で、事実上、どれだけ実効性があるか甚だ疑問 で、実際上は効果のないものだと言わざるを得ない。特に 厚生労働省は、36協定や一年単位での変形労働時間制等の 労使協定の締結等、労働法規制の緩和・解除等に「過半数 労働組合等から意見を聴取した(または賛同を得た)場  合、その限りにあらず」といった要件をよく使うが、現実 の就業規則の届出を見ても、ほとんどが労働組合がなく、 経営側総務責任者が従業員代表になったり、労働組合が  あっても圧倒的に労組側が弱い労使協調(依存)型であ  り、その意味のない実体は、彼ら自身がよく知っているこ とだ。
  すなわち「①派遣労働者は、3年毎に異なった派遣契約 を繰返し、いくらスキルアップの努力をしても正規労働者 になれない。②一方、派遣先事業所は本来、一時的・臨時 的業務に限って派遣労働者を受入れるべきところ(常態的 に必要な事業・業務については正規雇用で対応すべき)  を、小手先の『過半数労働組合等から意見を聴取した』こ とで、派遣労働者を入替えさえすれば、人件費の安価な派 遣先事業所として継続することができる」ということにな る。その結果、非正規雇用労働者の増大・蔓延化と、より 一層の正規労働者との格差拡大を招くことが十分、予想さ れる。
2.派遣元が、3年限度の派遣労働者に対して、本気で新た な就業機会(派遣先)の提供等や均衡待遇の確保・キャリ アアップを推進するか。
 (1)「派遣元事業主は、新たな期間制限の上限に達する   派遣労働者に対し、派遣労働者が引き続き就業するこ   とを希望する場合は、新たな就業機会(派遣先)の提   供等、雇用の安定を図るための措置を講ずることを義   務付ける」との規定は、これまでも「派遣元・派遣先   が構ずるべき指針」に労働者派遣契約途中解約等の場   合に類似の規定があったが、あまり守られていない有   名無実な規定である。
   実際上の労働相談の実例を紹介して説明してみよう。
    一つは派遣元事業所が「新たな派遣先事業所を探し   ているのだ」と言いながら、実際はサボタージュして   いるケース。
    二つは労働条件のより悪い派遣先事業所ばかりを紹   介するケース。
    三つがダメもと(不採用)で紹介予定派遣応募さ    せ、「雇用の安定を図るための措置を講ずること」を   したと開き直るケース。等であり、3年限度(更新)   の派遣労働者に派遣元事業所が本気度をもって「雇用   の安定を図るための措置を講ずる」とは到底、思えな   い。
(2)「派遣元事業主と派遣先の双方において、派遣労働者
  の均衡待遇確保のための取組を強化する」も、経営側に  とって、そもそも派遣労働者と
   正規労働者との均等待遇が実現されれば、安価な人件  費の活用メリットがなくなり、本音として反対をせざる  を得ない。
(3)「派遣元事業主に計画的な教育訓練等の実施を義務付  けること等により、派遣労働者のキャリアアップを推進  する」も同様に、3年限度(更新)の派遣労働者に派遣  元事業所が本気度をもって取組むとは到底、思えない。
   もし本気で「派遣元事業主に計画的な教育訓練等の実  施を義務付ける」ことを実効あるものにするためには、  派遣元事業所の協同組合化を図り、そこで「計画的な教  育訓練等の実施」を行わせ、教育訓練に参加しない派遣  元事業主には許可条件も剥奪するぐらいのことをしない  とだめだろう。

四 派遣労働者の実態
1.派遣労働者(所)数等の実態等
  派遣労働者(所)数の変遷は、労働者派遣法が最初に成 立した1985年度には14万人であったのが、適用対象業務を ネガティブリスト化した1999年度には107万人、2002年度 には213万人と急増し続け、ピーク時は2006年度の約321万 人を記録した。
  また労働者派遣事業所数も、2006年には一般派遣事業所 数(許可制)18028事業所、特定労働者派遣事業(届出  制)23938事業所となっている。因みに直近2013年度は、 一般派遣事業所数(許可制)17539事業所、特定労働者派 遣事業(届出制)66308事業所となっている。
  さらに登録型派遣の場合の雇用契約期間では、「3月以 上6か月未満」が31.7%と最も多く、次いで「6か月以上 1年未満」21.9%、「3か月未満」17.5%、「1年以上3 年未満」13.1%の順となっている。
  厚生労働省の意識調査であるが、派遣労働者を就業させ る理由については、「欠員補充等必要な人員を迅速に確保 できるため」とする事業所が74%、次いで「一時的・季節 的な業務量の変動に対処するため」50.1%、「常用労働者 数を抑制するため」22.9%となっている。
  派遣労働者を年齢階級別に見ると、20歳~34歳という若 年層で6割を占めている。派遣労働者の派遣事業での構成 は、登録型が約61.6%、常用雇用型が38.4%である。常用 雇用型派遣労働者では男性が多く、1日8時間、週5日労 働であり、月給が多く、平均年収は約337万円である。
  一方、登録型派遣労働者は女性が多く、1日約7時間、 週5日労働であり、時間給が多く、平均年収は約242万円 である。
  派遣労働者の意識では、26業務以外の常用雇用型及び登 録型において、「できるだけ早い時期に正社員として働き たい」と希望する者(約40%)が、「今後も派遣労働者と して働きたい」と希望する者(約30%)を上回っている。
 実際問題、公務員時代の派遣労働者からの労働相談でも、 よく聞いたが、現実は相当に悲惨なもので、「なんとか正 規労働者になりたい」一心で、少ない収入の中から資格・ 専門図書を購入して勉強するのだが、履歴書に派遣労働経 験があるだけで不採用ということも少なくない。また現実 には、派遣元と派遣先との力関係は派遣先の方が強く、派 遣先の理不尽な派遣契約途中解約に派遣元が対抗できず  に、結果として派遣労働者が、次の派遣業務も補償されず に犠牲(解雇)を強いられるということが日常的に行われ ている。
2.今臨時国会提出の労働者派遣法新改訂案に対する経営側 の姿勢。
  蛇足であるが、1995年頃、当時の一般社団法人 日 本人材派遣協会事務局との打合せの中で、「労働者派遣事 業も健全な産業として育成していくべき。そのためにはパ ソコン等の共通検定試験の実施、カフェテリアプランや退 職金共済制度(建設業退職金共済制度のようなもの)等の 横型移動である派遣労働者の福利制度の充実、資質の向上 を図っていかなければならない。派遣先事業所の事前面接 等はもってのほか」と熱く語ってくれた。しかし、それが 2008年頃に再びセミナー打合せでは協会企業役員が総入替 わりし、「同協会は、もっと派遣先事業所に利便性がある 事業に転換し、そのための政治的ロビー活動に傾倒すべ  き」との方向転換がされ、「夢破れ、落胆した」との感想 を漏らされたことを聞いたことがある。
  それから今や、低賃金の労働者派遣事業、そして年収の 高い労働者には残業代カット(今のところ年収1千万円以 上)で日本の総人件費抑制を完成させようとする意図が窺 える。特に最近の経営側の発言を聞くと、一部の正規社員 (エリート)と安価で大量な非正規雇用等で雇用市場を再 編し、国際競争力を維持・高めようとする意思が見えてく る。
  また最近のテレビニュースでは、経団連会長が「3年を 超えて派遣労働者を受入れる場合は、直接雇用義務がある が、『過半数労働組合等から意見を聴取した場合、その限 りにあらず』との骨抜きになった事」に安堵してか、「派 遣労働者を直接雇用していく気はない」と呟き発言をして いる、これでは「派遣労働者(非正規雇用)は、いつまで 経っても派遣労働者(非正規雇用)」という現代雇用形態 別身分制度と言わざるを得ない。

五 今臨時国会労働者派遣法の新改訂案に対する労働側の対 抗
 1,労働者派遣法の新改訂案を巡る国会状況等
   先ず10月28日、労働者派遣法新改訂案が衆議院本会議  で審議入りした。ただ小渕優子前経済産業相・松島みど  り前法相等の「政治と金との問題」との追及を受けて、  実質審議は遅れ気味、国会会期内成立が危ぶまれた。
   また民主党は「廃案に全力」を表明し、衆院厚生労働  委員会では与党側の相当の不手際・混乱等もある中、与  党側は今国会で成立させようとする焦りが感じられた。
   しかし結果的に何故か突然の衆議院解散となり、労働  者派遣法の新改訂案も審議未了で解散後の次期国会で再  提出の見通しだ。
そこで私が強く主張したい事は、選挙闘争自体の取組  みもさることながら、今の内に労働側の主体性のもった  「労働者派遣法改訂案」の誤謬性の暴露と集会・デモ・  書名等の大衆行動を積極的に提起し、反対世論を盛上げ  ることだと思う。と言うのも現状の強い与党と多弱の野  党との力関係は、選挙後も然程、変らないであろう中   で、院内闘争だけでは困難が予想され、国会審議の山場  には、かつての重要法案がそうであったように、マスコ  ミも反対世論も、その時に過熱しても「時、既に遅し」  で、概ねの決着がついていたのが、これまでの多くの実  態であったではないか。従って今、同時に闘うべきこと  は、マスコミ報道が低調なこの時期であっても、その大  衆的反対世論と行動を背景に国会内外の闘いの態勢を構  築することが、強い与党と多弱の野党との力関係の中で  も有効に対抗できる戦略・戦術と言える。
 2,今、闘うべき労働側対抗策
 (1)これまでの労働側の取組み
  ①連合の取組み
   連合は「労働者派遣法改正に向けた連合の考え方」   (第24回中央執行委員会確認/2013年9月12日)で、相  当に網羅的に考え方が示されており、一読に値する。
   また昨年9月25日、連合は「STOP THE格差社会!暮ら  しの底上げ実現9.25労働者保護ルール改悪阻止 行動開  始宣言集会」を実施し、労働者保護ルールの改悪阻止を  中心とする、「STOP THE格差社会!暮らしの底上げ実   現 キャンペーン」第3弾をスタートさせた。
   さらに国会前において、「10.29労働者派遣法の改悪  阻止を求める国会前座り込み行動」を実施した。こうし  てみると、連合のこれまでの取組みは、労働界の中心部  隊としての政治的役割を一定、果たしたものと評価でき  る。
   ただ連合が、実質的な派遣労働者(非正規雇用)の闘  いの中心的担い手に成り得るかについては、相当の限界  性があると思う。
   その一つ目は、連合は大企業をはじめとした労組が主  な構成組織であって、最近でこそ非正規雇用労働者への  組織化も触手を伸ばしているものの、まだまだ非正規雇  用労働者の利害を代表する組織実態に至っていない。
   二つ目は、連合(大阪)を現役時代に労働行政の立場  から側近にて見た事だが、一部個別の産別・単組と経営  側との労使癒着ぶりは相当なもので、ある労働相談事例  では、某大企業において偽装請負が堂々と行われてお   り、おまけに某大企業正社員による労災作業(鉛作業)  まで指示しているのである。そして某大企業には連合大  阪地域協主力組合があり、その事実も知っているのだ   が、見て見ぬふりである。また企業名こそ挙げないが、  経団連元会長企業における偽装請負事件に代表される大  企業において繰返される違法派遣・偽装請負に対する当  該連合加盟労組の無批判・ノーチェック。更に、ここで  は詳しく述べないが、松下電器等の偽装請負を批判した  「要論文」に対する電機連合からの抗議→連合大阪幹部  による要氏無断謝罪文提出事件。事々然様に個別の具体  事案になると、派遣労働者(非正規雇用)の立場からで  はなく、現実の企業別(本工)組合と経営側との「良き  (一体的)労使関係」を優先し、問題を回避するのであ  る、
   これでは派遣労働者(非正規雇用)の信頼は得られな  いどころか、むしろ利敵行為に走る可能性さえある、
②全労連・全労協の取組み
 ア.全労連は。労働者派遣法新改訂案要綱が出された段階  から「労働者派遣法『改正』法案要綱」を労働法制改悪  反対闘争本部名で発表し、網羅的に整理し示されてい   る。
 イ.全労連は、その後も基本的には国会状況の節々に応じ  て労働者派遣法新改訂案の批判・意見等を継続的に発表  している。
 ウ.全労連と全労協等で構成する雇用共同アクションが10  月29日、国会前座り込み行動、安倍雇用改革に反対する  請願 署名等を断続的に取組まれている。
 エ.ただ全労連は派遣労働者(非正規雇用)を主体とした  組織形成には至っておらず、産別・単組と各地域毎に合  同労組を組織しているのが主要構成である。今後、派遣  労働者(非正規雇用)問題が、よりクローズアップされ  て来ることに備えて一定、準備を進めておくのも良いの  ではないか。
③労働者派遣関係ユニオン
 労働者派遣関係ユニオンには、連合加盟の全国コミュニティーユニオン(全国ユニオン;9組合加盟;4組合オブザーバー)が最もまとまっており、また非正規労働者の権利実現全国会議が継続的に署名活動と講演会を行っている他、NPO派遣労働ネットワーク、派遣労働ネットワーク関西、等々があるが、個々のユニオンでの独自性が強く、日常的に実態として連携・協力関係が弱いように思える。今後、更に共同した情報交換から行動への追求が求められる。
(2)どのようにして派遣労働者を集団化・組織化すればよ  いか。
   これまでの労働相談等を通じて感じた派遣労働者の群  像特性は、既述の「三-1派遣労働者(所)数等の実態  等」に加え、特に根拠がないが、意外と派遣労働者間の  情報交換・友達感覚の結びつきはあるように思える。
   ただ、それ以上のものでもなく、個々人が別々に派遣  労働に携わっていることもあって、共通基盤による組織  化・集団化までには至らない。そして一度、派遣先・元  事業所と違法な事案があると、泣き寝入りする者も多い  が、違法を糾すために交渉・裁判まで起こす者も少なく  はない。
   そこで的確な方策を提起できないが、傾注すべき事柄  について羅列してみよう。
  ①先ず労働者派遣関係ユニオンの実質的・日常的な連   携・協力から共同行動化の模索・追求は必要である。例  え、それが派遣労働者の闘いの中核的組織にならずと   も、派遣労働者にとってみれば、労働相談をするにも団  体交渉等の闘いを依頼するにも、個々別々に対応するよ  り連携・協力されている方が効率的であるし、経営側と  においても対抗的力関係が増す。
   ここで蛇足であるが、かつて派遣ユニオン関係ではな  く、一般合同労組であるA合同労組がコミュニティーユ  ニオンに加入希望があって、私自身が仲介の労を取った  ことがある。結果的にコミュニティーユニオン側は加入  を認めたものの、あまり快い返答でもなかった。その理  由はA合同労組実質指導者(当時;書記長)の若かりし  頃の労働争議の経過、及び所属党派への不信等があった  ようである。
   よく古くからある合同労組には総評地区労の流れも   あって、1970年代前後の学生運動・党派闘争等の経験者  が、いまだに役員の中心人物になっている場合が多い。  それが今日的に幅広ネットワーク志向で共同行動を考え  るべきときに、その時の学生運動・党派闘争等の発想・  思考等が払拭できずにいるのではと思うこともある。
   この際、明確に言って、1970年代前後の学生運動・党  派闘争は間違っている。いい加減に、その時のノストラ  ジア・拘りは捨て去り、今日の時代にあった運動形態と  構築に発想転換と貢献をしてもらいたい。
  ②これからの労働市場をイメージ的に推察すると、多数  の低所得者(年収200~300万円)の派遣労働者(非正規  雇用)層と少数の正規雇用(年収500~60万円以上)層  に二極化が進み、これが労働者派遣法の新改訂案が施行  されると、より一層、格差拡大と固定化が進むであろ   う。それでも派遣労働契約が繋がっている間は、例え貧  困で不満が積もっても、かろうじて我慢を強いられるか  もしれない。しかしリーマンショックのように一度、大  量派遣切り・雇用調整が行われると我慢も限界に達し、  不満が噴出-行動化に転じるであろう。過去にあった派  遣村、貧困ネットワークの取組み等が、その現象の一部  と言えるだろう。
   問題は、その「行動化」であるが、そもそも組織化し  にくい派遣労働者(非正規雇用)である上に、労働組合  等の動員・上位下達で大衆が「行動化」する時代的風土  にもない。
   どちらかというと、「反原発」「集団的自衛権反対」  の国会包囲行動に見られたように、市民自発型に変化し  てきているし、その方が広がりも見られる。
   従って、今後の労働者派遣法の新改訂案撤回の継続し  た闘いを構築する上でも、できるだけ連合・全労協・派  遣ユニオン関係等が、共同署名の作成と取組み時期の統  一化、一斉の改悪内容の暴露宣伝(ビラまき等)、国会  包囲行動の統一日程の調整、そして更なる行動提起等、  どちらかと言えば根回し、下働きに徹するような取組み  が望ましいのではないか。
  ③派遣労働者(非正規雇用)の福利厚生制度の繋がり。
   既述のとおり、かつての一般社団法人 日本人材派遣  協会事務局の意見聴取内容を多少、紹介したが、私は今  からでも福利厚生事業を通じた派遣労働者間の繋がりプ  ランは、困難であろうが、発想としては可能であろうと  思う。
   <「派遣労働者の福利厚生制度の繋がり」解説>
   ア.先ず派遣労働者は個別派遣元会社と労働契約を締    結すると同時に新たに設立する派遣福祉事業団(仮    称)にも会員登録(500円程度の会費納入有り)を    行う。
     なお派遣労働者は、一定期間毎に個別派遣先会社    から就労証明を交付され、それを派遣福祉事業団     (仮称)に提出することにより、後の就労実績の証    明とする。
   イ.個別派遣元会社は、人材派遣協会に会員登録する    ことを原則とし、全体の会社規模・マージン率等に    応じた会費を納入する。
   ウ.人材派遣協会は、派遣福祉事業団(仮称)に一括    して会員登録と会費納入(出資)を行う。
   エ.大阪府は、派遣労働者の労働福祉向上の観点から    相当額を出資する。
   オ.派遣福祉事業団(仮称)は、各団体等から寄せら    れた出資金等を元に次の三大事業を行う。
    a,労働契約解約時(3年限度)における就労実績     に応じた退職一時金を支払う。
    b.派遣労働者が会員登録する事により、カフェテ     リアスプランの利用を容易にする。
    c.大阪労働局からの委託による一般労働者派遣事     業許可更新(3年毎)等の研修の実施。
   カ.大阪(都道府県)労働局の役割
    a.個別派遣元会社(特に一般労働者派遣事業)に     対し、人材派遣協会への加入勧奨を行いながら、     派遣福祉事業団(仮称)への加入を指導する。
    b.派遣福祉事業団(仮称)に対し、特に一般労働     者派遣事業許可更新時(3年毎)研修の実施を委     託する。(既に全国民営職業紹介事業協会では職     業紹介責任者講習を実施している)
     *派遣福祉事業団(仮称)は、研修未受講会社に     ついて大阪労働局に報告する。
    c.研修未受講会社に対し、受講追加指導を行いな     がら、なおかつ受講追加指導に従わない個別派遣     元会社については「許可(更新)」を取消す。
    d.派遣労働者に対し、個別派遣元会社の適切な情報     提供に資するため、一定期間毎に許可した個別派     遣元会社(特に一般)リスト(あるいは「不許可     個別派遣元会社リスト」)を公表する。
    e.健全な労働者派遣事業の目的に反する行為を繰返     す個別派遣元会社に対しては、特段の個別指導を     行い、企業名の公表・罰則の適用等を行う。       (例;賃金未払い、苦情処理の放置、偽装請負、      等々)
   <本件プランの目的(効果)と困難性、等>
   (1)本件プランの目的(効果)は、以下の事が考え     られる。
     ①いきなり闘う派遣労働者組織を構築するより、     緩やかな福利厚生事業を通じた繋がり(下地)を     醸成する方が現実的である。
     ②いずれ派遣労働者が多数・増大する事が時代の     必然なら、むしろ健全な人材派遣産業の育成と安     心な派遣労働者の横型移動の環境条件づくりを為     した方が得策である。
     ③個別派遣元会社が⑵人材派遣協会に会員     登録(会費納入有り)すること等から、実質的に     派遣労働者の人件費コストは上昇する。その事に     より一定、正規労働者との格差拡大に歯止めをか     ける。(つまり事実上の「同一価値労働⇔同一賃     金」に近づける。)
(3)本件プランの困難性
 ①本件プランは、現役時代に業務上で提起したこともある が、橋下知事登場→財政総見直しで吹っ飛んだ。
 ②労働行政は、「労政行政」「労働福祉行政」「職業安定 行政」「雇用対策(と言っても就労支援)」が主な柱だ  が、今の大阪府労働行政幹部は「雇用対策(就労支援)」 しか、ほとんど関心がなく、基本的に「労政行政」「労働 福祉行政」は素人論議の中で撤退論である。
    (「職業安定行政」は労働局管轄となっている。)
 ③本件プランを実現遂行するためには、権力行政を担う大 阪労働局と民間団体等[派遣福祉事業団(仮称)・人材派 遣協会等]を繋ぐ大阪府のコーデネート役は極めて重要  であるが、本件プランのような「労働福祉行政」積極策  は、現状では議論すらできる状況にない。
*従って本件プランは、今後の施策検討の参考に資していただければ幸いである。

六 最後に本論文で、改めて特に主張したいのは以下のとお りである。
 1.労働者派遣法新改訂案は、今から大衆行動化を起こす  必要があること。
 2.同時に派遣労働者について、福利厚生制度の導入等で  労働条件の向上を図り、経営側に「派遣労働者は一時   的・臨時的な雇用」はあっても、「安上がりの人件費道  具ではない」という認識に改めさせていく必要があるこ  と。
 3.上記「2」に対して経営側(及び政府)の反発が相当  に予想されるが、まさにそれ自体が労働側と経営側の利  害対立であることを明確に認識しておくべき。

 なお労働行政現場からの具体的な派遣労働者問題は、①理不尽な派遣先事業所の途中解約や派遣労働者の交替要請(または補償のない不当解雇)、②派遣労働者に対する派遣先事業所の業務ミスの責任転化、③派遣先事業所におけるパワハラ・セクハラ等、④派遣先事業所における未払い残業の強要、⑤偽装請負と労働者派遣法違反の繰り返し、⑥労災隠し、等々、数多く出会ったが、大阪労働局担当者に聞くと、そもそも人材派遣元事業所自体、過剰気味で、実質的には3年毎の許可条件にも対応できない(組織力量のない)零細な事業所も数多くある。また零細な事業所ほど労働者派遣法違反も多いようである。
 この際は、派遣労働者のトラブルのない横型移動を守るため、過去の違反・苦情実績や許可研修実績(3年毎)、派遣労働者への教育訓練実績等を鑑みて、コンプライアンスが確保できない人材派遣元事業所には、遠慮なく許可を取消す等、整理淘汰した方が、労働者派遣元事業所の健全育成のためにも良いだろう。(民守 正義)